Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    111strokes111

    @111strokes111

    https://forms.gle/PNTT24wWkQi37D25A
    何かありましたら。

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 310

    111strokes111

    ☆quiet follow

    我々が少しでも道を逸れていたらレスター連邦国の歴史は全く異なっていた筈だ。おそらくその方が良かった、と主張する者の方が多いだろう。

    クロロレワンドロワンライ第40回「くちづけ」 パルミラ軍の軍勢は近年稀に見る規模である、との報を受けクロードたちは急遽防衛の任にあたることとなった。こんなことさえなければフェルディアやアンヴァルへ出向いた青獅子や黒鷲の者たちを尻目にガルグ=マクでのんびり読書や探索をしていられたはずなのにどこの馬鹿者がフォドラに攻め込んできたのだろうか。
     物見櫓から降りてきたクロードは改めて母国パルミラの好戦的な将軍たちの顔を脳裏に思い浮かべた。しかし彼らにはあれだけの兵を集める権限がないのだ。嫌な予感がする。

    「クロードくん、どうだった?」
    「ホルストさんが言う通りとんでもない、の一言だ」
    「君の我儘で上ったのだ。判明したことを具体的に言いたまえ」

     フォドラの首飾りと呼ばれる難攻不落の要塞はヒルダ曰く名字と両親と髪と瞳の色以外共通点がない兄のホルストが守将を務めている。そして到着した時の挨拶から察するにどうやらホルストとローレンツ親子は面識があるらしい。きっとヒルダとローレンツも入学以前から顔見知りなのだ。クロードにはこのような蓄積された人間関係というものがパルミラでもフォドラでも構築出来ていない。他の王子たちは母親の実家をあてにできるがフォドラとパルミラの間に国交がないのでリーガン家はゴドフロアが死ぬまでクロードのことを黙殺してきた。そしてフォドラには数年前に来たばかりとくれば士官学校で地道に交友関係を広げていくしかない。学生という身分は祖父オズワルドからの贈り物だ。

     ヒルダは可憐で怠惰な貴族のお嬢様だが最前線の子供でもある。首飾りに到着し緊張する他の者とは逆に寛いでいていた。通りかかる熟練兵たちと気さくにやりとりをしている姿を見れば分かる。試しにクロードが物見櫓に上れないか聞いてみると彼女は快諾しその辺を歩いている兵ではなくわざわざ兄のホルストから許可を取り付けてくれた。彼が久しぶりに会えた妹のささやかな願いを叶えてくれたのでヒルダは大袈裟に礼を言いながら兄に抱きついて頬に口付けまでしている。皆がヒルダとホルストを囲み囃し立てていた。
     腹違いの姉妹たちよりヒルダの方がクロードを弟のように扱ってくれる。姉妹とは本来こんな存在なのだとクロードに教えてくれたのは彼女だ。可愛くて誇らしくて幸せを願わずにいられない。きっとホルストも同じ気持ちなのだろう。クロードはそこにつけ込んだわけだが。

    「ローレンツ、いつもと雰囲気が違うな」
    「む、仕方あるまい。最前線だぞ。緊張くらいするさ」

     喧騒に混ざらず少し離れたところから仲睦まじい兄妹を見つめるローレンツの視線は慈しみに溢れていた。いつものような厳しく査定する視線ではないことがクロードには興味深い。

    「いや、やっぱり実の兄がそばにいると品定め出来ないんだな、と思っただけだよ」
    「失礼な!僕はいつも真剣にお相手と向き合っている!ホルスト卿のことが少々羨ましかっただけだ。僕にも弟妹がいるから……」

     ローレンツは今クロードの目の前に立っているが紫の瞳はクロードではなく故郷に残してきた弟妹を見つめている。異母兄弟に虐められながら育ったクロードには良い兄というものが分からないがきっとローレンツは良い兄なのだろう。

    「そりゃ本当に失礼したな。俺からの詫びだ。受け取れ、兄上」

     クロードは誰にも見られないようにつま先立ちになってローレンツの白い顎に指を添え頬にほんの一瞬唇を押し付けた。彼の唇に指で触れたことはあるがこれは初めてだ。白い頬は思っていたより柔らかくて彼が嗜みでつけている香水と緊張してかいた汗の混ざった匂いがクロードの鼻腔を甘く刺激する。

