雨中の禁区それは、ある雨の夜だった。
「親父、もうずっと籠もりっぱなしだぜ」
「お前、様子見て来いよ」
ドン、と背中を押されて、締め切られたドアの前で俺は立ち竦む。兄貴達は、もう30分も無えんだから早くしろ、と耳打ちをして蜘蛛の子を散らすようにいなくなってしまった。
畜生、震えが止まんねえ。心底後悔する。なんでこんな組に入っちまったんだろう、って。
東城会直系錦山組組長、錦山彰という男はカリスマだと、思う。
冷えたナイフの切先のような隙の無さ。スマートに優雅なようで、その癖どこまでも鮮やかに暴力的だ。流麗で、そして苛烈な緋色の昇り鯉。その勢いは破竹だった。そしてそんな最中に、疑りそうな目が神経質に揺れている。その時折見せる不思議なアンバランスさは、妙に人を集めた。
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