Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    111strokes111

    @111strokes111

    https://forms.gle/PNTT24wWkQi37D25A
    何かありましたら。

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 299

    111strokes111

    ☆quiet follow

    そのうちクロロレになります。ェュ前提なのでご注意下さい。紅花ルート

    有情たちの夜.11「幕間2_3」 フェルディナントとローレンツはガルグ=マクで出会ってすぐに意気投合した。理想の貴族の在り方を語り合った日々は未だに愛おしい。共に何かを成し遂げよう、と言われた時のこともよく覚えている。父親が失脚しても主君を恨むことはなく、彼の帝国への忠誠心は揺らがなかった。フェルディナントの理想として特に不自然なところはない。
     不本意ではあったが帝国出身の学生たちが修道院を去ったあと、ローレンツはクロードと共に彼の部屋を漁った。計画的とは思えなかったが、それでも何か手掛かりがあるかもしれない。フェルディナントの部屋は彼らしく整理整頓されていたが、あくまでも日常の延長、という印象を受けた。あの時、彼がエーデルガルトについていったのは咄嗟の判断だったのだろう。クロードと二人でそう、結論を出した。

     その日からローレンツはクロードと共に毎晩、寮の自室で地図を眺めて考えこんでいる。帝国軍が迫る今、学友たちを全て無事に帰すにはどうすべきか。そのためには何が必要か。
    「顔を盗むための絶対条件を知りたいよな」
     クロードの言葉を聞いたローレンツの眉間に皺が寄る。確かにどんな魔法を使えばあんなことが可能になるのか全く分からない。もしローレンツが顔と名前を奪われたら、自分の偽物が心地よく整えた部屋にクロードを招いたりするのだろうか。好んで集めた香り高い茶葉に毒を混ぜて振る舞う可能性もある。
    「見当もつかない」
    「でも、考えるのをやめたら人間である意味がないぜ?」
     先ほどからクロードの握る鉄筆は蝋引きの書字板に謎の模様ばかり描いていた。だが虚しさではローレンツの握る鉄筆も負けていない。同じ学級に所属する学生の名を書き出しただけだ。
    「答えの出ない問いに囚われて決めるべきことから逃げるな。そちらは保留しろ」
     帝国軍が迫る中、セイロス騎士団は籠城の準備をしている。それでも修道院から脱出する学生たちに物資が提供された。これを公平感が損なわれないように分配せねばならない。
     単純に人数で割れるならローレンツたちは迷わなかった。しかし学生たちはそれぞれ出身地や経済状態が違った。例えばガルグ=マクからかなり近いサウィン村出身のレオニーと遙か東北にあるエドマンド出身のマリアンヌでは、自宅にたどり着くまでの距離が全く違う。
     マリアンヌは平民のレオニーと違って路銀をたっぷり持っているが、身分の高さゆえに誘拐される可能性も高い。その辺りのことも含めてローレンツたちはます指数を作る必要があった。
     距離を基準にするなら移動時間で測るのか、単純な直線距離で測るのか。考え、決定せねばならないことが重大なのに外の状況が全く分からない。
    「でも気になるんだよ。なあ、本当に残酷だと思わないか?」
     クロードはトマシュと仲が良かったつもり、なのであの禁術に思い入れがあるようだ。実はローレンツにも少し心当たりがある。グロスタール家に仕えていた家臣の一人が行方不明になった。その彼が雇った傭兵団がひどい不祥事を起こしたらしく、父エルヴィンはその後始末に今も苦労している。
    「確かに信頼や名誉を搾取されるのは耐えがたい」
    「矛盾をなくすために対象を殺害しているだけなのか、殺害が顔を奪うための絶対条件なのかが気になるな」
     ローレンツは根拠もなく後者だと思い込んでいたが、クロードが言う通りかもしれない。同一人物が二人同時に現れたら面倒なことになる。
    「どちらにしても殺害されるなら、そこを追求する意味はあるのか?」
    「分かった。何にしてもまず、一人きりにならないように気をつけよう」
    「当たり障りがないな」
     不本意だったのかクロードは両手で顔を覆った。しかし奇策ばかり考えつかれてもローレンツは困っただろう。単純に実行が困難かもしれないし、クロードの豊かな発想に強く嫉妬したかもしれない。
    「いや、そんなことないだろ。心構えが違うはずだ」
     顔を上げ、そう言って照れくさそうに笑う彼が顔を盗まれたら。
    「クロード、顔を盗まれたら僕にどうして欲しい?」
     絶対に今、問わねばならない───そんな気がした。



