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    無双青ルート準拠のクロヒル+ロレマリ小説です。
    本文はここまで。
    2024.2.11ピクスク開催「5年目の同窓会」に合わせて紙の本にします。

    書き下ろしは晩餐会の話かマリアンヌちゃんの爵位継承の話になる予定でまだ一文字も書いていません!

    真昼の月と花冠.10───ガルグ=マク講和会議でベルグリーズ領とフリュム領がレスター諸侯同盟に割譲されるのは勿論、僕やマリアンヌさん、僕の騎士であるイグナーツくん、そしてラファエルくんの活躍あってこそだがそれも君の人選が正しかったからだ。西部派遣部隊として、短期間だがフェルディアに滞在したことがある僕と相性が良い者を選んでくれたことに改めて感謝する。
     これでレスター諸侯同盟はアミッド大河の両岸と豊かな穀倉地帯を擁することになった。百年後も彼の地がレスター諸侯同盟のものであり続けるよう我々は努力せねばならない。他人の顔を奪って成り代わる者たちが跋扈していた土地だ。平民たちの間にもどんな禍根が残されているかわからない。
     恥を晒すのは忍びないがグロスタール家も数年前、彼らに入り込まれていたことが判明した。リーガン家にも関係があることなので現当主として報告させてもらおう。父の家臣から顔を奪った者が傭兵団を使ってリーガン領との境で商人を襲っていたのだ。犠牲者の中にゴトフロア卿とラファエルくんのご両親が含まれている。
     クロード、認めたくはないが君は奇跡のような存在なのだ。君がいなければリーガン家は絶えていたしあの難局をここまで有利な形で終えられたとは思えない。講和条約が結ばれ血を流さずに済む現状は君がもたらしたのだ。今後、我々は民と土地を癒すことに全力を尽くさねばならない。
     旧ベルグリーズ領はアミッド大河の対岸にある我がグロスタール家とコーデリア家が旧フリュム領はゴネリル家が暫定的に統治する件も了承した。父は元々そうせざるを得ないと考えていたらしい。僕たちがガルグ=マクで王国、帝国の者たちと会議を重ねている間にコーデリア伯や前ゴネリル公やホルスト卿と既に会っていた。爵位は継いだがまだまだ先達の手助けが必要だ。これは我々が頼りないからではない。先代の領主たちと違って大乱を経た分だけ多忙だから、ということだ。
     前ゴネリル公そしてホルスト卿も今後はフリュム領の件でますます忙しくなる。君も早いうちに時間を作ってゴネリル領へ挨拶に行くべきではないだろうか。その際には花束と指輪そして特効薬を多めに持っていくことをお勧めする───




     エドマンド家には毎日ひっきりなしに書簡が届く。和平成立前はその殆どがマリアンヌの義父エドマンド辺境伯に宛てたものだった。引っ込み思案なマリアンヌへこまめに手紙を書いてくれるのはヒルダくらいだったが今は違う。爵位を継ぎグロスタール伯となったローレンツがヒルダの倍は手紙を寄越してくる。手紙だけではなくちょっとした贈り物が添えてあることも多い。
     こんなことができるのは両家共にデアドラに上屋敷があるからだ。自領の本宅と上屋敷は定期的に荷物や文書のやり取りがあり、そこからエドマンド家の上屋敷へ使用人が届けに行く。両家の幾人もの使用人を介したやりとりはしっかり知れ渡っている。
     そんな中、珍しくクロードからマリアンヌにあてた手紙が届いた。年越しの晩餐会への招待状だったが短い私信もついている。煩わしい連中は呼んでいない、親しい者しかいない気軽なものだから軽率に来てほしい、と書いてあった。その書きぶりが彼らしくて思わず顔が綻んでしまう。
     マリアンヌは私信を引き出しにしまい、招待状だけを手にしてエドマンド辺境伯の執務室に向かった。商才と弁舌に長けた彼を苦手とする者は多い。ローレンツによると彼の父エルヴィンですらそうだと聞く。
    「お義父さま、今年の年越しについてお話があります」
    「デアドラで過ごすのか?」
     クロードは義父にも手紙を書いたのかもしれないし手紙を振り分けた秘書が差出人と宛名について報告したのかもしれない。だがマリアンヌはもう慣れることにした。そんな風に思い切れるようになったのはあの戦いの日々───成長の糧であった、と言うかせざるを得なかったと言うか───があったからなのだろう。
    「はい、クロードさん、いいえ、リーガン公主催の晩餐会に出席しようと思います」
     エドマンド辺境伯はマリアンヌ宛の紹介状を手に取った。目を細めているのは感情を誤魔化すため、のように思えるが老いのせいなのかもしれない。彼はいつも洒脱に装っているが、それでも引き取った養女に結婚の話が出てくるような年齢になったことは事実だ。
     



