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    無双青ルート準拠のクロヒル+ロレマリ小説です。
    全10話予定。

    真昼の月と花冠.7 ガラテア領の合流場所に到着してみると既にクロードたちは前哨基地の設営を終えていた。円卓会議に出席する父に帯同してデアドラに来ていたのですれ違う顔になんとなく見覚えがある。だがそれでもローレンツはリーガン家の軍旗に里心を刺激された自分が信じられない。ほんの数節とはいえフェルディアにいたこともあるし、それなりに王国軍に馴染めていたつもりだというのに。
    「ローレンツくん!みてください!クロードくんたちですよ!」
     はしゃぐイグナーツがディミトリたちと話すクロードを指さした。彼らの傍にはヒルダもいる。父エルヴィンからの手紙によるとホルストもこちらに来ているらしい。
    「先を越されるとは思わなかったな。一体どんな手を使ったのやら」
     ローレンツも薄々は勘づいている。クロードたちの軍勢は街道もない山を越えたのだ。そうでなければこちらの方が早く着いていただろう。戦後の論功行賞を見据えてクロードは行動している。和平が成立する際は負けた側が賠償金を支払うものだが、国土の荒れ方から言っても今の帝国には支払い能力がない。
     そうなるとやはり領土の割譲が視野に入ってくる。クロードはミルディン大橋を擁するベルグリーズ領、アミッド大河の河口を擁するフリュム領をレスター諸侯同盟に併合するつもりだろう。彼は下調べも兼ねてベルグリーズ領にちょっかいを出していたのだ。全くもって油断ならない。

     中央教会や王国の者たちと打ち合わせをクロードに任せたヒルダがローレンツたちの元にやってきた。
    「マリアンヌちゃん!良かった〜!元気そうで!」
    「はい、激戦に次ぐ激戦でしたがこうして今、お元気そうなヒルダさんの前に立てています」
     久しぶりにヒルダに会えたマリアンヌはここ数節で一番の笑顔を浮かべている。付かず離れずという位置からその姿を見られただけでもローレンツは命をかけた甲斐があった。はしゃぐ二人を見てイグナーツとラファエルも嬉しそうにしている。ああいう触れ合いは邪魔するべきではない。
    「ヒルダさんが元気そうで僕、安心しました。それにいつ帰れるのか分からなくて不安でしたけど、クロードくんと合流できたってことはそろそろですよね?」
    「つまりは戦果を立てる機会も残り少ないということだ」
     まさかこのまま帝都アンヴァルにまで進軍することはないだろう。クロードも現時点では大修道院を奪還し、中央教会が有利なように和平を結ぶことまでしか考えていないはずだ。
    「オデはクロードくんに頼まれたから今回、参加したけど早く大修道院を取り戻してマーヤのところに帰りてえな」
    「そうだな。まずは生き残らねばならないが、ラファエルくんの活躍については僕からも報告しておく。クロードからたんまりと報奨金も貰うといい」
     この件に関してグロスタール家の懐は全く傷まないのでローレンツは大盤振る舞いが出来る。男三人を放置していることに気づいたヒルダが手を振って近寄ってきた。こんな華奢な身体であのホルストですら扱うことのできないフライクーゲルを振るうのだから人間は見た目で判断してはならない。




