Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    すぺ2

    すぺ2という牛天垢です。Twitter上でタグとかで書かせていただいたのをまとめようかなーと思って作ってみました
    ゆるーくよろしくお願いいたします

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 16

    すぺ2

    ☆quiet follow

    栗原さん(@kuri_usiten)に大変仲良くしていただきまして!ありがたいです!!
    そんな中で、素敵絵をいただいて、それに小説付けさせていただくというものをやらせていただけたので&公開許可をいただきましたので、自慢という名の公開をさせていただきます!!いいだろ!!!
    おとぎ話パロです。
    栗原さんの素敵な絵付きのものは支部にあります(https://www.pixiv.net/artworks

    【はだかのおうじさま】

    その国はとても美しい国でありました。人々は幸福そうに微笑み、動物たちも穏やかに過ごせる緑に溢れ、美しい空と清涼な川と湖がその領地にありました。

    そこにやってきたのが1人の赤毛の男です。正確に言うなれば、彼は男と言うにはやや幼い顔立ちをしていました。年としては10代後半といったところでしょうか? ギョロリとした白目の多い大きな目は彼を幼くも奇妙にも見せております。ただ、その長身をひしゃげるように曲げて歩く様は老人のようでした。
    彼は、ヒョロリと長い手足をブラつかせながら質素な身なりで現れました。背中には大きな木箱を背負っております。ずっしりと重そうなそれのせいで少年は背中を丸めて歩いているのかもしれませんでした。