     
    ───頼もしい年寄りたちには当分、ややこしい戦後処理などでもご活躍いただこう。帝国と比べれば随分まし、と言っても人手不足なことに変わりはない。
     頼もしさで言えばローレンツ、お前も同等だ。ミルディン大橋の件でグロスタール家には大きな負担がかかっている。失陥についても奪還についても、だ。その負担の中に名誉にまつわるものがあったことを本当に申し訳なく思う。
     だが現グロスタール伯の西部戦線における活躍で汚名は十分に濯げたようだ。お前の武勲は家中や同盟内部での問題を解決したがそれだけに止まらない。
     王国に派遣した連中が皆、誠実だったからベルグリーズ領とフリュム領の割譲が王国や中央教会から円滑に認められた、と思う。これは俺のような、人を信じることが苦手な人間には絶対にできないことだ。
     これぞまさに花冠を賜るに相応しい戦果と言える。ヒルダはずっとローレンツに会えたら仮の贈り物をする、と言っていたが分かるだろう?アリルからガルグ=マクまでの間は余裕が全くなかった。だからヒルダがどうするつもりなのか正直言って俺には見当もつかなかった。
     ディミトリがタレスを討って、大修道院の安全が確保された途端にヒルダが温室へ行った時には流石だと思ったね。なんと言っても仮の贈り物だ。てっきり収穫しそびれた果物でも適当にもいで籠に盛って終わりにするのかと思ったよ。
     だが出来上がったのはあの色鮮やかな花冠だ。赤い薔薇だけで作れなかったことを残念がっていたがそれでも挫けず手作りするところがヒルダらしい。本人は自分は直ぐにへこたれる、と考えているらしいが俺から言わせればそんなことはない。直ぐにへこたれる面倒くさがり屋は宝飾品作りを趣味にしないと思わないか?
     気も器も小さかったヴァーリ伯が温室の価値は分かっていた、と言うだけの話かもしれない。だが激しい戦闘が終わってもなお、温室に色とりどりの花が咲いていたこと、それらがローレンツの頭を飾っていたことを奇跡のように感じたよ。
     温室で花を編んでいるところをずっと眺めていたがあれもまた魔法の一種だな。俺は黒魔法も白魔法もヒルダが使う魔法もまともに習得できそうにない───



     マリアンヌも随分と変わったがローレンツもここ数年でかなり人柄が丸くなった、とヒルダは思う。学生時代の彼には失敗を恐れてかえって失敗を呼び込むようなところがあった。ホルストのように長子として厳しくも暖かく見守られながら育ったのだから、あとほんの少し鷹揚にするだけで皆が付いてくる。
     ただ、そんなことを言っても相手を困惑させてしまう。だからヒルダは口を噤んでいたのだが士官学校が休校になり戦争が始まってしまった。いつ誰が亡くなってもおかしくないなら何でも直ぐに行動を起こした方がいい。遠方の友人たちにまめに差し入れや手紙を送り、クロードにも言いたいことを全て言い、人目を忍ぶようなことも含め───してやりたいことは全てやった。
     その一連の流れでローレンツたちはヒルダから温室前に呼び出された。彼への感謝の念を表すために作った花冠はクロードにじっと見つめられつつ、有り合わせのもので作った割に良くできたと思う。赤い薔薇だけで作ってやりたかったが仕方がない。だがこれはあくまでも仮の贈り物だ。
    「マリアンヌちゃんの命を救ってくれてありがとう。これは急場凌ぎで拵えた物だけど受け取ってくれると嬉しいな」
     背の低いヒルダがそう言って腕を上に伸ばすと彼は石畳の上で膝をついて首を垂れた。真っ直ぐな紫の髪がマリアンヌに撫で付けらる日はきっと近いだろう。髪の手入れのこつを聞かれるかもしれない。
    「貴族として、というか人として当然のことをしたまでだが、褒賞はありがたく受け取ろう」
     確かに平民でも罪人でも想い人が危ない目に遭っていたら無我夢中で助けようとするはずだ。
    「ローレンツさん、とってもお似合いです!ヒルダさん、ありがとうございました!」
     大真面目な二人を見たクロードが顔に笑みを浮かべていた。あんな光景を見たら誰でも笑みを浮かべるだろう。だが、それは兵たちを落ち着かせるための演技ではなく、柔らかな───ヒルダと二人きりの時にしか見せないような笑顔だった。
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