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    「説明できない」55.払暁・下
    赤クロ青ロレの話です。

     負けたら終わりというのは今までの戦いと変わらない。だが今回はガルグ=マク修道院防衛戦だ。かつて防衛戦で失敗したクロードを勝たせることには強い意味がある。意味を見出しているのはこの世でローレンツとクロードだけだが。

     死の匂いを纏った彼らは優秀な工兵まで復活させたのか投石器まで持参していた。戦場の殆どが彼らの攻撃範囲内になっている。スナイパーがうろつき
    どこから何が飛んでくるのかわからない。地図にない毒の沼を見てローレンツは唇を軽く噛んだ。小手調べに少し彼らを攻撃してみたが彼らは毒の沼に浸かって傷を治している。肉体を伴っているとは言ってもやはり亡者なのだろう。常識の通じない相手は厄介だ。

    「南北に別れよう。毒の沼を消す部隊と投石器を奪取する部隊だ。沼を消し終えたら一度俺のところに集合。皆、毒の沼が消えるまでは足元に気をつけて突出はしないように」

     最後、教え子たちに言い聞かせたくせにベレトは突出し彼に群がってきた敵を返り討ちにしている。ローレンツは魔防が高く耐性がある者たちを連れて毒の沼を発生させている魔道士を倒すことになった。パラディンやスナイパーを排除しながらローレンツたちは独の沼に佇む敵将を顔を見た。皆、見覚えのある誰かに似ている。同行するリシテアやマリアンヌも同じことを考えたようだ。

    「遺骨から復活させたとするとおかしなことになりますね」
    「そうなんです、ヒルダのご先祖さまならその可能性もありますが……」

     ファーガスの諸侯たちはその身に取り込んだ紋章石ごとフォドラ北部に埋葬されているはずだ。媒介になったものが遺骨でないならば幻影兵の類となる。

    「ネメシスの記憶を頼りに作った張りぼてだ。遠慮なく倒すのが先祖への礼に叶った振る舞いだろう」

     見覚えのある顔をしたグレモリィに向かって三人で一斉に魔法を放つ。アプラクサス、サンダーストームなど強力な魔法で反撃された。避けきれず左腕にひどい火傷をおったリシテアにマリアンヌが回復魔法をかけている。

    「すみません、しくじりました……。でもこれでサンダーストームは使い切らせたはずです」
    「次も行けそうですか?」

     あの全てに倦んであらゆる物に怯えていたマリアンヌが引き締まった表情でリシテアに奮起しろと言っている。彼女は自分が強くなれたのは先生とクロードのおかげだと言っていた。ローレンツも同じ思いだ。あのグレモリィは一対一ならば到底勝てる相手ではないが三人で粘り強く戦えば魔法を使い切らせることもできる。己の弱さを認め敵の強さを認め全力を尽くせばいい。

     とどめを刺したのがライナロックなのかシェイバーなのかルナΛなのかわからないが三人ともそんなことはどうでもよかった。足元を覆っていた毒の沼は消え失せ自由に動けるようになったのでこれでクロードたちのところへ行ける。ローレンツは自然と笑みを浮かべていた。

     ベレトに指示された通り交戦しながら少しずつ戦場の南方へ向かっていると弓砲台から矢が発射された。敵の放ったものかと思いローレンツは手綱を勢いよく引いて馬を急停止させたが矢は目の前のビショップを貫く。どうやら投石器と弓砲台の奪取にベレトたちは成功したようだ。皆これで攻撃に集中できる。

    「先生、クロード!ネメシス以外の将はすべて片づいたぞ!」
    「手こずらせてくれたが……これでようやく、ネメシスと同じ舞台に立てたってわけだな。」

     昔、夢中になって読んだ叙事詩のような光景がローレンツの目の前に広がっている。一対一の決闘でないから卑怯だと考える後世の者もいるだろう。だがこれは個の強さを至上とするか誰かと共に手を取り合うことを至上とするかの争いだから一対二であることに意味があるのだ。

    「若造ガ……!」
    「千年前に生まれたあんたからしたら、誰だって若造だろ」

     クロードは本当に口が減らない、と今日一日ドラゴンに跨りクロードの副官を務めていたヒルダが笑っている。以前、デアドラで彼が命を落とした時はこの気の強さが悪く出たのだろう。その気の強さを好ましく感じる仲間がいるかいないかで状況が変化していく。ローレンツもヒルダに釣られて笑ってしまった。

