みなそこの温室三千世界すべてのくちが開き、線引きが曖昧になる夜がくる。隣に立つのはきちんと知る輪郭か、陽炎のように揺らめいてはいないか。確かめる術を知っていないと暗がりに掻き消えても気づけない。
「誠に恐縮ですが、自撮り棒のご使用は周りのお客様へのご迷惑になりますので……」
「なに~?いいじゃないですか~スタッフさんにお手伝いしてもらわなくていいんですから~」
「いえ、そうではなくて、危険な薬品も多いもので、あっ!」
自撮り棒がフラスコに触れて甲高い音が鳴る。シルバーの細い長物を直接掴むわけにもいかず、空中を彷徨わせるしかなかった手はなんとか間に合って瓶を破損せずに済んだ。
「あ~ごめん、ごめーん、お兄さん反射神経いいね~!」
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