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    MondLicht_725

    こちらはじゅじゅの夏五のみです

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    MondLicht_725

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    夏五版ワンドロワンライ第94回お題「魔法のランプ」お借りしました。

    夏だけ転生してる話。

    #夏五
    GeGo
    ##夏五ドロライ

    夏五版ワンドロワンライ第94回お題「魔法のランプ」 善にも悪にもつながる道
     お望み通り
     天国も地獄も 運命は
     その手の中にある

     ――――アラジン『アラビアン・ナイト』より






     
     「立ち入り禁止」の札が引っかかったロープを乗り越えてほんの数歩で、傑は早くも後悔した。やっぱり来るべきなかった。きっちり断っていれば、今頃は自室で配信が始まった映画を見ながら一杯やってたところである。
     緩やかだが長く続く暗い山道に、前を行く友人たちの声は次第に大きくなっていく。外部からの立ち入りを拒む私有地の山の中、当然人工的な明かりなどない。ざわざわと風が木々の枝を揺らす音が、不気味さをさらに演出する。
     山の中、ではあるのだが、進む道には古い石の階段がある。雑草や泥に侵食され、ほとんど埋もれてしまっているが、明らかに人の手によって造られた場所だ。この先には、噂によれば棄てられ放置されたままの古い寺院の跡があるという。
     なんだってこんなところに大学生数名が忍び込もうとしているかといえば、ここにはある都市伝説があるからである。
     今は誰もいない廃寺には、お宝が隠されているという。まあ、よくある話だ。ただしここに隠されているというお宝とは、いわゆる「魔法のランプ」だというのだ。
     寺にアラビアンナイトはあまりに馴染まないが、これは単なる比喩で、ようは巨大な力を秘めた何かしらのモノが封印されているというのだ。
     もちろん、信じている者はいないだろう。ただ、長い夏休みに暇を持て余した大学生の好奇心を擽っただけの話である。
     傑としてはまったく興味もなかったのでできれば誘いを断りたかったのだが、どうしても頼むと頭を下げられて結局は断れなかった。
     なぜこうも無理やり傑を誘ったのか、理由はなんとなく察している。
     出発してから何度も向けられる、なにか言いたげな複数の視線。こんな真っ暗な山中だというのに、まるで街中にデートに来たかのようにオシャレしてばっちりメイクも施した彼女たちを誘い出す餌にされたのだ。
     当然、こんなにも険しい道を歩くなんて聞いていなかっただろうから、主催者に文句が集まり始める。
     これ幸いと、そろそろ戻ろうと口にしようとしたとき―――突然、視界が開けた。

    「マジかよ」

     誰かの、半笑いの声がやけに響いた。
     目の前に現れたのは、あまりにも広大な敷地のあちらこちらに散らばる寺社の建物群である。ところどころが崩れているが、ほとんどは綺麗に残っていた。ただ、当然のごとく人の気配はない。
     しばらく呆然と眺めてしまったが、やがて誰かが入ってみようと提案した。
     傑は反対した。ロープを超えた時点ですでにアウトだとわかっていたが、これ以上侵入してなにか壊してしまっては本当にまずい。
     しかし傑の正論に賛成してくれた者は誰もおらず、むしろ怖いのかと煽られる始末。
     結局はもっとも目立つ大きな建物に一緒に向かうことになった。まったく乗り気にならない、むしろ早く帰りたいという気持ちは足を重くし、自然と集団のしんがりを務めることになる。徐々に距離も開いていく。彼らの望み通りぎゅうぎゅう体を寄せ合いながら離れていく友人たちに、ため息が出た。



    『     』



     不意に、誰かに呼ばれた気がして、足を止める。周囲を見渡してみるが、前方の騒がしい集団しかいない。
     けれど、今のは、彼らではない。



    『     』



     ――ああ、まただ。誰かが、呼んでいる。
     無意識に、爪先が方向を変える。まるでなにかに乗っ取られたかのようだった、と後から考えれば思う。けれどこのときはなんの疑いもなく、心のままに、体が動くままに、初めて訪れたはずの場所の、初めて通った道を、迷うことなく進んでいた。

     そして気づいたときには―――真っ暗で狭い部屋の中にいた。
     部屋の真ん中には、淡く青く光る、立方体の箱があった。四方にびっしり目の模様がある、不気味な箱だった。
     あまりにも不可思議な光景だ。それなのに、傑はなんの疑いもなく、1mmの恐怖もなく、近づき、触れた。

     窓のひとつもない部屋の中なのに、強い風が吹き抜け、傑の長い髪を揺らす。それは決して攻撃的なものではなく、むしろ傑を優しく包み込むかのようだった。
     目を見開く。開いた口は、結局紡ぎ出す言葉を見つけられず、吐息だけを吐き出す。
     光っていた箱の蓋が、大きく開いているのが見える。
     その前に、傑よりも大きな、全身真っ黒な服を着て真っ黒な布で両目を覆った男が立っていた。明かりのない空間で、真っ白な髪が輝いて見えた。
     やけに艶やかな唇が、笑みを作る。


    「僕を起こしたのは、君かな?」
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