     絶対に今、答えねばない───そんな気がした。
     ローレンツは盟主の指示を仰いでいるわけではない。この一年弱、共に過ごしたクロード個人の意志を確認し、尊重しようとしている。
     クロードは改めてローレンツを見つめた。彼は自分と同じく後は寝るばかり、という格好になっている。絹で出来た寝巻きの奥に潜む柔らかな心がクロードの言葉を、声を欲していた。いつもなら容易に作れるはずの笑顔がうまく作れない。
     武勇でも血筋でも唯一無二の存在であるディミトリやエーデルガルトは不機嫌であることが許されていたようだがクロード、いや、カリードには常に笑顔を浮かべる以外の選択肢はなかった。
     揺らぐ洋灯の灯りは真っ直ぐな紫の髪と同じ色をした美しい瞳を照らしている。ローレンツは感情表現が豊かな方で、クロードも含めた周囲の者は分かりやすい彼をこの一年弱で散々、からかってきた。そんな彼が溢れてくる感情に諦念で蓋をしている。
     ガルグ=マクで共に過ごしていなかったら、彼の顔が穏やかに見えたかもしれない。
     一方でクロードはこれまでになく、楽に息が出来ているような気がした。吸い込んだ空気が鼻からすうっと腑に落ちていく。ゆっくりと息を吐き、吐き終えた時には胸中にあるものの正体が判っていた。幼い頃から渇望していたもののうち、少なくとも一つはここにある。
    「……俺は、俺の名が……汚されないように、最善を尽くして欲しい。それが、お前にとって、どんなに辛いことであっても、だ」
     いざ、口に出してみると言葉がやたらと喉に引っかかった。クロードが顔を盗まれたら闇に蠢くものたちはレスターに禍いをもたらし、その後はパルミラへ進出するだろう。パルミラの諸国への影響力は鎖国気味なフォドラとは比べ物にならない。
     故にクロードがローレンツにして欲しいこと、は決まっていた。リーガン家とグロスタール家の不仲は有名だ。クロードの名誉を救うため、ローレンツが盗人を殺しても政争の一環として扱われ、彼が罪に問われることはないだろう。だが、そういう問題ではない。
     ローレンツは世間から、盟主の座欲しさに友人を殺した、と見做される。かと言ってこの先、闇に蠢く者たちの危険性を広く知らしめるのも考えものだった。偽物だと思ったから処した、と言う建前ができれば社会の箍が外れてしまう。皆が信頼を失えば、恐怖は更なる混乱と悲劇を呼ぶ。
    「心得た。この件、僕以外に引き受けられる者はいないだろう」
     低く静かで労るような声でローレンツは宣言した。
    「……ローレンツ、お前なら俺にどうして欲しい?」
     クロードもまた同じことをローレンツに問わねばならない。笑顔は作らず、真正面から彼の顔を見つめた。この一年弱、監視されてばかりだったから偶には逆も良いだろう。ローレンツもいつものようにクロードを真っ直ぐ見ている。
    「僕も、君と同じことを頼みたい。一族の者や家臣たちは皆、絶対に君のことを信用しないだろう。だが、それでも、だ」
     こんな悲惨な問いの答えが重なったなら、他のものだって重ねても構わないのではないだろうか。撥ね付けられたら一言二言冗談を言って、いつものように笑顔の仮面をかぶればいい。そう考えたクロードは白い手に褐色の手を重ねた。
    「分かった。絶対にお前の望みは叶えてやる」
     こまめに手入れされた白い手は心労のせいで指先が氷のように冷えている。こんな酷な話し合いをしていれば当たり前かもしれない。
    「この件について、君が本物のクロードだ、と確信が持てる今のうちに話し合えてよかった」
     そう言うとローレンツはクロードの手に白い手を重ねた。ガルグ=マクを出て離れ離れになったあとで運が悪ければ全ての言葉、全てのやり取りが奪われてしまう。
    「なあ、俺たち……他にも今、伝えなきゃならないことがあるよな」
     偽物がローレンツに嘘を囁き、彼を弄ぼうとした時に備えて判断材料を与えねばならない───クロードがそう考え、赤く染まった頬に手を添えると自然に彼の瞼は下りた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭🙏😭🙏❤❤❤💴💴💴
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works

    111strokes111

    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    4.遭遇・下
     犠牲者を一人も出すことなく野営訓練を終えて修道院に戻ることが出来た。ローレンツのほぼ記憶通りではあるが異なる点がある。ベレトが金鹿の学級の担任になったのだ。正式に採用された彼は既に士官学校から学生の資料を貰っている。だがグロンダーズで行われる模擬戦を控えたベレトはここ数日、放課後になると学級の皆に話を聞くため修道院の敷地内を走り回っていた。

