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    なまたまご

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    なまたまご

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    ラノベ作家からさんと家事代行にょたんばちゃんの話①出会い編です!このくりんば♀の話の元ネタはますおさんによるものです!
    先程のツイートに3000字ほど加筆しました!
    注:からさんがあまりかっこよくない。

    俺の名は大倶利伽羅広光。随分厳つい名前をしているが、本名だ。職業はラノベ作家をしている。ペンネームにはうってつけの名前だから、そのまま使おうとしたら編集に止められた。俺の執筆する話は基本的に可愛らしい少女に冴えない主人公が囲まれ、大した理由はないが何故かちやほやされるといったものだ。しかしそれに対してペンネームが俺の本名だと少々ゴツいのでそぐわない、ということらしい。どうせ読者が気にしているのは本の中身だけだ、更に言ってしまえば中身もさほど気にされていない。あいつらが見たいのは、可愛いらしい少女と自分がまるで恋愛をしているように感じられる描写だけだ。俺の名前などどうでもいいだろうと思ったのだが、編集に言わせると執筆者のイメージも作品に関わる云々だそうだ。まあ、いい。そういう訳で俺のペンネームは相州広光というあっさりした名前になっている。
     住んでいるのは都内の片隅の6畳半の1Kアパート。大学に通うため上京して、引っ越した部屋に卒業後もずっと住んでいる。そこそこ売れている、方だが俺に入ってくる金はそれほど多くない。それでも俺はさほど苦していない。雨風が凌げればそれでいい。俺がラノベ作家などという肩書きを手にしたのも大した理由はない。大学時代に暇潰しついでに書いた話がネットの一部で人気が出て、あんな話を読みたい、こんな話を書いてくれと言われるようになった。それに応えてやっているうちに出版社から連絡が来て、今に至る。就職活動をするのも嫌だったから、ちょうど良かった。
     俺のことをちょうどラノベのように紹介するなら、こんなところだろうか。平凡で、読者に感情移入してもらうに充分な主人公だろう。俺は無意味にパソコンのメモ帳に打っていた文章を消すため、デリートのキーを長押しした。中途半端に残していたコーヒーに口をつけて、また机の上に戻す。すっかり温くなったコーヒーの不味さを例えるなら、何がふさわしいだろう。イギリスは飯の不味さで有名だが、レーションにすらその不味さが及んでいると言う。食ったことがないから、その真偽は定かでない。俺は自分の思考の散らかり具合に頭を掻いた。
     手詰まりである。今書いている小説は今までで一番人気が出た。当然、編集はこのままの勢いでアニメ化を狙いたいと言ってきた。勝手な話である。その為にはよりリアルで”男の夢“に溢れた恋愛シーンを増やしてほしいとも言われた。俺は仕事上逆らうわけにもいかず、次巻の分から徐々にそういった方向へシフト転換するよう書くと返事をしたのだが…。人と積極的に関わることを避けてきた俺にはなかなかの難題だ。現にこうして執筆に行き詰まっている訳である。ふと壁にかけてある時計を見上げると、夕方17:46分を指していた。どうりで窓の外が薄暗いはずだ。夕飯の材料を買いに行くがてら、外を歩くのもいいかもしれない。そう思いながら立ち上がれずに、パソコンの前でぼうっとしていると来客の足音がして、インターホンが鳴った。嫌な予感がする。けれどこの安アパートに外の様子を見られるモニターなぞ備わっていない。仕方なく立ち上がり、ドアを開けると白髪の男が立っていた。鶴丸国永、俺の唯一の肉親だ。
    「いよ!」
    鶴丸は胡散臭い笑顔を浮かべている。
    「おい、来るならその前に連絡しろと言っているだろ。」
    「はっは、すまんすまん。俺が行くと言ったら君は居留守を決め込むか、その前にパソコン片手にカフェにでもとんずらコくだろ。」
    「…。」
    俺はドアをそのまま閉めようかと思った。こいつと関わるとロクなことがない。近くで烏が鳴いているのが聞こえてきて、他人の家の夕飯の匂いがする。街は俺を置いてきぼりにして、ひどく長閑だ。
    「まあ、立ち話もなんだ。ちょっと入れてくれよ。」
    「…急に来たのはそっちだろう。帰れ。」
    「酷いなぁ、加羅坊。俺はいいけど、俺の横にいる女の子はそうはいかないぜ。夜風で身体が冷えちまったら、可哀想じゃないか。なぁ、君。」
    「は…?女?」
    鶴丸はまるで隣に誰か立っているかのように、横を向いた。いつもの悪い冗談だろうか。見えないモノがいるかのように演技して、俺を揶揄っているのか?
    「ほらほら、君もなんとか言ってくれよ。寒いよぉ。早くおうちに入れてくださいご主人様ぁ♡とか言ってやればいれてくれるって。あ、これパワハラになるか?」
    いよいよ扉を閉めようとした時、俺の目の前には突然、妖精のような少女が現れた。妖精のような、というのは小さいという訳ではなく可憐だ、ということだ。いや、確かに背丈は俺や鶴丸に比べて小さくはあった。
    「すまない、良ければ部屋に入れて欲しい。俺も仕事場を下見しておきたいんだ、ご主人様。」
    その女はハキハキと俺に要求した。黄金に実った麦色の髪が風に揺られ、湖よりも澄んだ碧眼が俺を見上げている。言葉を発した唇は艶のある桃色で、頬は血色のいい薄紅色だった。微かに花のような、甘い香りがするのは香水ではなく彼女のボディソープや洗濯洗剤の香りなどが一緒くたになって紡がれたものだろう。パンツスタイルのスーツは何処か彼女から浮いて見えた。きっと容姿以上にそもそも年齢が幼いのだろう。
    「は。」
    俺はその場で固まった。なぜ俺の妄想の中で作った女がここに、現実にいるのだろうと思った。鶴丸もついにオカルト的なものにさえ手を染めたか。いや、こいつは既にその分野でさえ腰まで浸かっていたか。
    「へへ、驚いただろ?まあ、詳しくは中で話そう。邪魔するぜ。」
    いつの間にか鶴丸に押しのけられ、俺は玄関に二人の侵入を許してしまった。名前も知らない女は、俺に会釈をすると脱いだパンプスを揃えて置いた。そして鶴丸の後ろを付いた。
    「何が、起きている…?」
    思わず物語めいた独り言を呟いてしまう。きっと普段の自分なら、今の間抜けな自分を鼻で笑ったであろう。俺は呆気にとられたまま、玄関の扉を閉めた。