    「なっ……!何をするんだ!」

     騒ぎを起こしたくないのか小声でローレンツが言い返してきた。

    「寂しそうにしてたからな」
    「妹には絶対近寄らないでくれたまえ」

     クロードは別にローレンツの義弟になりたいわけではない。では彼の何になりたいのだろう。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works

    111strokes111

    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    7.背叛・上
     皆の初陣が終わるとクロードの記憶通りに事態が進みロナート卿の叛乱の知らせがガルグ=マクにもたらされた。養子であるアッシュへセイロス教会からは何も沙汰が下されていない。軟禁もされずアッシュの方が身の潔白を証明するため修道院の敷地内に閉じこもっている。鎮圧に英雄の遺産である雷霆まで持ち出す割に対応が一貫していない。前節と同じく金鹿の学級がセイロス騎士団の補佐を任された。クロードの記憶通りならばエーデルガルト達が鎮圧にあたっていた筈だが展開が違う。彼女はあの時、帝国に対して蜂起したロナート卿を内心では応援していたのだろうか。

     アッシュは誰とも話したくない気分の時にドゥドゥが育てた花をよく眺めている。何故クロードがそのことを知っているかと言うと温室の一角は学生に解放されていて薬草を育てているからだ。薬草は毒草でもある。他の区画に影響が出ないようクロードなりに気を使っていたがそれでもベレトはクロードが使用している一角をじっと見ていた。

    「マヌエラ先生に何か言われたのか?致死性のものは育ててないぜ」
    「その小さな白い花には毒があるのか?」

     ベレトが指さした白い花はクロード 2097

    111strokes111

    MAIKING「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です。
    15.鷲獅子戦・上
     フレンが金鹿の学級に入った。クロードにとっては謎を探る機会が増えたことになる。彼女は教室の片隅に座ってにこにこと授業を聞いてはいるが盗賊と戦闘した際の身のこなしから察するに只者ではない。兄であるセテスから槍の手解きを受けたと話しているがそういう次元は超えていた。

    「鷲獅子戦にはフレンも出撃してもらう」

     やたら大きな紙を持ったベレトが箱を乗せた教壇でそう告げると教室は歓声に包まれた。これで別働隊にも回復役をつけられることになる。治療の手間を気にせず攻撃に回せるのは本当にありがたい。今まで金鹿の学級には回復役がマリアンヌしかいなかった。負担が減ったマリアンヌの様子をクロードが横目で伺うと後れ毛を必死で編み目に押し込んでいる。安心した拍子に髪の毛を思いっきり掻き上げて編み込みを崩してしまったらしい。彼女もまたクロードと同じく秘密を抱える者だ。二重の意味で仲間が増えたことになる。五年前のクロードは周りの学生に興味は持たず大きな謎だけに目を向けていたからマリアンヌのことも流していた。どこに世界の謎を解く手がかりがあるか分かりはしないのに勿体ない。
    2086

    111strokes111

    MAIKING「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です。
    16.鷲獅子戦・下
     ローレンツがグロンダーズに立つのは二度目だ。一度目はローレンツの認識からすると五年前でベレト率いる青獅子の学級が勝利している。敗因は堪え切れずに飛び出してしまったローレンツだ。更に危険な実戦で囮をやらされた時に堪えられたのだから今日、堪えられないはずはない。

     赤狼の節と言えば秋の始まりだが日頃山の中の修道院にいるので平原に下りてくると暖かく感じた。開けた土地は豊かさを保証する。グロンダーズ平原は穀倉地帯でアドラステア帝国の食糧庫だ。畑に影響が出ない領域で模擬戦は行われる。模擬戦と言っても怪我人続出の激しいもので回復担当の学生はどの学級であれ大変な思いをするだろう。

     ベレトが持ってきた地図を見て思うところがあったのかクロードは慌ててレオニーとラファエルを伴って教室から駆け出し書庫で禁帯出のもの以外グロンダーズに関する本を全て借り上げてきた。皆に本を渡し地形描写がある物とない物に仕分けさせた。この時、即座に役に立たない本だけを返却させている。情報を独占し他の学級に無駄足を踏ませた。クロードのこういう所がローレンツは会ったこともないべレスから疎まれたのかもしれない。
    2376