Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    111strokes111

    @111strokes111

    https://forms.gle/PNTT24wWkQi37D25A
    何かありましたら。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 290

    111strokes111

    ☆quiet follow

    無双青燐ルート準拠のクロヒル+ヒルマリです。
    全10話予定。

    真昼の月と花冠.4───ヒルダさん、そちらの皆さんもお元気でしょうか?私は今のところ特に問題もなく、ディミトリさんたちと行動を共にしています。彼らの要望で前線に加わることになったのは正直言って意外でした。と言うのもクロードさんがディミトリさんから信頼される、と私は考えていなかったからです。
     やはりミルディンでグロスタール家がどんな目にあったのか彼らは知っていました。それでも、私どもとの合流を望んだのはやはりこれまでの内戦の影響があるのでしょう。
     正確な居場所を今、書くわけにいきませんので省かせていただきますがファーガスはやはり寒いです。私は北の沿岸地方出身なので慣れているつもりでしたが、他の御三方と火に当たってばかりいます。僅か数節とはいえガルグ=マクで共に机を並べていた方たちがレスター出身の私たちを気遣ってくれることがありがたいです。
     特にシェズさんが気にかけてくれるので助かっています。私は彼女がファーガス出身と思いこんでいましたが、実はコーデリア出身だそうです。だから私たちを特に気にかけてくれるのかもしれません。今、シェズさんは孤児であった彼女を引き取り、養母となった方についてアッシュさんと二人で調べています。近いうちにリシテアさんの力をお借りすることがあるかもしれません。
     シェズさんは朗らかでディミトリさんにも全く動じません。義父も彼女のような朗らかで強い人を養女にするべきでした。私が多少強くなったところで皆さんの方が遥かに強く眩しいのは変わりませんが……。
     しかしローレンツさんはそう思わないようです。変わっていく世界に対応し、私と共にありたいと言ってきます。爵位を継いだ彼はあんなことがあったというのに驚くほど前向きです。
     人は変わることが出来る、と言いますがそれは裏を返せば変わってしまうこともある、と言うことです。しかし共に戦い続けるうちにローレンツさんが何故あの実直さや清廉さを未だに維持できているのか、がわかるのかもしれません───



     毎日途切れることなくミルディンには人と物が流れ込んでくる。補給路が確立され、機能している証拠だ。フェルディアでディミトリや大司教であるレアと会談してきたクロードの印象に最も残ったのは寒さだった。あの気候とスレンの存在が彼らの全てに影響を及ぼす。力が強いか我慢強くなければ生きていけない。そんな彼らからすればレスターの者はあらゆる意味で堪え性がない。
     ファーガスから届いた手紙を受け取ったヒルダの嬉しそうな顔が見られたから、ではないがクロードに言わせればそんなことは我慢する必要がないのだ。クロードは王国の美徳とはかけ離れているのを承知で、エドマンド家の力を借りてローレンツたちにはたっぷりと物資を持たせている。
     個の力でディミトリとエーデルガルトに勝てる者はレスターには存在しない。教会に祝福された王家や皇家の者はそこからして違うのだろう。だが、だからと言ってクロードは彼らに首を垂れて跪こうとは思わない。クロードにしても誰かに跪きたくない、と考えた者の末裔だからだ。弱兵を勝たせるには兵站を完璧にするしかない。

     ミルディンでの軍議には前グロスタール伯にしてローレンツの父、エルヴィンが参加することが多い。エルヴィンは意見を言う立場にない、と言う建前を必ず守るのだがローレンツそっくりな彼が居るとクロードはなんだか不思議な気持ちになる。
    「倅からの手紙が届いたのでね」
     エルヴィンはローレンツたちがどうしているのかクロードたちに教えてくれた。親子間の手紙といえども彼らの場合は報告書を兼ねた、限りなく公的な書類に近いものだがやはり書き手の想いはこもっている。
     大橋失陥に関わりのあったグロスタール家と縁がある者たちが王国の西部戦線に派遣されたのは盟主による罰だ、という噂がある。確かに遠征費がかさみ戦闘は激しい。盟主は迅速に決断を下し、責任を取るのが仕事だ。今は戦時下なので油断ならない非情な人物と思われた方が有利だった。