    鶴丸が連れてきた謎の女は、山姥切国広と名乗った。聞けば年齢は18で、高校を卒業したばかりらしい。行く宛がなく、職にも困っていたところを鶴丸に拾われたらしい。通りでスーツに着られているはずだ。
    「それで。あんたが俺の頼んだ家事代行サービスの社員だと。」
    「そうだ。」
    仕方なく出した茶を悪びれもせず啜っている鶴丸を睨んだが、奴はどこ吹く風だ。
    「おい、鶴丸。あんた、顔合わせの予定は今日じゃなかっただろ。勝手に変えるな。」
    「んん?そうだったか?まあまあ、お堅いこと言うなよ。遅いか早いかなら、早い分に問題はないだろ。国広ちゃんだって、なあ。実際に働く場所を見てから研修を受けた方がやりやすいだろ。」
    山姥切という女はこくりと頷いて、湯呑みを机に置いた。こいつはこいつで、妙に肝が座っているというか…案外図太いようだ。
    「ああ。」
    「だからって…。」
    俺には俺の準備がある。普段から部屋を散らかしている訳ではないが、執筆に本腰を入れている時、まして行き詰まっている時はどうしても散らかってしまう。引っ張り出してきた資料が山積みになり、カップ麺の空が三段積みでピラミッドを形成し、参考資料の成人指定漫画は伏せた状態で転々と床に散らばっている。鶴丸と山姥切が勝手に部屋の中へ入っているものだから、俺はまずこれらの誉められたものではないオブジェを隅に寄せることに駆られた。
    「まあまあ、加羅坊。それよりもどうだ?叔父さん、なかなかやるだろう。国広ちゃんが面接に来た時、頭にこうビビ〜ッッと来たんだ。まさに、まさに加羅坊が探し求める乙女じゃないか。今書いてる、ほら。俺の金髪エルフメイドがエロすぎて困っちゃうぜ、みたいなやつ!あれに出てくる子その人じゃないか!」
    「おい、俺の本は読むなと言っているだろう。」
    俺はあまり他人に自分が書いたものの話をされるのは好きではない。俺は他の作家より自分の書いているものに思い入れやプライドはないのだが、題名を微妙に間違えられるのは少し腹立たしい。『俺ん家のエロすぎる無表情エルフメイドをどうにかしてくれないか』、通称えるどうは俺の三作目にして一番売れ行きのいいシリーズである。そして今俺の頭を悩ませている原因でもある。それはさておき、直接的にエロいと言われた訳ではないがややセクハラじみた鶴丸の発言に山姥切が不快な思いをしていないか不安に思った。しかし当の本人は何も気にしていない様子で平然としている。
    「相変わらず冷たいなぁ加羅坊は。俺の親心、傷ついちゃったぜ。しくしく。」
    「黙れ。」
    「まあ、そんなところでな!編集の、なんだっけ。ああそう、堀川くんから加羅坊が執筆で困ってるって聞いていたし、加羅坊は俺に家事代行を使いたいって言ってたろ?国広ちゃんはその悩みを一気に解決してくれる、まさに天使が舞い降りたというわけさ。」
    山姥切は少し照れたようにもじもじ身体を揺すると、頬を赤らめた。
    「それ程でも…。」
    俺が言うのもなんだけれど、この女は何処か少しズレているらしい。しかしそうでなければ、この胡散臭い男の後ろをついて仕事場だと紹介されたであろう安アパートになど来ないだろう。この嘆かわしい世の中、同じ文言で人気のない場所へ連れ出された後奴隷として売り飛ばされたり、慰み者にされても決しておかしくはない。
    「あんた、もう少し危機感を持った方がいいぞ。」
    山姥切は自分に対して言われたことだとわからなかったらしい。鶴丸に促されて、やっとそれを理解すると首を傾げたまま了承の返事をした。
    「大体分かった。あんた、そいつの手当ては出したんだろうな。まだ勤務は始まってないんだろう。」
    「うん、交通費はちゃんと出したぞ。給料はまだ出せないから、顔合わせの分の出勤時間はこの後の食事代で支払おうと思っていたんだが。いいかい?国広ちゃん。」
    「ああ、構わない。」
    顔色ひとつ変えない山姥切に俺は焦った。
    「おい、鶴丸。度が過ぎるぞ。いくらあんたでも、まだ社員にもなっていない幼い女を連れ回すのか。」