    「王子様の17歳のお祝いに参りまシた」
    その国の真ん中の少し小高い丘、その上に質素なお城がありました。赤毛の少年はそのお城の門の前で門番の少年にそう告げておりました。太眉の門番はその特徴的な眉をㇵの字にして赤毛の少年をマジマジと眺めます。
    「えっと、祝賀会はまだ先で……」
    「分かっていマス。ですので、その、祝賀会に見合う服を仕立てるために参りまシた」
    目を三日月の様にして笑う赤毛の少年を門番の少年が不思議に思っても仕方がない事でしょう。もう一人の門番の少年、銀髪の整った顔立ちの少年が、太眉の少年と赤髪の少年の会話に入って来たのも仕方の無いことだったでしょう。
    「王子は既に祝賀会の衣装を決めていらっしゃる。気持ちはありがたいが、またの機会ということにしてくれ」
    「そんなコトを言わずに。数日お時間をいただければスグに仕立てます。出来上がった物を、ゼヒ、王子に直接見ていただきタイのです。着るかどうかの判断はそれからで構いまセン」
    銀髪の少年と太眉の少年は顔を見合わせました。
    正直なところ、その赤毛の少年の身なりからはとても仕立屋のようには見えないのです。いくら放浪の仕立屋と言えども、彼らは彼ら自身の身なりが看板のようなものです。
    しかし、この少年の着ている物は、ステッチも飾りもガラさえも無い簡易な服装なのです。染料にこだわっているようにも見えず、布の肌触りも良さそうには思えません。特に、その少年の履いている靴があまりにも汚らしく、靴底は穴が空くのではないかと思うほどに擦り減っておりました。
    「2日で結構デス。仮縫いダケいたしまシて、王子にお見せいたしマス。それがお気に召さなければ、私を城から放り出しテいただいて構いませン」
    お願いします、と丁寧にその赤い頭を下げる様子を見て、門番の少年二人はついついその少年を通しても良いのではないかという気になってしまいました。万が一、この少年が不届き者だったとしてもこの城には屈強な護衛が何名もおります。ヒョロヒョロの少年一人で手こずる様には思えませんでした。
    「あ。白布」
    丁度、通りかかった色素の薄い少年に門番が声を掛けます。一見すると大人しそうなその少年は、柔らかな顔立ちをしているが為に少女の様にも見えなくもありません。しかし、銀髪の門番に呼ばれた瞬間にギュッと眉根を寄せたその表情は明らかに反抗期の少年そのものでした。
    「王子の所までこの仕立屋を送ってくれないか?」
    「仕立屋? それにしては随分粗末な身なりですね」
    声までも涼やかでその剣呑な表情さえなければ儚げな美少年にも見えなくないその少年は、ジロジロと赤毛の仕立屋を無遠慮にねめまわしました。しかし、赤毛の仕立屋はそんな視線にも屈せず、ひょいっとお城の敷地に入っていきます。そうして、ガンを垂れる美少年の抱える大量の本を数冊、ひょいひょいッと取り上げてしまいました。
    「こんなに大荷物、イッペンに運ぼうとするなんてトンだ面倒くさがりさんだネ。俺が持ってってあげるヨ」
    仕立屋が隣に立つと、白布と呼ばれていたその少年の背の低さが際立ちました。益々、白布の表情が剣呑になっていきます。先程までは丸まっていた仕立屋の背中はその時ばかりはシャンと伸ばされておりました。
    「俺が胡散臭く見えるのは百もショーチだヨ。さっきも話したけど、2日ダケ仕立ての時間をチョーダイ? それで俺が、大したものを王子さまに作れなかったら放り出してくれて構わないヨ」
    凶悪な表情で睨み上げて来る白布少年に対しても、仕立屋は飄々とした態度を崩しませんでした。むしろ、相手の感情を逆撫でするかのような落ち着き払った声音に、白布少年は口をへの字にしておりました。
    「白布」
    大きくはないですが、良く通る低い声がどこかから聴こえてまいりました。仕立屋がキョロキョロしているうちに、呼ばれた白布少年は城の建物の方を真っ直ぐに見ていました。建物の3階のバルコニーに、シンプルでありながら高価そうな衣服を身に着けた少年が立っているのが見えました。
    「すぐに参ります」
    バルコニーの少年に向かって仕立屋以外の全ての人間が頭を垂れておりました。仕立屋だけが真っ直ぐにバルコニーの少年を見上げます。バルコニーの少年も真っ直ぐに仕立屋を見下ろしていました。その金色に光る瞳は人というよりも猛禽類の瞳の様な鋭さを帯びておりました。
    仕立屋がまたにんやりと笑ったのはたったの一瞬でした。すぐに白布に「行くぞ」と先を促され、ぐるぐると回る階段を登ることになりました。お城の中には過度な装飾品は全くありません。しかし、しっかりとした作りの階段や壁、使い込まれた明かりなどの全てがくまなく美しい状態で保たれて居ることが、気付かないところで手入れを怠らない堅実さを表しているようでした。
    ベルベットの廊下を過ぎて、大きな鉄扉の先に、先程下から見上げたバルコニーとそこに居た少年が少しも動かずに佇んでいるのが見えました。部屋の入り口に二人、背の高い屈強そうな少年が立っておりました。一人は穏やかに白布に声を掛け、もう一人のおかっぱ頭は元気いっぱいに声を掛けます。どちらの少年も一瞬、鋭い瞳で仕立屋の足から頭までを見ておりましたが、当の仕立屋は気にも留めぬようすで真っ直ぐに金の瞳の少年を見ておりました。
    「お待たせいたしました」
    白布少年が深々と頭を下げながら手にしていた本を差し出します。それらを金色の瞳の少年が受け取ると、今度は仕立屋の脇腹を白布少年はコッソリ肘で突きました。
    「初めまして、王子さま。ご機嫌うるわしゅう」
    仕立屋は、少し大仰にも見える動作で挨拶をしながら、手に持っていた本を差し出します。それを静かに受け取った金色の瞳の少年は「これは誰だ?」と白布少年に問いました。ずっと下げられていた白布少年の頭がやっと上がります。その顔は明らかに不服そうでした。
    仕立屋の背中をおかっぱ頭の少年がン睨むように見ているのをもう一人の少年がいなしておりました。
    「本人は仕立屋と名乗ったそうです。王子の17歳の誕生日に服を仕立てたいと」
    「もう式典で着る服が決まってルのは聞いたヨ。ケド、俺が作る服も見てヨ。期限は2日。絶対に王子の気に入る服を作って見せるヨ」
    ふてぶてしい仕立屋の物言いに、白布が何か言おうと口を開きかけたのを、王子が制します。節の目立つその大きな手は、少年とは思えぬ逞しさでありました。
    「では2日だけ部屋と食事を与えよう。他に必要な物があったら言ってくれ」
    「なンにもないヨ。必要な物は全部、この中だからネ」
    がさりと仕立屋が揺らした背中の木箱は確かに何かがみっしりと詰まっていそうでした。
    「大平、西の離れが空いていたな?」
    仕立屋と白布を超えて、部屋のドア付近に控えていた少年に王子が声をかけました。大平、と呼ばれた穏やかな笑みの少年が小さく頷きました。
    「そうですね。ただ、掃除が行き届いていないかもしれません」
    「お気遣いなく。掃除道具さえ貰えれば自分でするヨ」
    くるりと振り向いた仕立屋がまた例のニンマリとした笑いをいたしました。それを見た大平少年は一瞬、目を見開きましたが、特に何も言いませんでした。ただ、黙って敵意を発し続けるおかっぱ少年をやんわりと制します。
    「では、俺が案内しましょう」
    大平少年が人の好さそうな笑みのまま恭しく頭を下げると、王子は厳かに「頼んだ」と返します。それとは真逆の軽快さで仕立屋が「アリガトー」と返す様は、一体、どちらがこの城の主なのか分からなくなってしまいそうでした。
    白布とおかっぱ少年はその様子に、明らかに眉をしかめます。ですので、仕立屋を引きつれて大平がその部屋を出たことを確認すると、すぐに王子に疑問をぶつけておりました。
    「王子、あんな胡散臭い仕立屋、なんで2日間も城に留まらせるのですか?」
    おかっぱ少年が王子に詰め寄ります。しかし、王子は眉一つ動かさず、静かにゆっくりと瞬きをいたしておりました。
    「問題ない。俺には常に大平も五色も付いている。王の護衛も優秀だ」
    非常に冷静な声で王子は呟きました。五色と呼ばれた際に真っ直ぐに見つめられたおかっぱ少年はビシッと更に姿勢を正して、少しだけその表情をニヤけさえておりました。優秀と称されたのが嬉しかったのでしょう。その五色とは対照的に、白布は変わらず硬い表情でした。
    「王子や王のお命を狙う目的ではなく物取りかもしれませんよ?」
    まだ何か言いたそうな白布を、五色がチラリと見ました。顔に似合わず、強気そうな白布少年には五色から何か言っても仕方がないことを五色も解っております。五色は優秀な護衛ではありましたが、この城に勤め始めてまだ日が浅いのでありました。
    「持って行かれて困る物はそんなにない」
    王子も、王も元々あまり物に対する執着が強い方ではありません。それは、この城の、その広大な敷地に見合わぬ調度品の少なさを見れば一目瞭然でありましょう。
    シンプルイズベスト。家は、強ければいい。食事は、栄養価が高く美味ければいい。
    そのため、中庭や裏庭は美しい花々よりも果実や野菜が多く植えられておりました。
    「住処や生活にただ困っているだけなら暫く住まわせてやるのも悪くない。ただ、怪しい動きがあればすぐにそれ相応の対処をしよう。それでいいだろう?」
    王子にそこまで言わせてしまえば、白布にも五色にも、もう言えることはありません。彼らが出来る精一杯のことをするまでです。
    「3度の食事は必ず共に摂らせるようにしよう。その方が、怪しい動きにも気付ける」
    「「仰せのままに」」
    白布と五色が糸で繋がっているかのようにぴったりと揃った拝礼を見せると、王子は無表情なまま静かにコクリと小さく頷いておりました。