     ヒルダに案内され、ローレンツは少し離れた場所にある同盟の前哨基地にやってきた。道すがらヒルダからも説明があったが、確かに手狭でここに同盟側の全軍が合流するのは難しいだろう。またすぐにアリルに向けて出発することもあり礼拝堂などは組み立てていない。
    「本部はこっちだよ」
     手招きされるがままにローレンツは大きな天幕の中に入った。久しぶりに会ったクロードは悔しいが強行軍の疲れを表に出していない。鉄筆をもって蝋引きの書字板に何かを書きつけていた。
    「ようローレンツ、一度死にかけた割に元気そうじゃないか。安心したぞ」
     何故そんなことをクロードが知っているのだろうか。父宛の手紙にすら負傷したがもう復帰した、としか書いていない。だがヒルダの唇の端が上がり頬には笑窪が出来ている。
    「私とマリアンヌちゃん手紙のやり取りしてるのよねー。私すっごく感動しちゃった!あっ、ローレンツくんにも見せ……」
    「駄目だ駄目だ、ヒルダさん!それは貴族らしい振る舞いではない!」
     きっと褒めてくれたのだろうと思う。ヒルダ相手にどんな風にローレンツを誉めてくれたのか、直に教えてもらえる日は来るのだろうか。
    「はい、ヒルダちゃんの勝ち〜!」
     書字板を取り上げたヒルダは得意げだがクロードは少し頬を膨らませローレンツを睨みつけている。だがどことなく嬉しそうだった。
    「ローレンツ、お前どうしてヒルダの言葉を遮ったんだよ!」
    「呆れたな!まさか君たちバルタザールくんのように賭けごとをしていたのかね?この僕で?」
     クロードは口を尖らせたままで反省の色を見せない。レスター諸侯同盟の盟主だというのに子供っぽいにも程がある。だがそれも後見人であるダフネル家のジュディッドが健在だからかもしれない。
    「うん、そうだよ。私の提案をいつローレンツくんが遮るか、でね」
     あくまでも最後まで言わせないかどうか、が賭けの対象であったことにローレンツは安心した。そこはこの二人から信頼されているらしい。
    「参考までに聞かせて欲しいのだが、クロードが勝ったらヒルダさんは何をする予定だったのだ?」
     それに何故、ヒルダはクロードの書字板を取り上げたのだろうか。ローレンツには全く理解できなかった。
    「髪を切ってあげる筈だったの」
    「確かにヒルダさんは随分と器用だが、理髪の心得もあるのかね?」
    「いや、そんな複雑なことは頼んでないさ。願掛けしてたんだよ」
     胼胝だらけのクロードの指が前髪で編んだ三つ編みをつまんでいる。彼の人相書きには必ず三つ編みが明記されていることだろう。
    「宿願は叶ったのかね?」
    「まぁな、だが賭けにも負けちまったし、この戦争が終わるまでは持ち越しだな」
     それを切り落とす際にヒルダを指名するとはクロードも随分とわかりやすい。
    「ヒルダさんは何故、書字板を取り上げたかったのだろうか?」
    「だってこれが手元にあるとクロードくんずーっと休憩しないんだもの。戦場では休むのも仕事ってこと!」
     何故クロードが休憩を取らずにいる、とヒルダが知っているのか。ずっと見張っていなければそんなことは分からない。どうやら、ローレンツと別行動をとっていた間に二人は随分と親密な仲になっていたようだ。ローレンツはエドマンド辺境伯だけで済むがクロードは近々ホルスト卿と前ゴネリル公爵の前で話す羽目になるだろう。
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    MAIKING「説明できない」
    紅花ルートで戦死した記憶があるクロードと青獅子ルートで戦死した記憶があるローレンツの話です。12月にクロロレオンリーイベントがあればそこで、実施されなければ11月のこくほこで本にするつもりで今からだらだら書いていきます。
    1.振り出し・上
     クロードが最後に見たのは天帝の剣を構える元傭兵の女教師だった。五年間行方不明だった彼女が見つかって膠着していた戦況が動き始めそれがクロードにとって望ましいものではなかったのは言うまでもない。

     生かしておく限り揉めごとの種になる、と判断されたのは故郷でもフォドラでも同じだった。人生はなんと馬鹿馬鹿しいのだろうか。だが自分の人生の幕が降りる時、目の前にいるのが気に食わない異母兄弟ではなくベレス、エーデルガルト、ヒューベルトであることに気づいたクロードは笑った。
    >>
     もう重たくて二度と上がらない筈の瞼が上がり緑の瞳が現れる。その瞬間は何も捉えていなかったが部屋の窓から差す光に照準が合った瞬間クロードの動悸は激しく乱れた。戦場で意識を取り戻した時には呼吸が出来るかどうか、視野は失われていないか、音は聞こえるのかそれと体が動くかどうか、を周りの者に悟られぬように確かめねばならない。クロードは目に映ったものを今すぐにでも確認したかったが行動を観察されている可能性があるので再び目を瞑った。