    鶴丸は呑気にクラッチバッグを弄りながら、俺をかわした。無駄に良い皮を使った高級ブランド品だ。
    「いいや?俺は帰るぜ。仕事があるからな。金だけやるから、加羅坊と国広ちゃんで美味いものでも食ってきてくれ。あんまり遅くなっちゃ駄目だぜ?あと、帰りは危ないから国広ちゃんは一応加羅坊が送ってやってくれ。ほい、鶴丸おじちゃん大サービス3万円!」
    机の上には福沢諭吉が2枚と500円玉が4枚、野口英夫が複数枚広げられた。
    「お前…揃えて寄越せよ。」
    「あーん、加羅坊ってば辛辣。」
    山姥切を横目で見たが、やはり奴は何を考えているのか分からない顔でじっと俺と鶴丸のやりとりを見ているだけだった。いきなり見知らぬ男と飯を食えと言われても、普通は困るだろう。例えそれが自分の雇用先の社長であったとしてもだ。そんな俺の懸念など全く無視して、山姥切は先に帰った鶴丸を俺と共に玄関で見送った。ただ俺と同じで生い立ちに事情がある奴なのか、鶴丸が見えなくなるまで頭を下げていた。よっぽどあいつに恩義を感じているらしい。顔を上げた山姥切に俺は鶴丸から受け取った札束を差し出した。
    「ほら、あんたの手当てだ。」
    「?食事がまだだが。」
    「…。この金であんたの好きなものを食えばいい。」
    山姥切は一向に手を出さず、ただ不思議そうに俺を見上げた。澄んだ碧眼は光の当たり具合によっては翡翠にも見えるらしい。
    「社長は、俺とあんたとで食えと言った。」
    「後からあいつにそう言えばいいだろ。本当のことなんてわかりゃしない。」
    少し考えた後に山姥切は首を横に振った。
    「あいつが怖いのか。」
    「いや、社長は優しい人だ。」
    「なら…。」
    「カラチャン先生は、俺と飯を食うのが嫌か。」
    「なん…でそうなる。」
    「俺は中華が食いたい。カラチャン先生は何が食いたい?」
    俺は頭を掻いた。鶴丸がこの女を気に入ったのは、きっと容姿なんかよりもこの訳のわからなさだろう。
    「俺は…なんでもいい。それよりこの金は全てあんたが受け取るのが道理…」
    俺の言葉は不意に鳴った濁音で掻き消された。
    「うん、じゃあ中華で決まりだ。腹が減ったな。カラチャン先生はすぐに出られるか?まだなら俺はここで待ってい、へっくしょ。」
    腹を鳴らしたと思えば次はくしゃみ。忙しない女だ。鼻水を垂らした姿は色気とは遠いが、庇護欲を掻き立てられる愛らしさに満ちていた。確かに玄関先の廊下にずっといたのでは隙間風で肌寒い。足の裏に感じる冷たさに気づいて、俺はため息をついた。山姥切はティッシュを探しているのか、ポケットを弄っている。
    「すぐ用意する。あんたも部屋で待ってろ。」
    「わかった。」
    やっと見つけたのか、山姥切はティッシュを広げながら頷いた。
    「それから、」
    「ん?」
    「カラチャン先生はやめろ。」
    「ふむ…わかった、ご主人様。」
    「それも無しだ。」
    「…ならなんと呼べば。」
    「俺のことは…。大倶利伽羅でいい。俺もあんたを山姥切と呼ぶ。」
    背後で揺れる麦色のアホ毛を振り返る。ちーん、と鼻をかんだ音がして人の話を聞いていたのか心配だ。
    「わかった、大倶利伽羅。」
    鼻の頭を赤くしている女に俺は何処となく心臓が暖かくなった気がして、眉を顰めた。知らない心地はきっと気のせいだ。俺も大方が腹が減っているのだろう。
    「中華なら駅から少し歩く。待ちきれないならコンビニに寄るが。」
    「俺は金がないから何も買えない。そのまま向かってくれ。」
    「…。俺が払うから寄るぞ。」
    俺は所定の位置から鍵を取ると、ジーンズのポケットへと押し入れた。
    「いや…そんなこと、」
    「俺が今、とてつもなく腹が空いた。あんたの食い物はそのついでだ。行くぞ。」
    「…わかった。」
    俺はスニーカーに足を通すと、つま先を二、三度突いた。
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    なまたまご