    採寸をしたい、と夕食の際に言われた王子は、五色と共に西の離れに来ておりました。
    元々そこは、庭を管理していた庭師家族が住んでいた小さな家でした。代替わりと共に街に家を構えることを決めた庭師は、今は城の敷地の外から通って来ております。
    その、木造の可愛らしい造りの家に明かりがともるのは数年ぶりです。昔はよく遊びに来ていた王子としてもどこか懐かしい気がいたしました。
    コンコンと小さな木戸をノックすると、中から仕立屋の軽やかな声がいたします。ドアを開けた瞬間、王子と五色はギョッといたしました。
    「こんばんは。獅音くんは名前訊いたけど、そっちのオカッパくん、なンてーの?」
    「な、ななななな!?!?!?!?」
    五色が動揺して目を彷徨わせるのも仕方のないことです。なぜか、仕立屋が全裸で立っていたのですから。昼間見た仕立屋の赤い髪が降ろされていたことなどは些細なことに見えるほど、五色は動揺しておりました。元々あまり表情の変化が多くない王子でさえ、その目を大きく見開いて固まります。
    「あ。もしかしてコレ? カッコイイっしょ? これ、俺が仕立てた寝巻。心が純粋で誠実な人にしか見えない特別な布で作ってるンだヨ?」
    鼻歌を歌いながら簡易なキッチンでお湯を湧かす仕立屋は、至って堂々としておりました。むしろ、五色の目の前で服を見せびらかすようにくるりと回って見せるのです。しかし、たなびく服も裾も無く、ただ、仕立屋の赤い髪がふんわりと舞っただけでした。
    「申し訳ないが、俺には見えない」
    キッパリと言い切った王子を仕立屋が、長い前髪の下からギョロリとみつめます。そうして、その、独特な笑みを浮かべながら、すぅっと王子に近付きました。
    「王子様、君にはコレが見えないの? ってことは、君には俺がどう見えるの?」
    「なにも着ていないように見える」
    「そ?」
    先程、五色の前でしたよりもゆっくりと回って見せるその様子はまるで踊り子のようでした。一糸まとわぬ姿の仕立屋は、その手足の長さと白い肌が目立ち、部屋の中で仄かに発光する様に見えなくもありません。
    「王子に、コレと同じ素材で服を作ってあげようと思ってたンだけど……お気に召さないカナ?」
    仕立屋が、その長い指ですぅっと王子の胸から腹を撫でました。その突然の接近に五色は思わず身構えます。しかし、その瞬間、ピー! っとヤカンが大きな音を立て空気を切り裂きました。どうやら、湯が沸いたようです。
    崩れた空気に呼応するように、仕立屋の様相も崩れました。
    「旅してる間にみつけた寝つきがよくなるハーブティーがあるンだ。採寸ついでに飲んでってヨ」
    仕立屋のその、人の好さそうな笑みは先程の緊張感のある笑みとは全く別人の様でした。何食わぬ顔で五色と王子に小さなダイニングテーブルに座る様に促します。
    王子は素直に席に付きましたが、流石に、五色が色めき立ちました。今は何の害も無さそうにしている仕立屋ですが、先程の表情は暗殺者と言われても不思議でない緊張感をまとっておりました。昼に背負っていた木箱の中をごそごそしている仕立屋の様子に注意深く視線をやりながら、五色はそっと王子に耳打ちいたします。
    「その、毒など盛られる可能性も……」
    「そのつもりならば、夕食の際に王の御前で堂々と俺を呼び立てないだろう?」
    「ソーソー!」
    ぐるっと振り向いた仕立屋があまりにも真っ直ぐに五色を指さしましたので、五色は思わず背筋をピンと伸ばしておりました。
    「俺が毒とか混ぜてないか心配だと思うから、そこのティーカップとポット、君が洗って。ンで、これがハーブティーね。モチロン、君が淹れてネ? 淹れ方わかるよネ? ちゃんと香りが出るまで1分くらい置いてネ? お茶入れたら、俺が最初に飲むから。そんで、俺が死なナイの見てからなら安心できるデショ?」
    はい、と仕立屋から渡された小さな小瓶には花びらも混ざったような茶葉のようなものが入っておりました。五色は入念にそれを振ったり下や横から見て異常がないか確認しておりました。
    五色がそんなことをしている間に、仕立屋はサッサと王子の目の前の椅子に座ります。片肘をついて斜めに座る様はもう既にこの家の主然としておりました。
    「俺、友達になった人は名前で呼びたいんだ。王子様、下の名前教えてよ? あ、ちなみに俺は天童覚。明日の朝飯7時だっけ? 早くネ?」
    五色がモタモタとハーブティーを淹れている間に、天童と名乗った仕立屋はぺらぺらと王子に話しかけます。それに対して王子はただ、静かに応じておりました。
    「俺は牛島若利だ。7時はそんなに早くはない。客人が居るからということでいつもより遅くしたんだ」
    「え~? マジ? オジーちゃんカヨ? あ、でも、王様はケッコー俺、好きなタイプのオジーちゃん。質実剛健っぽいよネ。眉毛太い。可愛い」
    「王に対してそういう評価をする人間を初めて見た」
    「そ~ぉ? 多分、みんなビビッて言ってネーだけジャン? あ、王様はなんてユーの?」
    「鷲匠鍛治だ」
    王子が王の名前を告げた時、一瞬、仕立屋の閉じられることを知らないかと思われた口がぴたりと動きを止めました。
    「あれ? 苗字違うの?」
