2023ローレンツ誕生日
誕生日が近くなると料理人が給仕たちと何やら相談をし始める。今いる料理人は長子であるローレンツが生まれる前から館にいてそれこそ味の好みなど知り尽くしているはずなのに近頃の好みを聞き込むのだ。
幼い頃はそんな彼らの配慮に全く気付かず、毎年誕生日には好物をたらふく食べていた。長じた今は料理人たちの配慮に気付かないふりをしている。今年はそんな風に祝ってもらえない筈だったがローレンツはエドギアにいる。
フェルディアの政情が想定より不安定で魔道学院にはわずかな期間しかいられなかったからだ。これまで通りの暮らしは快適で、毎日女神に感謝の祈りを捧げている。だが他の者たちが親元を離れ、研鑽を積んでいるかと思うと焦ってしまう。
召使たちから祝いの言葉を受け取り、昨年のように家族と共に食卓についた。来年も自領で同じように過ごすのだろうか。
「ローレンツ、仕立て屋を呼ぶので明日は野駆けに行かないように」
父はおかしなこと言った。誕生祝いの品ならば間に合うように数週間前に採寸せねばならない。
「どういうことでしょうか?」
「士官学校の制服を作らせるからだ」
来年の誕生日は学生寮で迎えることになる。食卓に並ぶ料理がローレンツには輝いて見えた。
「父上、ありがとうございます。鷲獅子戦では必ず勝利してみせます」
息子の安全を優先したとはいえ途中で学生生活を切り上げさせたことを父エルヴィンも気にかけていたらしい。母は重ねてエルヴィンの決定を祝ってくれたが仕立て屋を呼ぶのは早いのではないか、と提案していた。来年にはまたローレンツが家を空けてしまうことが少し寂しいのかもしれない。少し気は早いが弟妹たちに留守の間、両親をしっかり支えるように、と頼んだ。
魔道学院は魔法だけだが士官学校は武芸の面でも素晴らしい教師から教えを受けられる。父エルヴィンから思わぬ祝いの品を受け取ったローレンツはその晩、なかなか眠れなかった。フォドラ中の名家の子女が集まる場所だ。将来のグロスタール伯である自分に相応しい出会いがあるかもしれない。
父の意見を取り入れかなり早めに、母の意見を取り入れかなり大きめに、制服を仕立ててもらったローレンツだがそれでも入学直前の試着の際に袖も裾も丈を伸ばすことになった。血筋とはいえ何歳ごろまで背が伸びるのだろうか?