晴信くんとわし様がゲームするだけ 夕食時も終わった夜の食堂では暇なサーヴァント達が遊興に耽っている事が多い。
旦那もそのひとりだ。
誰に呼ばれたわけではないが、つい旦那を探しに来た俺は、食堂の入口でぐるりと辺りを見回した。
頭を寄せ合ってくすくす笑いあっている女達。豪快にジョッキをぶつけ合っては飲み干している男達。テーブルになにか資料を広げて語り合っている者達と様々な中。俺は奥のテーブルに見慣れたふわふわと跳ねる髪を見つけた。
新入りの赤いコートのライダーと向かいに座り。その横に人斬りのアサシンが酒瓶を持って立っている。
あのアサシンは何度か見かけたことがある。こうやって旦那を迎えに来る度に、博打で旦那に身ぐるみを剥がされていた。今回はその借金のカタに旦那につきあわされているのだろう。
テーブルに近づけば、旦那とライダーが目隠しをしているのが分かった。
だと言うのにテーブルにはゲーム盤、そして小さなグラスを互いに片手に持っている。意味が分からなくて俺は声をかけるのをためらった。
「2-4の占拠マスにセイバーを移動」
旦那の指示にアサシンが駒を動かした。ライダーが口元に笑みを浮かべる。
「ふむ、ならば。3-5のアーチャーで攻撃。…そこにいるよなぁ?俺のアーチャーは」
「ちっ!」
旦那の舌打ちに、慌てたようにアサシンが駒を動かす。
退けられていたアーチャーの駒が、旦那のセイバーの駒を弾いた。
俺はため息を押し殺した。
相手の視界を奪っておいて、買収したアサシンに駒を好きなように動かさせれば、そりゃ勝てるだろう。
だが、それは相手が悪かった。軍師系のサーヴァントではないものの、このライダーは軍略で名を残した英雄だ。小悪党に過ぎない旦那とは格が違う。
ライダーが楽しそうに笑う。
「さあ、何度目の献杯だ?そろそろ降参したらどうだ?」
駒を取られたら酒を呑むルールなのだろう。ライダーの言葉に旦那は片手に持ったグラスをあげる。そこにアサシンが酒を注いだ。──ちょっとだけ。
あまりのセコさにめまいがする。
アサシンを買収して新入りにちょっかいをかけているのだろうが、もうちょっと相手を見て欲しい。
もろもろのズルは、どう見ても相手にバレている。
──どう考えても引き時だった。
「旦那」
「どうした。アシュヴァッターマン」
声だけで俺だと分かった旦那は振り返る。
生前も今も、旦那は俺の言葉に耳を傾けてくれる。意見が通るかは別にしてだが。
俺は旦那の傍に立った。
「もうそろそろ休めよ。明日も周回だろ」
「うぐー」
旦那が呻くが盤上を見る限り敗色は濃厚だ。ここから逆転させるにはよほどのアイデアと運がなければならないだろう。
「アシュヴァッターマン」
「駄目だ」
ねだるような声に俺は見えないと分かっていて首を振った。
そんな俺達にライダーがおかしそうに笑う。
「忠臣じゃねぇか。主君に撤退しろと進言出来るヤツはなかなかいねぇ。──この勝負はお開きだな」
ライダーが目隠しを外すと、その気配を感じた旦那も目隠しを外す。ゲームの終わりの合図にアサシンはほっとしたように胸を撫で下ろしていた。
その横で旦那が居心地悪そうに視線を泳がす。
ああ、ライダーの言葉を気にしているのか。
あの戦いで俺は何度も和平を提案したがその度に旦那に却下された。その結果がカウラヴァの敗北だ。