    先程までとは全く違い、弱々しくゆっくりなその声に、むしろ、王子の方が疑問を抱くほどでした。
    「俺は養子だからな」
    「え? マジ? ごめん。意外と複雑な家庭?」
    パチパチとせわしなく瞬きをする割に、仕立屋の背がピンと延びたのを王子は不思議そうに眺めて居りました。背を伸ばすと、仕立屋の裸の胸が薄いのが一層、目立ちました。
    「いや。ただこの国の政権は世襲で無いだけだ」
    王子の説明するその声が今までの物と全く変わらなかったことに、仕立屋は数秒間そっと耳をそばだてているようでした。
    そうこうしている間に、五色がハーブティーをそれぞれのカップに淹れ終わり、そっとテーブルの上に置いていきました。レモンやラベンダーのような香りの中に、スゥっと抜ける爽やかな香りが際立つ湯気がふんわりと立っておりました。仕立屋は、五色が自分の前にそのカップを置く際に呼び止め、王子の言葉の真偽を問いました。五色はそれを至って冷静なトーンで肯定いたしました。仕立屋は小さく息を飲み、それから軽やかに口笛を吹きました。
    「へ~ぇ。変わった国だって聞いてたけど、マジで変わってンね? でも、そーゆーの好き」
    いただきます、とカップを掲げて見せる仕立屋を五色が食い入るように見ておりました。出されたカップに早々に手を付けようとした王子を五色がどうにか止めます。
    仕立屋は熱い物が飲めないのか、何回もふーふーと息を吹きかけてそのハーブティーをちびちびと飲みます。仕立屋がある程度の量、そのハーブティーを飲んだところで、やっと、五色と王子はカップに口を付けることにいたしました。
    香りの通り、爽やかなスゥっとした味わいで、確かにぐっすりと眠れそうな気がしました。
    「お茶飲み終わったら採寸させて。出来れば……服脱いでもらいたいけど、ヘーキ?」
    「構わない」
    「おっけ。つーか、若利くん、飲むの早くネ? 熱くネーの?」
    「少し熱いくらいがこういうものは好きだ」
    空になったカップを見て、もう一杯飲みたそうに五色を見た王子の様子に、流石に仕立屋が爆笑いたしました。五色が少しだけ茶葉を足してもう一度淹れ直す間、どうにか仕立屋にも飲める温度に冷めた様でした。
    「気に入ったなら、この茶葉あげるヨ。変わった葉っぱじゃないから庭師さんとかに見せれば同じ物、育ててくれるンじゃないカナ?」
    「訊いてみよう」
    素直にコクリと頷く王子を、仕立屋は頬杖をついたまま面白そうに眺めます。それは仕立屋がよくする瞳を三日月の様に細める笑みにどこか似ておりました。
    そんなことは王子はつゆほども気づ着ません。ただ、熱々の淹れたてのハーブティーを堪能しておりました。
    「それ、気に入ったンだ。良かった」
    さっと立ち上がった仕立屋は今日来たばかりだというのに、今まで何年もここに住んでいたかのように吊り棚を開け、空の小瓶を取り出しました。惜しげもなく自分の持っていた茶葉をそれに分け、満杯になった小瓶を王子の前に差し出しました。
    「ッテか。その2杯目、飲み終わったら採寸させて」
    王子が返事をするのも聞かず、仕立屋はまた木箱の元へ行きました。そうして、小さなメジャーを取り出します。
    2杯目を充分に楽しんだ様子の王子もスッと立ち上がり、躊躇う様子もなく服を脱ぎ始めました。へぇ、と仕立屋が感嘆の声を上げたのはどういう意味だったのでしょうか?
    「美しいねぇ……」
    普段から剣術などで鍛え上げている王子のその姿は、堂々としていることも相まって、一種の芸術然としておりました。身長は仕立屋と大差がありませんが、その肩回りや胸周りの厚み、重厚さが全く異なり、やもすれば仕立屋が貧相に見えるようでした。
    お付きとして共に来た五色が心持ち緊張した面持ちで二人を見ておりました。堂々と仁王立ちする王子にはなんの思惟も感じられませんでしたが、彼に向かい合い、値踏みする様にその肩、腕、脚、胴……と次々と計測していく仕立屋の指先は、どうも匂い立つように見えて仕方なかったからです。
    テキパキと小さなメモのようなものに数字を書き込んでいく仕立屋が上機嫌で鼻歌を歌います。それは王子も五色も知らない異国のメロディのようでした。
    「若利くん、ありがとう。モーイーよ。多分、明日の夜には仮縫いが出来てるから、また今日ぐらいの時間に来テ」
    ハーブティー、忘れずにネ、と机の上に置きっ放しだった小瓶を仕立屋が指さします。五色が恭しく手に取ったのを確認すると、王子は静かに頷いておりました。
    「俺の作る服、王子が気に入らなかったら、明後日の朝にでも俺はオイトマするからサ」
    仕立屋の口振りはどこかふざけているようでしたが、その赤い瞳の奥はキラリと真っ直ぐな光が差しているいるようでした。王子が思わず一瞬、息を飲みます。
    「わかった。楽しみにしている」
    噛みしめる様に返された言葉に、今度は一瞬、仕立屋が息を飲む番でした。
    「俺もだヨ。こんなキレイな王子様の服を作れるなんてコーエーだ」
    「そんな風に言われたのは初めてだ」
    嘘偽りの一切無さそうな王子の真っ直ぐな金の瞳が、全てを煙に巻きそうな仕立屋の赤い瞳を映しておりました。
    「オヤスミ、よい夢を」
    小さなその離れの出口で見送る仕立屋は、王子が見えなくなるまで手を振っておりました。



