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    「説明できない」
    青ロレ赤クロの話です。

    #クロロレ
    chloroethylene

    6.初戦・下

     クロードから自分たちを襲った盗賊の討伐が今節の課題だと告げられた皆は初陣だと言って沸き立っていた。金鹿の学級は騎士を目指す平民が目立つ学級で入学以前に領主の嫡子として盗賊討伐を体験している者はクロードとローレンツしかいないらしい。クロードはローレンツの印象よりはるかに慎重で毎日先行したセイロス騎士団がどの方面へ展開していったのか細かく記録をつけ皆に知らせていた。セイロス騎士団に追い込んでもらえるとはいえどこで戦うのかが気になっていたらしい。

     出撃当日、支度を整え大広間で待つ皆のところへベレトがやってきた時にはローレンツたちはどこで戦うのか既に分かっていた。

    「騎士団が敵を追い詰めたそうだね。場所はザナド……赤き谷と呼ばれている」

     そう言えばクロードはザナドが候補に上がって以来やたら彼の地についた異名の由来を気にしていた。赤土の土地なのか赤い花でも咲き乱れているのか。土地の異名や古名にはかつてそこで何があったのかが表されていることが多い。土地の環境によっては毒消しが必要になる場合もある。だが先行した騎士団によると特殊な条件は何もない、とのことだった。初陣の者たちにとってはありがたい。

     修道院の敷地を出るまでは皆はしゃいでいたがザナドが近づくにつれて口数が少なくなってきた。静かになったところを見計らったベレトが学生たちの間を縫って声をかけて回っている。一度戦闘が開始されたら終わるまでまともに会話などできない。

    「ローレンツ、ラファエルと一緒に前衛を担当してくれ」
    「引き受けた」
    「だが最初は攻め込まなくていい。二人とも大きくて目立つからな。ぎりぎりまで敵を引き寄せてイグナーツとクロードの一射目を待ってから攻撃するんだ」

     ローレンツにはベレトの意図が読めなかった。何故こちらから攻撃しないのだろうか。

    「囮になれと?」
    「囮というか脅迫の種だな。一射目を当てなければ前衛の二人が攻撃されるのだから当てなくては"ならない"」

     ベレトは顔の横に両手をあげて人差し指と中指をくいくいと折り曲げている。引用符のつもりらしい。しかし顔は真顔のままなので凄まじい違和感だ。

    「そんなことは自明の理ではないか」
    「誰かが遠方から射られてそこから戦端が開く。だが自分の手で戦端が開かれることに耐えられる者の方が少ない」

     だから一射目は無意識に外してしまう者が多いのだという。しかし前衛を守るためにイグナーツもクロードも必ず敵に当てなくては"ならない"。弓での援護を受けながら前進すれば相手は怯む。ローレンツはベレトのあだ名が何故、灰色の悪魔であるのかわかったような気がした。彼なりに新兵の教育と生存率向上を考えた結果なのだろうがとにかくえげつない。これが危険な現場を渡り歩いてきた者の感覚なのだろう。

    「なるほど、だが僕はクロードと親しくないぞ」

     だがイグナーツとラファエルは元より友人同士なので有効だ。よく考えられている。

    「一緒に戦っていくうちに親しくなる。というか親しくならざるを得ない。小規模な戦闘には参加したことがあるのだろう?ラファエルを頼んだぞ」

     そう言うとベレトは剣帯を鳴らしながら駆け足でイグナーツの方へ向かっていった。ローレンツには五年間の記憶があるので素直に受け入れることが出来たがいきなりこんなことを言われた他の者は何を思うのだろうか。

     ザナドに到着してみればまず橋を渡らねばならなかった。ベレトの読みは見事に当たり猛り狂う盗賊たちは突出したローレンツとラファエルたちに突進してくる。谷に籠っていては勝ち目のない盗賊たちはほんの少しであろうとセイロス騎士団側の戦力を削れるのではないかと言う期待に縋っていた。だがまだ堪えねばならない。ローレンツたちの後方から矢羽が風を切る音がして前方からは人が倒れ込む音や呻き声がした。

    「前回は不意を突かれちまったが……ま、盗賊なんてこんなもんか」

     そう呟いたクロードの放った矢は倒れ込んだ盗賊の口の中に刺さっている。リーガンの紋章の力が成し遂げたのか仲間への愛着が成し遂げたのかローレンツには分からない。イグナーツは一撃必殺といかなかったようだがそれでもこちらの矢は全て敵に損害を与えている。見事だ、と思いながらローレンツは矢傷に苦しむ盗賊に槍で引導を渡してやった。

