赤い薔薇を、一輪「類! 誕生日、おめでとう!」
会うや否や、ずい、と僕の目と鼻の先に一輪の赤い薔薇を差し出して、司くんはそう言った。
「あり、がとう……?」
「何をほうけているんだ?」
「いや、君からはもう貰ったものだと思っていたから」
棘を丁寧に処理された薔薇を受け取って、花と司くんの顔を交互に見た。薔薇の花からはふわりと良い香りがする。
この花は僕にとっては完全にサプライズだった。なぜなら、もう司くんにはとっておきの演出でセカイで祝われている。日付が変わって家に戻れば仲間たちからのお祝いのメッセージも届いた。そして日中には皆に祝われ、パーティーにも招待された。今はこそばゆくも喜ばしい一日の終わりが程近い、そんな時間。すでに多くのものを貰ったあとだったのだ。
「あれは未来のスターである天馬司からだ!」
「ではこれは?」
「それはっ! だだの天馬司からだ。あれだ、それは類の……六月の、誕生花、だそうだぞ」
初めの威勢はどこへやら。照れた司くんは視線をさ迷わせ、声も次第に小さくなるばかり。
「ふふ、調べてくれたのかい? 嬉しい」
少し頬を赤くしてはにかみながら、司くんは歯を見せて笑う。君が花ならば大輪だろう。
「ところで、赤い薔薇の花言葉を知っていて僕にくれたのかい」
司くんは胸を張り、無論だという顔をした。
「それくらはいは知っているぞ。情熱とか、愛情、だろう」
間違ってはいない。間違ってはいないけれど、足りない。薔薇の花言葉は有名であるから、詳しくは調べなかったのだろう。どうにもいたずら心をくすぐられ、司くんの手を取った。
「あなたを愛します」
「へ?」
「だから、あなたを愛します、だよ司くん」
今度は司くんが惚ける番だ。
掴んだ手の甲にうやうやしく唇を寄せて、ちらりと反応を伺った。
何かを言おうとしたのか、開かれた口は音を発することもなく、あわあわと震えるのみ。
ああ、好きだなぁと思う。
格好良くて、愛おしい、輝ける皆のお星さま。
詰めの甘い君で良かった。
暖かな司くんの腕を引く。貰った花を折ってしまわないよう注意して、ぎゅうと抱き込んだ。腕の中におさめた司くんは暖かいというよりも、熱いと言ったほうがいいかもしれない。湯気でも出るんじゃないだろうかと、その体温に思わず笑ってしまう。 すると抗議の意味も込めているのか、ぎゅっときつく抱きしめ返してきた。
抱き合っているからには、君にもこの心臓の音が届いてしまっているだろうか。
「ねえ司くん。来年の司くんの誕生日に、僕も薔薇を一輪贈ってもいいかな」
「それは別に構わんが?」
「フフ、ありがとう。楽しみだなぁ」
「何がそんなに楽しみなのかオレにはわかりかねるのだが……」
このぬくもりを抱いていれたなら、それだけで幸福だろう。来年も、その次も。ずっと一緒にいられたなら。
一輪の薔薇の意味。
司くんは知らないだろうけれど、薔薇は花束として贈る時の本数にも意味がある。
『あなたしかいない』
これを聞いた司くんがどんな顔をするのか、今からとても楽しみでならない。
緩みきった頬がもう少しまともな表情を作れるようになるまで、芳しい大輪の花を、もう少しこの手に抱いていよう。