右手の味、左手の興味「長義、おやつもらった。食うよな」
食べるとも食べないとも言わないうちに、国広が机の端に透明の小さな袋を置いた。ちらりと見上げると国広の手にも似たような袋がある。
施しを受けるつもりはないが(施しって何なんだ、と、国広の呆れ声は無視する)、半分こなら願ったりだ。ーーが。
「どうして俺に選択肢はないのかな? 国広が持ってるの、何味?」
「あんた……ときどきびっくりするくらい図々しいな」
「もし俺が両手にからあげくんを持っていて、問答無用に右手のからあげくんをお前に渡したら『左手のからあげくんも見せろ』ってならないか?」
「なります」
よし。
素直に差し出した国広の手から菓子をつまむ。何かと思えば金平糖らしい。ああ、あの、有名なやつ。でも、食べたことない。
どこでもらってきたの? 国広と菓子があまり結びつかないなと疑問に感じつつ手元をひっくり返して、小さく書かれたフレーバーを読む。
「塩……。塩!? 塩味の金平糖!? 不可っ」
「だろう……。だから、あんたにそっちを渡したんだ……」
先に国広がくれたほうをひっくり返す。
「和三盆……。優だよ……」
「……」
国広は薄べったい目で見ているけれど、気にしない。
「砂糖と塩でここまで差が……」
「砂糖じゃないよ!? 和三盆だよ!? 和! 三! 盆!」
「はいはい」
ため息交じりに国広は袋を開ける。一般的な金平糖より大きな欠片をひとつ口に入れて、
「ふーん……」
と、呟く。そういえば塩味の金平糖ってどんなんだろう。食べたことない。甘いのだろうか。それとも、塩辛い?
「……長義……。そんなに見られると食いにくいんだが……」
「だって」
気になるだろ。
長義は机の隅にあるペーパータオルを一枚引き抜いた。そしてそこに、和三盆の金平糖をざらざらと広げる。定時まであと二時間ほどだけれど、今日は残業決定なので、糖分補給にちょうどいい。
欠片をひとつつまんで、長義も口に入れる。
「んー、甘い。おいしい。これは、いいな」
「へえ……。人が食ってると、気になるな」
「だろう。シェアしようよ、シェア」
「ん」
国広があっさりうなずいたので、長義はもう一枚ペーパータオルを取り出そうと手を伸ば……すより一瞬だけ早く、国広は和三盆の金平糖の上に自身の手にある金平糖をざらざらと加えた。
「あーっ! ばか! 国広、何してんのっ」
「え? シェアするんだろ」
「ちがっ、おま、和三盆に塩味混ぜるなっ!」
「えー……。食えば味が違うのわかるし、いいんじゃないのか……」
「よくないだろ、味が混ざる! 砂糖と、塩だぞ!?」
「あんたさっき砂糖じゃないって言……」
「そういう問題じゃない!」
end
(2022.02.20)