    「民の暮らしを守るのが貴族の責務……。恨まないでくれたまえよ」

     ベレトの指示通り偽りの希望を与えて誘い出し敵の戦力を削っていくと盗賊の首領コスタスが最後にただ一人取り残された。ここまで上手くいくならこの場ではやり方を変えることはない。叫びながら斧を振り回しているコスタスにクロードが矢を番えた。敵を油断させるために後ろを向いていたのでローレンツは初めて戦場で彼の顔を眺めている。

    「貴族には貴族の苦労があるんだよ。俺もつい最近知ったんだがな」

     いつも彼の周りに漂い正体を隠そうとする靄がない。真のクロードの姿がそこにある、ローレンツはそう感じた。
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    MAIKING「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です。
    13.誘拐・上

     フレンが行方不明になった。クロードとローレンツは誘拐犯がイエリッツァであること、彼が死神騎士でありエーデルガルトの手の者であることを既に知っている。ローレンツが知る過去ではディミトリたちがフレンを見つけクロードが知る過去ではベレスとカスパルがフレンを見つけている。

    「ではこの時点でベレト…失礼、言い慣れないもので。ベレス先生は現時点で既に教会に不信感を持ち敵対すると決めていた可能性もあるのか」

     ローレンツの知るベレトは教会と敵対せずディミトリに寄り添っていたらしい。記憶についての話を他の者に聞かれるわけにいかないので近頃のクロードはヒルダにからかわれる位ローレンツの部屋に入り浸っている。彼の部屋に行けばお茶と茶菓子が出るので夜ふかし前に行くと夜食がわりになってちょうど良かった。

    「そうでもなければあの状況で親の仇を守ろうとしないと思うんだよな」
    「だが今、僕たちの学校にいるのはベレト先生だ」

     ベレスは戴冠式に参加していたらしいのでそこで何かあった可能性もある。クロードはどうしてもかつての記憶に囚われてしまう。

    「大手を振って何かを調べる良い機会なのは確 2090

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    MAIKING「説明できない」
    紅花ルートで戦死した記憶があるクロードと青獅子ルートで戦死した記憶があるローレンツの話です。
    2.振り出し・下
     士官学校の朝は早い。日の出と同時に起きて身支度をし訓練をする者たちがいるからだ。金鹿の学級ではラファエル、青獅子の学級ではフェリクス、黒鷲の学級ではカスパルが皆勤賞だろうか。ローレンツも朝食前に身体を動かすようにしているがその3人のように日の出と同時には起きない。

     ローレンツは桶に汲んでおいた水で顔を洗い口を濯いだ。早く他の学生たちに紛れて外の様子を見にいかねばならない。前日の自分がきちんと用意していたのであろう制服を身につけるとローレンツは扉を開けた。私服の外套に身を包んだシルヴァンが訓練服姿のフェリクスに必死で取り繕っている所に出くわす。

    「おはよう、フェリクスくん。朝から何を揉めているのだ?」
    「煩くしてすまなかった。単にこいつに呆れていただけだ」

     そう言うと親指で赤毛の幼馴染を指差しながらフェリクスは舌打ちをした。シルヴァンは朝帰りをディミトリや先生に言わないで欲しいと頼んでいたのだろう。

    「情熱的な夜を過ごしたのかね」

     呆れたようにローレンツが言うとシルヴァンは照れ臭そうに笑った。

    「愚かすぎる。今日は初めての野営訓練だろう」

     フェリ 2066

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    5.初戦・上
     三学級対抗の模擬戦はクロード達の勝利に終わった。これもクロードの記憶とは異なっている。容赦のなかったベレスの記憶があるクロードは事前に何か工作するかベレトに探りを入れてみたが拒否された。こんな下らないことに全力を尽くすなという意味なのか気高い倫理観の持ち主なのかはまだクロードには分からない。腹下しの薬は冗談だったが賛同してもらえたら武器庫に忍び込んで他学級の使う武器の持ち手にひびを入れてしまうつもりだった。

     母国やデアドラと比べるとガルグ=マクは肌寒い。気に食わない異母兄が王宮で働く女官を寝室に引っ張り込むような寒さだ。それでも来たばかりの頃と比べればかなり暖かくなっている。過酷な太陽の光に慣れたクロードの目にも山の緑は目に眩しく映った。長時間、薄暗い書庫で本を物色していたからだろうか。廊下に差す光に緑の目を細めながら歩いていると大司教レアの補佐を務めるセテスに声をかけられた。クロードは規則違反に目を光らせている彼のことがあまり得意ではない。

    「ちょうど良かった。クロード、後でベレトと共にこちらに顔を出しなさい」
    「分かりました。セテスさんは先生が今どの辺りにいる 2100