Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    111strokes111

    @111strokes111

    https://forms.gle/PNTT24wWkQi37D25A
    何かありましたら。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 290

    111strokes111

    ☆quiet follow

    「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。

    #クロロレ
    chloroethylene

    4.遭遇・下
     犠牲者を一人も出すことなく野営訓練を終えて修道院に戻ることが出来た。ローレンツのほぼ記憶通りではあるが異なる点がある。ベレトが金鹿の学級の担任になったのだ。正式に採用された彼は既に士官学校から学生の資料を貰っている。だがグロンダーズで行われる模擬戦を控えたベレトはここ数日、放課後になると学級の皆に話を聞くため修道院の敷地内を走り回っていた。

     ローレンツはあの時、模造剣を配ろうとしたのは何故なのかとベレトに問われたが予め野盗達に襲われているのを知っていたから、とは言えない。言えば狂人扱いされるだろう。

    「歩兵の足が早すぎたからだ。補給部隊が本体と分断されたら敵に襲われやすくなる」

     食糧がなければ兵たちは戦えない。敵軍を撤退させるため戦端を開く前に物資の集積所を襲って物資を奪ったり焼き払ってしまうのは定石のひとつだ。ローレンツの言葉聞いたベレトは首を縦に振った。

    「それで足止めして予備の武器を渡したのか。装備をどうするかは本当に難しいんだ。あの場合は結果として合っていたな。良い判断をした」
    「ありがとう先生。そう言ってもらえると霧が晴れたような気分になるよ」

     戦場の霧という言葉がある。斥候などを出して可能な限り下調べはするがそれでも敵軍や戦場の正確な現状を正確に知ることはできない。霧が出て覆い隠された状態で指揮官は決定を下しその責任をとる。ローレンツが命を落としたミルディン大橋にもその霧がたちこめていて霧の中にベレトがいた。

     ベレトは無表情かつとても静かに話す。声を荒げるところを聞いた者はいない。夜の闇のような瞳で彼からじっと見つめられるとローレンツの抱える秘密を見透かされているような気分になる。話題は得意とする武器へと切り替わっていた。

    「シルヴァンと同じく槍だ」

     ローレンツは反射的にベレトが青獅子の学級の担任であるかのように扱ってしまった。例えとして出すにしても唐突すぎる。レオニーと同じく、と言うべきだった。

    「シルヴァンとローレンツは槍が得意なのか。覚えておこう。そうか、フェルディアにいたからファーガスの者に詳しいのか」

     今日は天気が良くベレトとローレンツ以外にも中庭で沢山の学生が暖かい日差しと世間話を楽しんでいる。こうした時間を共有することで学級の垣根すなわち出身地の違いを超えて同じ体験をした者同士が親しくなっていく。後の戦乱を知る身からすれば涙が出そうなほど平和な光景だ。学級の垣根を超えて結んだ友情は五年の時を経て不本意な結果に終わっている。少なくともローレンツとシルヴァンに関してはそうだった。

    「そうだな、確かにメルセデスさん、アネットさんとは魔道学院にいた時からの顔見知りだ」
    「ありがとう、参考になった」

     そういうとベレトはリシテアを探して立ち去った。うまくやり過ごそうと緊張していたのか汗が白い背中を伝っていく。ふとした拍子に過去の記憶が言動に現れてしまわぬように今後は更に気をつけねばならない。

    「よう、ローレンツ。そんなにファーガスの連中に詳しいなら俺にも聞かせてくれよ」

     クロードはいつから話を聞いていたのだろうか。ローレンツはベレトが違和感を感じていないかどうか気にかけるあまりクロードが耳をそばだてていると分からなかった。

    「君は人より建物の方が好みだろう?」

     クロードの言動は今のところローレンツの記憶と大きく異なる点がない。先日も夜中に勝手に出歩いているところに出くわした。あの時は彼の資質を疑ったが後にエーデルガルト相手に五年間ものらりくらりと誤魔化し続けたことを今のローレンツは知っている。あの時、彼が見誤ったのはディミトリの立ち直る力だけだった。

    「先生には興味があるぜ。あの人には何か秘密があるはずだ」

     目の前に誰にも言えない秘密を抱えた者がいると知らず好奇心に目を輝かせるクロードとローレンツは一才しか歳は離れていないが精神的には六歳の差がある。

    「暴くのではなく打ち明けさせてこそ、だろう。信頼を得たかったら闇雲に腹を探ろうとするのはやめることだ」
    「そっちこそ闇雲に女子に声かけるのやめろよ。言い寄られるようになってこそ、だろ?」

     だが円卓会議で海千山千の大人たちと立派に張り合っていた片鱗はもう見え始めていた。つまり痛いところを正確に突くのだ。

    「なっ!僕はシルヴァンとは違う!本気で共に領地を治めてくれる配偶者を探しているのだからな!」

     戦争が終わってから配偶者探しを再開しようと考えていたローレンツは結局独身のまま生涯を終えている。愛する人がいたら降伏や敵前逃亡をしていたかもしれないがそれでも今度は生涯を共に過ごす相手が欲しい。

    「資質を磨かなくても良い立場な奴は気軽で良いねえ」
    「言っておくがあくまでも勉学のついでだし君に対する監視の目を緩める気はないからな」

     そうすればローレンツはクロードのうちに立ちこめる霧が晴れる時を見逃さずに済むのかもしれない。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💘💘🙏🙏🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    111strokes111

    MAIKING「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です。
    13.誘拐・上

     フレンが行方不明になった。クロードとローレンツは誘拐犯がイエリッツァであること、彼が死神騎士でありエーデルガルトの手の者であることを既に知っている。ローレンツが知る過去ではディミトリたちがフレンを見つけクロードが知る過去ではベレスとカスパルがフレンを見つけている。

    「ではこの時点でベレト…失礼、言い慣れないもので。ベレス先生は現時点で既に教会に不信感を持ち敵対すると決めていた可能性もあるのか」

     ローレンツの知るベレトは教会と敵対せずディミトリに寄り添っていたらしい。記憶についての話を他の者に聞かれるわけにいかないので近頃のクロードはヒルダにからかわれる位ローレンツの部屋に入り浸っている。彼の部屋に行けばお茶と茶菓子が出るので夜ふかし前に行くと夜食がわりになってちょうど良かった。

    「そうでもなければあの状況で親の仇を守ろうとしないと思うんだよな」
    「だが今、僕たちの学校にいるのはベレト先生だ」

     ベレスは戴冠式に参加していたらしいのでそこで何かあった可能性もある。クロードはどうしてもかつての記憶に囚われてしまう。

    「大手を振って何かを調べる良い機会なのは確 2090