     ローレンツはあの時、模造剣を配ろうとしたのは何故なのかとベレトに問われたが予め野盗達に襲われているのを知っていたから、とは言えない。言えば狂人扱いされるだろう。

    「歩兵の足が早すぎたからだ。補給部隊が本体と分断されたら敵に襲われやすくなる」

     食糧がなければ兵たちは戦えない。敵軍を撤退させるため戦端を開く前に物資の集積所を襲って物資を奪ったり焼き払ってしまうのは定石のひとつだ。ローレンツの言葉聞いたベレトは首を縦に振った。

    「それで足止めして予備の武器を渡したのか。装備をどうするかは本当に難しいんだ。あの場合は結果として合っていたな。良い判断をした」
    「ありがとう先生。そう言ってもらえると霧が晴れたような気分になるよ」

    2068

    111strokes111

    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    8.背叛・下
     雷霆を振るうカトリーヌの名を聞いた者に多少なりとも英雄の遺産や紋章の知識があったならばそれがとんだ茶番だと判るだろう。だが無謬であるセイロス教会が彼女をカサンドラではなくカトリーヌと呼ぶのならそれに従うしかない。カロン家当主としても令嬢カサンドラに死なれるよりはガルグ=マクで生きていてくれた方が良いのだろう。

     ローレンツは霧深い街道をガスパール城に向けて黙々と進んでいた。前方ではクロードとベレトとカトリーヌが何やら話している。五年前、ローレンツは帝国軍が破竹の快進撃を見せた時に正直言ってファーガス神聖王国がほぼ崩壊したと思った。今の彼らの会話を耳にしてもファーガスが凋落しているという印象が深まっていく。青獅子の学級の学生たちは士官学校に入る前に初陣を済ませている者が多いのはダスカーの悲劇以降小規模な騒乱が後を立たずにいるからだ。

     だからあの時ローレンツはフェルディナントと共にミルディン大橋に立った。ファーガスは近々自壊するだろうしパルミラとの国境を守りながら強大な帝国に抗う力が同盟にはない。ならばせめて領地と領民を守りたいと思ったからだ。霧の立ちこめる行路は人生 2090

    111strokes111

    MAIKING「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です。
    15.鷲獅子戦・上
     フレンが金鹿の学級に入った。クロードにとっては謎を探る機会が増えたことになる。彼女は教室の片隅に座ってにこにこと授業を聞いてはいるが盗賊と戦闘した際の身のこなしから察するに只者ではない。兄であるセテスから槍の手解きを受けたと話しているがそういう次元は超えていた。

    「鷲獅子戦にはフレンも出撃してもらう」

     やたら大きな紙を持ったベレトが箱を乗せた教壇でそう告げると教室は歓声に包まれた。これで別働隊にも回復役をつけられることになる。治療の手間を気にせず攻撃に回せるのは本当にありがたい。今まで金鹿の学級には回復役がマリアンヌしかいなかった。負担が減ったマリアンヌの様子をクロードが横目で伺うと後れ毛を必死で編み目に押し込んでいる。安心した拍子に髪の毛を思いっきり掻き上げて編み込みを崩してしまったらしい。彼女もまたクロードと同じく秘密を抱える者だ。二重の意味で仲間が増えたことになる。五年前のクロードは周りの学生に興味は持たず大きな謎だけに目を向けていたからマリアンヌのことも流していた。どこに世界の謎を解く手がかりがあるか分かりはしないのに勿体ない。
    2086

    111strokes111

    MAIKING「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です。
    16.鷲獅子戦・下
     ローレンツがグロンダーズに立つのは二度目だ。一度目はローレンツの認識からすると五年前でベレト率いる青獅子の学級が勝利している。敗因は堪え切れずに飛び出してしまったローレンツだ。更に危険な実戦で囮をやらされた時に堪えられたのだから今日、堪えられないはずはない。

     赤狼の節と言えば秋の始まりだが日頃山の中の修道院にいるので平原に下りてくると暖かく感じた。開けた土地は豊かさを保証する。グロンダーズ平原は穀倉地帯でアドラステア帝国の食糧庫だ。畑に影響が出ない領域で模擬戦は行われる。模擬戦と言っても怪我人続出の激しいもので回復担当の学生はどの学級であれ大変な思いをするだろう。

     ベレトが持ってきた地図を見て思うところがあったのかクロードは慌ててレオニーとラファエルを伴って教室から駆け出し書庫で禁帯出のもの以外グロンダーズに関する本を全て借り上げてきた。皆に本を渡し地形描写がある物とない物に仕分けさせた。この時、即座に役に立たない本だけを返却させている。情報を独占し他の学級に無駄足を踏ませた。クロードのこういう所がローレンツは会ったこともないべレスから疎まれたのかもしれない。
    2376