佳人薄命「清麿。僕の格好、変じゃない?」
「全然。よく似合ってるよ」
「そ、そうか……」
紫の襟巻きで口元を隠しながら嬉しそうに水心子は笑みを零した。
「浴衣で花火大会を楽しむのもいいね。雨が上がってよかった」
清麿は水心子の隣を歩いた。朝まで雨が降っていたから開催されるか不安だったが無事に取り行われるようだ。周りは花火大会に向かう客で溢れている。
「ねえ水心子。君が良かったらでいいんだけど……」
「どうした? 私と清麿の仲だろう? 遠慮しなくていい」
「……手、繋いでもいいかい? 人が多いからはぐれてしまわないように」
「確かに、この人混みだとはぐれてしまいそうだな……。わかった」
水心子は手を差し出した。
「ありがとう」
差し出された手を清麿は握った。
「まずは花火を見る場所の確保かな。屋台のご飯も食べたいよね」
「それなら清麿が場所を取って、私が買い物に行くというのはどうだ?」
「成程。いい考えだね」
花火がよく見えそうな場所を探しているとちょうど2人がけのベンチを見つけた。
「ここで待っておくから、水心子の好きなものを買うといいよ」
「そ、それは駄目だ! 清麿の意見も取り入れなければ2人で来た意味がない」
「じゃあ、かき氷がいいな。今日は暑いから冷たいものが欲しい」
「わかった。味は何がいい?」
「メロンでお願いできるかな?」
「ああ。買って来よう」
水心子は屋台が並ぶ通りへと歩いていった。
「……それにしても、人が多いね。水心子、迷子にならないといいけど……」
気がかりだがいざとなればスマホで連絡を取ればいいからあまり心配する必要はないか。
清麿は水心子が帰って来るのを待った。
「清麿お待たせ」
しばらく待っているとかき氷を2つ手にした水心子が戻ってきた。
「あの人混みを迷わずに戻って来れたんだ。凄いね水心子」
清麿は手を伸ばして親友の頭を撫でた。
「やめてよ清麿。子供じゃないんだから」
そう言いながらも水心子は嬉しそうだ。
「かき氷、買って来たよ。メロン味で良かったよね?」
水心子は親友にかき氷を渡す。
「うん。水心子もかき氷にしたのかい?」
「本当はりんご飴にしようかなと思ったけどかき氷見てたら食べたくなっちゃって。僕はいちご味にした」
清麿の隣に腰かけ、赤い氷をスプーンストローで崩して水心子は口に運んだ。
「美味しいかい?」
「うん。美味しいよ。溶けないうちに清麿も食べたら?」
「そうするよ。でも、その前に――」
じっ、と清麿は水心子を見つめた。
「ぼ、僕の顔に何かついてるの……?」
「いや。メロンにして正解だったなと思って。君の瞳と似た色をしているから」
清麿は笑みを浮かべながら正面を向いてかき氷を食べ始めた。親友の行動が理解できず戸惑いながら水心子は黙々とかき氷を食べ続ける。
「痛っ……」
突然、水心子がこめかみを押さえた。
「あはは。三叉神経が刺激されてるね、水心子。ゆっくり食べないと」
「誰のせいだと思っているんだ……」
不機嫌そうに水心子はかき氷を口に運ぶ。
「あ。見てよ水心子」
「見る、って何を――」
俯いていた水心子は顔を上げ、親友が指差す方向を見た。一筋の光が地上から放たれ、空に大きな花を咲かせた。
「花火、始まったみたい」
どん、どん、と派手な音を立てて空で咲いた花が静かに散っていく。
「本当だ。綺麗だね……」
水心子は目を輝かせる。
「でも、花火の寿命は短い。大きな花を咲かせるけれどすぐに散ってしまう」
「そうだね。でも、それが綺麗だと僕は思う」
次々と上がる花火を2人は見つめる。
「僕もそう思うよ。……水心子」
「何だ?」
花火を背景に2人は見つめ合う。
「……僕のかき氷、あげるから水心子のも食べさせてよ」
「ああ。構わない」
氷が入ったカップを水心子は清麿の前に差し出した。
「ありがとう」
スプーンストローで赤い氷を掬って清麿は口へ運んだ。