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    砂色 koiSunairo

    @koiSunairo

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    砂色 koiSunairo

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    #けだふれ0904_アフター
    #けだふれ0904_お題

    けだふれ専用新婚さんお題シートより
    新居、不意打ち

    #カイアサ

     自分たちでも可笑しくなって時々笑いだしてしまいながら、アーサーとカインは朝から片時も離れずにいた。互いに必ずどこかが触れあっていなければならないという決まりのようなものが自然にできて、とにかく頑なにそれを守っている。カインが料理をする間アーサーはカインの後ろにずっとくっついていたし、食べる間も隣に掛けて腕と腕がふれあう距離にいた。片付けの間も例外ではなく、あちこちに水を飛ばしながら腕を組んで皿を洗った。
     ふた手にわかれて家事を片付けたほうが効率がいいのはわかっているし、こんなことが誰かに知られたらきっと恥ずかしい思いをするだろうが、誰に憚ることもない二人きりの家だ。どちらもやめようなんて言い出さず、午後にはなかば意地になってきて取るに足らない遊びを続けた。魔法を最小限しか使えないのは暗黙の了解で、ときには四苦八苦しながらまるで小さな子供のようだ。

    「アーサー、こっちだ。俺が読みたい本はこっちの棚だ」
    「あははっ、私の読みたいものは反対側なのだ」
    「じゃあ順番にまわろう。アーサーのが先だ」
    「その後に飲み物も欲しい」
    「コーヒー?」
    「いや、ハーブを摘んでお茶にしたい」
    「なるほど、難易度を上げてきたな」

     昼下がりのお茶の時間。アーサーはどうしてもハーブを摘みたいわけじゃないし、カインはそれをわかっている。けれど、二人で外に出るのも悪くないと思われた。何しろ今日は天気がいい。きっと風が心地いいはずだ。それに、成し難いことに挑戦するのは楽しいことだ。二人は手を繋いだままガーデニング用の鋏と収穫用の籠を取りに行き、上履きを下履きに履き替えてテラスから庭に出た。テラスに通じる窓は開けっ放しだ。アーサーが鋏を持ち、カインは籠を持ち、二人とも両手がふさがっているのだ。
     隠れ家のような小さな家の小さな庭は、アーサーのための庭だった。雪の中で育った少年時代の反動なのか、熱心にハーブや花々を育てては、その配置や移ろいを楽しんでいる。

    (オズに見せたら顔をしかめてたっけ)

     紋章の役目を残しすべてを終えたアーサーは、カインと共に棲家を求めた。ひと目で気に入った家は、広くもなく、大きくもなく、新しくもないこの家だった。それはアーサーの住む家としてオズのお気に召さないものだったようだ。それでも、守護の魔法を施してくれた上に、いつでも持ち運べるように細工をしてくれた。二人の心が新天地をもとめれば、鞄に入れて運んでいけるのだ。
     その庭の細い小径の飛び石を、二人で手を繋いで進んでいく。ハーブはあちこちにあり、アーサーはカインを連れて庭のあちこちを移動した。

    「あはは、カイン、ちゃんと繋がっているか?」
    「ははっ、おっと、いや大丈夫だ。繋がってるよ」

     アーサーはハーブを収穫するのに両手を使い、その間カインはアーサーの服を捕まえていた。アーサーがぱちんと鋏を使うたび新鮮な香りが漂う。そしてカインが差し出した籠にハーブが一房ずつ増えていった。
     収穫をしながら、アーサーは鼻歌をうたうようにカインに庭について話して聞かせた。あれはもうすぐ蕾をつける。あの辺りを空けて木を植えたいのだ。それは辺りに響く生き物たちの声や葉擦れの音に乗り、心地よくカインの耳に届いた。楽しみだな。それはいいな。相槌を打ちながら、アーサーの胸に降り積もっていくものをカインも感じていた。
     不意にアーサーが沈黙し、その気配が凪いだ。精霊たちもそれにつられたのか、様々な気配も静かになった。

    「アーサー?」

     振り向いたアーサーの大きな瞳は涙でいっぱいになっていた。カイン。涙混じりにそう呼んで、アーサーは震える唇で何かを話そうとしていたが、嗚咽を飲み込むときゅっと口を結んだ。

    「アーサー、話してくれるなら聞きたいが、無理はしないでいいさ。ほら。大丈夫だぞ」

     懐におさまったアーサーの背中を子供をあやすようにカインが撫でると、アーサーは泣きながらひと息笑い、カインの背に腕を回した。しばらくそうしていると、止まらない涙の合間にアーサーが何かを言った。聞き返したカインの耳に、涙を飲み下したアーサーがささやく。――ここにはすべてがそろっている。アーサーはそう言った。
     小さなころから過酷な道のりを歩いてきたアーサーがたどり着いたのがそんな場所なら――カインは小さな家を見上げ、どこか救われたような気持ちになった。アーサーは涙をぬぐうと照れ笑いをしながら顔を上げ、カインはそっと額をあわせた。

    「カインのおかげだ」
    「あんたが自分でつかんだんだ。よし、頭を撫でてさしあげましょう」
    「あはは、この歳になってそんなことをされるなんて。……しかし案外悪くないよ」

     かつては王冠が乗っていたアーサーの銀色の髪は、軽やかに風に流れ、陽光の中で輝いていた。
     いい季節の、ちょうどよく乾いた風が開けっ放しにしてきた窓のカーテンを揺らしている。風をいっぱいにはらんだ真っ白いカーテンは、何かを語りかけているようだった。
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