人魚の仕入れ 透明な釣鐘がちりりと響く。真夏の空色を写し取ったガラスが震え、涼やかな音をあたりに響かせている。夏の音、虫の音、清らかな音――
「雪の音だ」
深い、ふかい池の底にて。真冬に閉じ込められた魚は雪の音を知っている。
うすはりの氷のなかに、しんしんと積もる雪。音もなく、ただただ積み重なるだけの六花は真白な塊となってうずもれてゆく。その小さな音を、この女はいつも聞いている。
大池の茶室にて。体を水に浸しながら(それこそ、温泉にのんびりと浸かるような風体で)豊かな黒髪を水面に流した女が言った。真夏の夜の夢(A Midsummer Night's Dream)が脳裏に浮かぶ。幻想的な現実は、女が水面を打つ音で破れていった。
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