     山鳥の囀りが聞こえ火薬や血の匂いを感じない。手足双方の指も動く。どうやら靴は履 2041

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    MAIKING「説明できない」
    紅花ルートで戦死した記憶があるクロードと青獅子ルートで戦死した記憶があるローレンツの話です。
    2.振り出し・下
     士官学校の朝は早い。日の出と同時に起きて身支度をし訓練をする者たちがいるからだ。金鹿の学級ではラファエル、青獅子の学級ではフェリクス、黒鷲の学級ではカスパルが皆勤賞だろうか。ローレンツも朝食前に身体を動かすようにしているがその3人のように日の出と同時には起きない。

     ローレンツは桶に汲んでおいた水で顔を洗い口を濯いだ。早く他の学生たちに紛れて外の様子を見にいかねばならない。前日の自分がきちんと用意していたのであろう制服を身につけるとローレンツは扉を開けた。私服の外套に身を包んだシルヴァンが訓練服姿のフェリクスに必死で取り繕っている所に出くわす。

    「おはよう、フェリクスくん。朝から何を揉めているのだ?」
    「煩くしてすまなかった。単にこいつに呆れていただけだ」

     そう言うと親指で赤毛の幼馴染を指差しながらフェリクスは舌打ちをした。シルヴァンは朝帰りをディミトリや先生に言わないで欲しいと頼んでいたのだろう。

    「情熱的な夜を過ごしたのかね」

     呆れたようにローレンツが言うとシルヴァンは照れ臭そうに笑った。

    「愚かすぎる。今日は初めての野営訓練だろう」

     フェリ 2066

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    3.遭遇・上
     三学級合同の野営訓練が始まった。全ての学生は必ず野営に使う天幕や毛布など資材を運ぶ班、食糧や武器等を運ぶ班、歩兵の班のどれかに入りまずは一人も脱落することなく全員が目的地まで指定された時間帯に到達することを目指す。担当する荷の種類によって進軍速度が変わっていくので編成次第では取り残される班が出てくる。

    「隊列が前後に伸びすぎないように注意しないといけないのか……」
    「レオニーさん、僕たちのこと置いていかないでくださいね」

     ラファエルと共に天幕を運ぶイグナーツ、ローレンツと共に武器を運ぶレオニーはクロードの見立てが甘かったせいでミルディンで戦死している。まだ髪を伸ばしていないレオニー、まだ髪が少し長めなイグナーツの幼気な姿を見てクロードの心は勝手に傷んだ。

    「もう一度皆に言っておくが一番乗りを競う訓練じゃあないからな」

     出発前クロードは念を押したが記憶通りそれぞれの班は持ち運ばねばならない荷の大きさが理由で進軍速度の違いが生じてしまった。身軽な歩兵がかなり先の地点まで到達し大荷物を抱える資材班との距離は開きつつある。

    「ヒルダさん、早すぎる!」
    「えー、でも 2073

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    5.初戦・上
     三学級対抗の模擬戦はクロード達の勝利に終わった。これもクロードの記憶とは異なっている。容赦のなかったベレスの記憶があるクロードは事前に何か工作するかベレトに探りを入れてみたが拒否された。こんな下らないことに全力を尽くすなという意味なのか気高い倫理観の持ち主なのかはまだクロードには分からない。腹下しの薬は冗談だったが賛同してもらえたら武器庫に忍び込んで他学級の使う武器の持ち手にひびを入れてしまうつもりだった。

     母国やデアドラと比べるとガルグ=マクは肌寒い。気に食わない異母兄が王宮で働く女官を寝室に引っ張り込むような寒さだ。それでも来たばかりの頃と比べればかなり暖かくなっている。過酷な太陽の光に慣れたクロードの目にも山の緑は目に眩しく映った。長時間、薄暗い書庫で本を物色していたからだろうか。廊下に差す光に緑の目を細めながら歩いていると大司教レアの補佐を務めるセテスに声をかけられた。クロードは規則違反に目を光らせている彼のことがあまり得意ではない。

    「ちょうど良かった。クロード、後でベレトと共にこちらに顔を出しなさい」
    「分かりました。セテスさんは先生が今どの辺りにいる 2100