    翌日、王子は誰も引き連れずに仕立屋の居る小屋に来ておりました。
    昨日のやり取りを間近で見ていた五色は付き添うことを強く望んでおりましたが、王子からのたっての願いとあればそれを覆すことなど誰も出来ません。
    「せめて、小屋の外で待たせてください」
    その五色の申し出は受け入れられ、小屋のドアの前で待つことになりました。
    王子は簡素な服装で小屋の中へと向かいました。もちろん、帯刀などしておりません。それでも堂々と、何の疑いも無く仕立屋の居る小屋に入っていきました。

    「いらっしゃい」
    仕立屋は昨夜と全く同じ様子で王子を待っておりました。一糸まとわぬその姿は薄暗い小屋の中で発光しそうなほどに白く見えます。
    違うとすれば、仕立屋が部屋の隅にある小さなベッドに腰掛けていたことくらいでしょうか?
    「仮縫い、出来たよ。着てみる?」
    そう言って仕立屋が視線をやった先にはやはり何もありません。ただ、そこに簡素なベッドがあるだけでした。
    「着てみよう」
    しかし、王子は動じもせずにベッドに近付きます。ゆっくりとシャツのボタンを上から外していきました。
    「脱がすの、手伝ってあげるよ」
    仕立屋が腕を伸ばし、何かを取り上げました。王子が目の前に来た時、後ろ手にされていた仕立屋の手にキラリと光る物がありました。大きな裁ちばさみの鋭い刃は、恐ろしいほどに研ぎ澄まされておりました。
    「まずは、その無粋な袖から……」