    ───マリアンヌちゃん、お手紙ありがとう。元気そうなのは良かったけれど、そんな感じだとクロードくん絡みで妙な疑いが持たれていそうで心配になっちゃった。私からはクロードくんはおかしなことを企んでいないように見えるよ。
     クロードくんはその辺りの信用がないから困っちゃうね。マリアンヌちゃんもローレンツくんもイグナーツくんもラファエルくんも誰かを騙したり出来るような人ではないからこそファーガスに派遣された、と私は思ってるんだけどなー。でもディミトリくんは王様だし、王様には王様の代わりに周りを疑う人がどうしても必要だから仕方ないのかな。
     ミルディンの辺りは本当なら帝国で売るはずだった商品を持て余している商人がいるからちょっとした差し入れを買いました。これからしばらくお買い物ができそうにないから楽しかった!邪魔にならない物にしたつもりだけどどうだったかな?皆の様子を教えてね!
     私たちはこれからクロードくんの考えた「多頭の蛇」という策を取ることになりました。すっごく嫌な名前でしょ?でもそんな怖い話でもないの。ただ、マリアンヌちゃんが前哨基地の場所を書けなかったのと同じく、私も作戦の詳細については書けません。書くのも面倒だしね!でも上手くいくといいな。
     フェルディアから帰ってきたクロードくんからも聞いていたけれど、やっぱりファーガスはすごく寒いのね。そこら中で雪が積もったり水が凍ったりするのかしら。火に当たりながら皆でどんな話をしてるの?
     私はクロードくんから白いラクダの話を聞いて、感動して泣いちゃったの。どんな話かマリアンヌちゃんにも教えてあげたいけれどあれはクロードくんの語り口も重要だと思うからこっちに戻ってきたら直接、話してもらった方がいいかもしれない!
     その時にはローレンツくんから褒められた手巾をたくさん用意しておくといいんじゃないかな?私もあの手巾はとっても素敵だと思うし───



     ゴネリル家の使者がヒルダからの差し入れを持参してローレンツたちのいる前哨基地にやってきた。ラファエルには干し肉、イグナーツにはファーガスにまつわる古書、ローレンツには茶葉、マリアンヌには菓子、と大荷物を抱えた使者はシェズに荷を検められたらしい。
    「寒いからこちらで火に当たりたまえ。これからゴネリルに戻るのだろうか?」
    「いや本当に耐え難い寒さで……早くヒルダ様の元に戻らねば体調を崩してしまいそうです」
     使者と共に火に当たりながらふと問うてしまったがヒルダがどこにいるのか、彼は口に出せない。
    「閣下、ありがとうございます」
     ゴネリル家の使者はうまいことローレンツの失言を聞き流してくれた。レスターにはレスターの都合がある。ファーガスの者たちに囲まれた場所で東部の部隊がどこに展開しているのか具体的に言うわけにはいかない。他の者がそれぞれ礼状を書きに行ってくれたのでローレンツは彼らの前では恥をかかずに済んだ。
    「いや、これからも忠勤に励むと良い。身軽なまま戻りたいだろうが礼状を託したいので発つ前に僕に声をかけてくれたまえ」
     ヒルダからローレンツたちの元へ使わされた彼はまだ長旅が続く。ローレンツが長旅を労い、皆の分も足した幾許かの駄賃をやると使者は大袈裟に礼を言った。しかしマリアンヌのあんな笑顔はヒルダにしか引き出せない。
     マリアンヌとエドマンド辺境伯の双方から出過ぎた真似を、と嫌われる可能性があるのは分かった上で辺境伯に直談判した方がいいかもしれない、とローレンツが思ってしまったほどに彼女は塞ぎ込んでいた。塞ぎ込んでいてもあんなに美しいのだから笑えばもっと美しいだろう。
     残念ながらローレンツには叶わなかったがヒルダの手紙、と聞いて微笑んだマリアンヌは予想通りの美しさだった。ガルグ=マクにいた頃なら彼女を讃える詩を作っていたかもしれない。
     だからつい、イグナーツたちを理由に駄賃を弾んでしまったのだ。彼はヒルダの元に戻る道中で酒に困ることはないだろう。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖👏👏👍👍🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator