豪奢な装飾が施された漆喰天井は、古代オリンピアンの勝者に被せられたという月桂樹の冠を彷彿とさせた。
その下、広い絨毯敷きの上を行き交う仲間たちに普段見慣れない黒い尾っぽが生えていると、神永は密かに可笑しがりつつ眺めていた。
きっと誰しもが同じことを考えている筈だ。全員燕尾服を着ているのだから。
彼らは偽装上の勤務先である、大東亞文化協會の周年パーティー会場にいた。新京や京城といった外地に置かれている支部の人間も招いて会場を借り切っている。ここで恙無く職員として振る舞うのも、訓練のうちだった。
時刻は各支部の代表たちの挨拶が始まる頃になろうとしている。だが誰か足りない気がする、と丁度考えていたところ、「神永」と三好が耳打ちしてきた。
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