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    「説明できない」31.政変
    赤クロ青ロレの話です。

     ガルグ=マクにいた頃ローレンツから教えてもらった通りファーガスで政変が起きた。それをデアドラにいたクロードがいち早く察知できた理由はたった一つ。密偵を放つならばアンヴァルだという家臣たちの意見をねじ伏せローレンツの言葉を信用し帰郷してすぐにフェルディアに大量の密偵を放ったからだ。

     クロードの記憶では帰国したディミトリは国内の混乱を抑えるためにすぐに即位している。雪山の中で手際よく不慣れなレスター出身者に指示を出していた姿はクロードの記憶の中のディミトリと一致していた。一体何が現在の彼を躊躇させたのだろうか。子供の頃から彼をよく知るフェリクスもシルヴァンもイングリットも早く王位を継ぐべきと考えていてフェリクスが嗾ける姿はクロードも目撃している。フェルディアで何があったのか気になるが引き続き調べさせるしか今のクロードにはできることがない。

     祖父の死によってクロードの盟主代理という役職から代理という単語が取れた。会議室に揃ったクロードを値踏みしている出席者の顔ぶれは記憶通りで皆、表情には出さないがお手並み拝見と思っていることだろう。とりあえずクロードはローレンツのお陰で出席者の誰よりも早くファーガスの政変に気付くことができた。前回とはそこが違い諸侯に対してかなり優位に立てている。ディミトリがすぐに即位していた時は内輪揉めのふりをして帝国からの介入をふせぐという方針に従わせるのにかなり苦労したがファーガスの今の情勢を鑑みれば簡単に説得出来るかもしれない。

    「帝国もセイロス騎士団にはかなり手を焼きましたからな。下請けがファーガスをなんとか出来そうなら任せたいところでしょう」

     やり手と評判であるエドマンド辺境伯はそう語るとぬるくなった紅茶に口をつけた。ファーガス公国は帝国の傀儡国家だが兵は現地のものだ。勝とうが負けようが帝国軍の本隊に傷は付かない。彼らがファーガスの大部分を実効支配出来れば後は反対勢力を小さな輪の中に囲い込んで封鎖しファーガス公国に旧王家派の諸侯を任せて無傷の同盟領侵攻に本腰を入れる。こちらの世界のエーデルガルトも中々のやり手のようだった。

    「ダスカーの悲劇を起こしたのも帝国だ。帝国は随分と昔からファーガスに"投資"していたらしい。回収したい筈だ」
    「では妨害するしかない」

     当然、帝国は同盟にも何らかの"投資"していた訳でそれを回収する際は真っ先に攻め込まれるグロスタール伯が無表情のまま淡々と呟いた。これがローレンツなら眉間に皺を寄せ声も荒げていただろう。それを未熟さと評価するか素直さと評価するかは人による。ローレンツの表情が豊かなところは母親からの遺伝かもしれない。しかしいつぞやの上屋敷での頑張りを見るに父親の血も濃く受け継いでいるのだろう。あの晩のことを詳しく思い出せば会議どころではなくなるのでクロードは慌てて暴走する脳に歯止めをかけた。

    「グロスタール伯、その通りです。あれだけの投資をしたなら後には引けない。だから旧王家派を援助しましょう」

     後少しで封鎖が完成するという時期を見計らって旧王家派を援助すれば彼らの視線はファーガスに集中し何なら帝国本土から部隊を派遣することもあるだろう。彼らに少しずつ兵力を削いでもらえる。

    「援助と言ってもパルミラとの国境も守らねばならない我々は兵を割くことはできない」

     それまで黙っていたヒルダの兄ホルスト卿が初めて口を開いた。実際は王子がフォドラに潜入するからという理由でフォドラへの大規模な侵攻は停止させているのだがまだクロードはそれを明かすわけにいかない。クロードはホルストの言葉に頷いた。

    「援助と言っても金と物資だけです。旗や兵は出さない。商人たちを使いましょう。当分、帝国との商売が出来ないから彼らはファーガスに活路を見出さざるをえない」

     緩衝国を用意しておいたエーデルガルトたちのやり口を真似させてもらうことにした。あと少しでファーガスを我が物に出来そうだと言うくらい旧王家派が押されたら彼らを援助して帝国の視線をファーガスに集中させる。帝国本土から部隊が派遣されたらそれも彼らに削ってもらう。

    「盟主殿」

     口元は笑っているが目が全く笑っていないエドマンド辺境伯が再び口を開いた。

    「その場合、同盟は放置しておいても問題なしと帝国に自発的に判断させねばならないがそこはどうするのだね」
    「その為には同盟内にも"ファーガス公国"が必要です。グロスタール伯には親帝国派の諸侯を取りまとめていただきたい」