    夜は、始まったばかり。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    すぺ2

    DOODLE若利くんお誕生日に思いついたネタなんですが、なんか、薄暗い…?いや。めっちゃハートフルハッピーエンドのつもりで書きました。
    新書メーカー背景付きで投稿しましたが、なんか読みにくかったので
    Dear… 牛島家にはいつからかサンタが夏にやって来る。
     ある日の夕方、牛島若利がバレークラブから帰ってくると、玄関に両手で抱える程度のダンボール箱が置かれていた。差出人の名はなく、『若利へ』という右上がりのメモが貼られている。
     玄関まで出迎えに来てくれた母を見上げると、母は若利に小さく頷く。
    「季節外れですが、サンタさんが来ました。若利にだそうです。手を洗ったら開けてみなさい」
     何の疑問を感じないのか、若利はただ素直にこくりと頷く。そぉっとそのダンボール箱を持ち上げると、大きさの割には軽く感じられた。
     中身がなにかさえも分からないので、若利はそれを慎重に持ち運び、洗面台の足元にそっと置く。それからいつものように固形石鹸を丁寧に泡立て、爪の中まで丁寧に洗った。いつでも乾いた清潔な物がかけられているタオル掛けのタオルで丁寧に指先までしっかりと水分を拭き取ってから、もう一度若利はダンボールを抱えて居間に向かう。
    1835

    すぺ2

    TRAININGかさねさん(@kasanedane22)の素敵絵にss付けさせていただきました!元絵が本当に!!可愛いのにえっちいのでぜひ見てください!!!
    絵も小説も描ける&書けるかさねさんに私ごときが書くの本当に恥ずかしいですが!!!恥を忍んで書きました!
    【きみは、ぼくのおきにいり】