    TRAININGラノベ作家大倶利伽羅先生と家事代行にょたんばちゃの話2ndシーズンドキドキ温泉旅行編
    序です。

    ※この話はますおさんによる設定をもとにした三次創作です。
    山姥切と初めて会った日、鶴丸は山姥切を俺に舞い降りた天使だと形容した。今となって考えると、それもあながち間違いではなかったかもしれない。

        ◇

     山姥切と出会ってから気づけば2年ほど経っていた。俺の初めてのヒット作、『俺ん家のエロすぎる無表情エルフメイドをどうにかしてくれないか』通称えるどうはアニメ化が決まった。毎度頭を悩ませられるお色気や、恋愛要素を増やしたことが功を奏したのだ。巻数は8巻に届き、発行部数も伸びて毎月の貯金額が少しだけ増えた。全ては順調、なのだろう。そう全く思えないのは2年もこの女と居るというのに、いつまでも振り回されているままであるからだ。それは恐らく…俺がこの女に好意を抱いているらしいと自覚したからという原因も関係しているだろう。誠に遺憾である。しかし、だから何だというのだ。俺はそれをあいつに告げる気はなかった。言ってどうなる?あの女が作る飯は嫌いじゃない。あの女がただこの部屋にいる時間がもはや当たり前だ。無闇にそれを壊すくらいなら、何もしないほうがいい。
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