     自分に向けるエドマンド辺境伯の視線が冷たくなったことをクロードは自覚した。物資はおそらくエドマンド領から船でガラテア領やゴーティエ領に運ぶことになる。つまり密貿易だ。利益は多大なものになるが敗戦した場合はエドマンド領がフリュム領のような扱いを受けかねない。

    「先方が我々を下請けだと思い込めばそれで良い訳だな?」

     一方でグロスタール家はどう転んでも有利だ。仮に敗戦したとしても地位が揺らぐ可能性が低い。

    「そうです。そうやってミルディンに蓋をする。全力で演技すれば数年はもつ。今は何よりも時間が貴重だ。何年か戦争状態が続けば必ず帝国の民衆も嫌気のさす瞬間が来る。その時を狙って皇帝を交渉の場に引きずり出したい」

     諸侯はとりあえずクロードの方針に納得してくれたようだった。しかしクロードは本当のことを話していない。実際に当てにしているのは厭戦気分などではなくセイロス騎士団だ。四年前はディミトリに取られてしまったが今度はどこへ向かうにも便利なガルグ=マクごとクロードが彼らを取り込みたい。クロードはセイロス騎士団が復興するまでの時間を稼ぎたいだけだった。
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    DONE #クロロレ春のこども祭り2021重力から自由になったと思った矢先、クロードは全身に強い痛みを感じた。跳ね起きようとしてマヌエラ先生から身体を押さえられる。押さえられた拍子に視界がぐるぐると回りやがて上下が定まった。

    「落ち着きなさいクロード!貴方は飛竜から落ちたの。下敷きになったローレンツも骨折したわ。二人とも信仰魔法で治したけれど大怪我だったから落ち着くまで時間がかかるわ」

     落ち着く、とはなんだろうか。信仰魔法の主な副作用は吐き気と眩暈だ。先程マヌエラが起きあがろうとしたクロードを止めたのはせっかく治したのに目眩を自覚せず歩こうとして転倒されては無意味になってしまうからだろう。

    「ああ、それで視界がぐるぐると……それとローレンツが下敷きって??」
    「ローレンツも無事だから落ち着きなさい。目眩を起こしたまま歩くのは本当に危ないの。人によって体質の違いがあるけれど一日か二日は絶対安静よ」

    「せんせい、もうしわけないのだがおけをぼくのてもとにいただけないだろうか?」

     反対側の寝台から声変わり前の高くてかわいらしい子供の声がした。医務室の寝台には全て幕が掛かっていて互いが見えないようになっている。

    「ああ、 1753

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    5.初戦・上
     三学級対抗の模擬戦はクロード達の勝利に終わった。これもクロードの記憶とは異なっている。容赦のなかったベレスの記憶があるクロードは事前に何か工作するかベレトに探りを入れてみたが拒否された。こんな下らないことに全力を尽くすなという意味なのか気高い倫理観の持ち主なのかはまだクロードには分からない。腹下しの薬は冗談だったが賛同してもらえたら武器庫に忍び込んで他学級の使う武器の持ち手にひびを入れてしまうつもりだった。

     母国やデアドラと比べるとガルグ=マクは肌寒い。気に食わない異母兄が王宮で働く女官を寝室に引っ張り込むような寒さだ。それでも来たばかりの頃と比べればかなり暖かくなっている。過酷な太陽の光に慣れたクロードの目にも山の緑は目に眩しく映った。長時間、薄暗い書庫で本を物色していたからだろうか。廊下に差す光に緑の目を細めながら歩いていると大司教レアの補佐を務めるセテスに声をかけられた。クロードは規則違反に目を光らせている彼のことがあまり得意ではない。

    「ちょうど良かった。クロード、後でベレトと共にこちらに顔を出しなさい」
    「分かりました。セテスさんは先生が今どの辺りにいる 2100

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です。
    14.誘拐・下
     ローレンツとクロードの記憶通り事態は進行した。一つ付け加えるならばクロードがセテスにちょっかいを出したことだろうか。見当違いだと分かっていることを敢えてセテスに聞いたら先方が何故か安心した、とクロードから聞いてローレンツは眉を顰めた。やはりセイロス教会は何かを隠している。五年前から問題視していたクロードが正しかった。だがそれは大乱を起こす理由になり得るのだろうか。クロードは元から英雄の遺産と白きものについて探っていたがそれに加えてエーデルガルトが檄文で言及していた教会の暗部についても調べ始めた。

    「先に掴んで暴露してしまえば檄文自体無効になるかと思ったがそんな都合の良い案件は見当たらなかった。敢えて言うならダスカーがらみか?」
    「だがあれも機能不全に陥った王国の要請がなければ騎士団が担当することはなかっただろう」

     エーデルガルトが見つけたと称するセイロス教会がフォドラの全てを牛耳っている証拠とセイロス教会の秘密は同一なのだろうか、それとも違うのだろうか。探さねばならないものが増えてクロードは大変そうだ。大変そう、と言えばベレトも大変そうだ。彼は修道院内を丹念に探 2099