    「群ガル事デシカ……戦エヌ弱キ者ドモヨ!」

     ネメシスの持つ強さは昔のローレンツの目を眩ませ判断を誤らせたものだ。そんな風に煽られても今は何とも思わない。もしローレンツがネメシスと切り結べる場所にいれば何の言葉も返さず無言で槍を突き出していただろう。

    「そうさ、俺たちは弱き者だ。だからこそ壁を乗り越え、手を取って、心で触れ合う――生きるために!」

     だがクロードは敢えて言い返していた。ローレンツは表情を崩さず彼の言葉を聞いていたが鼓動は高鳴り膝が抜けそうになっている。

     彼の言葉を真に理解出来るのはこの世でローレンツただ一人だ。どうせ理解されないと張り巡らせた壁を互いに乗り越え二人で手を取り心を触れ合わせた。この大乱の世を生きるために、その先の世を生きるために。

     ベレトの振るう天帝の覇剣がネメシスの身体を切り裂き軍勢も灰となり消滅していった。毒の沼もなく味方の兵の亡骸以外はもう戦いの痕跡は残っていない。兵たちの勝鬨が上がる中、ローレンツはそっと籠手の内側を口に咥えた。この部分は革手袋になっていてここを押さえて指先を反対の手で逆側に引っ張れば籠手は自力で外すことができるのだ。無作法なのでローレンツは人前で籠手を外すことを今まで避けていた。

     しかし今ばかりは無作法を疎んじていられない。他の者に見られる前に手巾で頬を伝う涙を拭いたかったからだ。
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    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    7.背叛・上
     皆の初陣が終わるとクロードの記憶通りに事態が進みロナート卿の叛乱の知らせがガルグ=マクにもたらされた。養子であるアッシュへセイロス教会からは何も沙汰が下されていない。軟禁もされずアッシュの方が身の潔白を証明するため修道院の敷地内に閉じこもっている。鎮圧に英雄の遺産である雷霆まで持ち出す割に対応が一貫していない。前節と同じく金鹿の学級がセイロス騎士団の補佐を任された。クロードの記憶通りならばエーデルガルト達が鎮圧にあたっていた筈だが展開が違う。彼女はあの時、帝国に対して蜂起したロナート卿を内心では応援していたのだろうか。

     アッシュは誰とも話したくない気分の時にドゥドゥが育てた花をよく眺めている。何故クロードがそのことを知っているかと言うと温室の一角は学生に解放されていて薬草を育てているからだ。薬草は毒草でもある。他の区画に影響が出ないようクロードなりに気を使っていたがそれでもベレトはクロードが使用している一角をじっと見ていた。

    「マヌエラ先生に何か言われたのか?致死性のものは育ててないぜ」
    「その小さな白い花には毒があるのか?」

     ベレトが指さした白い花はクロード 2097

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です。
    14.誘拐・下
     ローレンツとクロードの記憶通り事態は進行した。一つ付け加えるならばクロードがセテスにちょっかいを出したことだろうか。見当違いだと分かっていることを敢えてセテスに聞いたら先方が何故か安心した、とクロードから聞いてローレンツは眉を顰めた。やはりセイロス教会は何かを隠している。五年前から問題視していたクロードが正しかった。だがそれは大乱を起こす理由になり得るのだろうか。クロードは元から英雄の遺産と白きものについて探っていたがそれに加えてエーデルガルトが檄文で言及していた教会の暗部についても調べ始めた。

    「先に掴んで暴露してしまえば檄文自体無効になるかと思ったがそんな都合の良い案件は見当たらなかった。敢えて言うならダスカーがらみか?」
    「だがあれも機能不全に陥った王国の要請がなければ騎士団が担当することはなかっただろう」

     エーデルガルトが見つけたと称するセイロス教会がフォドラの全てを牛耳っている証拠とセイロス教会の秘密は同一なのだろうか、それとも違うのだろうか。探さねばならないものが増えてクロードは大変そうだ。大変そう、と言えばベレトも大変そうだ。彼は修道院内を丹念に探 2099