    天童覚は変わっている。

    「ブロックは読みと勘だヨ~」
    今では珍しいゲスブロックを得意とするMB、ひょろりと伸びた手足、異様に青白い肌、それに対比する様に真っ赤な逆立てられた髪。普段は猫背な彼も、ひとたびコートに入り、ブロックに跳べば、その背はにょきりと伸び、ゴム製で出来たおもちゃのようにしなやかな手指が相手からの攻撃を叩き落としてしまう。
    初めて牛島若利がその独特なブロックを見た時。今まで見た数々のブロッカーと異なるその「叩き落とす」技術に釘付けになった。牛島の父が繰り返し話していた言葉を思い出す。
    「強いチームに行けば、強いやつ、面白いやつに会える」
    白鳥沢バレー部はどこからどう見ても強いチームだった。だからこそ、この、一味も二味も変わったゲスブロッカーに出会えた。
    ——お父さん。やっぱり、このチームは、強い——。
    自分が一番の変わり者とされていて、そのチームで最も強いと思われているとは気づきもしない牛島は、天童をはじめ、数々と集まるメンバーを見てそう感じていた。

    「若利く~ぅん!」
    間延びしたイントネーションで天童がそう呼ぶ時、牛島はただ、静かに 1326

    すぺ2

    TRAINING亜歳さん(@asai_oekaki)のかわいい牛天ワシの絵に付けさせていただきました!元絵がすごくかわいいので!!!ぜひ見に行ってください!!【にひきのわしのうしてん】

    「ワカトシくん、ワカトシくん」
    テンドウワシが ぴょこぴょこと あかいかざりばねを ゆらしながらワカトシワシのまわりを ちょこちょこあるきます。
    「はしのむこうに、おいしいきのみがいっぱいあるんだって! いこうよ!」
    「はしのむこう?」
    ワカトシワシがみどりのかざりばねをゆらして ちいさくくぶをかしげます。
    「あのトロルのいるはしのむこうか?」
    「そーそー!」
    テンドウワシが そのまっしろなつばさをひろげます。よくみれば、そのつばさは ひかりにすけてうすむらさきいろに みえます。
    「このまえまでとなりのもりにすんでた ことりのおやこがたべられちゃったってきいたけど たぶん、おれらはだいじょうぶ」
    ふふん、ととくいげにテンドウワシはその するどいくちばしをみせびらかします。ワカトシワシは なにかをかんがえていました。
    となりのもりの ことりのおやこは テンドウワシとウシワカワシがこのもりに すみはじめたとき、となりのもりの きれいなみずばを おしえてくれたしんせつな おやこでした。
    「わかった。ほんとうにトロルがあのおやこをたべたなら おれたちはいくべきだろ 705

    すぺ2

    MOURNING栗原さん(@kuri_usiten)に大変仲良くしていただきまして!ありがたいです!!
    そんな中で、素敵絵をいただいて、それに小説付けさせていただくというものをやらせていただけたので&公開許可をいただきましたので、自慢という名の公開をさせていただきます!!いいだろ!!!
    おとぎ話パロです。
    栗原さんの素敵な絵付きのものは支部にあります(https://www.pixiv.net/artworks)
    【はだかのおうじさま】

    その国はとても美しい国でありました。人々は幸福そうに微笑み、動物たちも穏やかに過ごせる緑に溢れ、美しい空と清涼な川と湖がその領地にありました。

    そこにやってきたのが1人の赤毛の男です。正確に言うなれば、彼は男と言うにはやや幼い顔立ちをしていました。年としては10代後半といったところでしょうか? ギョロリとした白目の多い大きな目は彼を幼くも奇妙にも見せております。ただ、その長身をひしゃげるように曲げて歩く様は老人のようでした。
    彼は、ヒョロリと長い手足をブラつかせながら質素な身なりで現れました。背中には大きな木箱を背負っております。ずっしりと重そうなそれのせいで少年は背中を丸めて歩いているのかもしれませんでした。

    「王子様の17歳のお祝いに参りまシた」
    その国の真ん中の少し小高い丘、その上に質素なお城がありました。赤毛の少年はそのお城の門の前で門番の少年にそう告げておりました。太眉の門番はその特徴的な眉をㇵの字にして赤毛の少年をマジマジと眺めます。
    「えっと、祝賀会はまだ先で……」
    「分かっていマス。ですので、その、祝賀会に見合う服を仕立てるために参りまシた 9238