幕間 類くんどこー?とえむが呼んでいる。その傍らには寧々。
「えむ、一度セカイから出ない? 飲み物買いたいし」
類と司が見当たらなくて、えむは眉をハの字に下げたしょんぼり顔を寧々に向けた。
「うーん、でも」
「あいつらの分も買ってきてあげよう。たまには、ね」
「ん~~……そうだね!」
「じゃあ行こう、えむ。ホント体がバラバラになりそう……」
えむと寧々の話す声は聞こえなくなった。えむたちからは死角になった大きなテントの影に、類と司は居た。当然えむが類たちを呼ぶ声が聞こえなかったわけはない。出ていけない理由が二人にはあった。
「おい、二人とも行ってしまったではないか」
「悪いことをしてしまったね」
「……思ってもいないことを」
「おや、心外だね」
黙ってと言外に告げる類の手が、司の頬をすべり顎を上向かせる。司の丸い目は類を映し、少し、非難している。
「怒ってる?」
「少し」
「お叱りはあとでいくらでも」
そして目の焦点も合わないほど距離を詰める。ジリジリと、じわじわと、距離を詰める。長めのまつ毛が、まあるくて大きな目を縁取っている。司の瞳が、ゆっくり閉じられてゆくのを類は堪能する。
その目が伏せられてゆくのを眺めながら、それを可愛いと言うとやっぱり怒るんだろうな、とか、林檎色に色づいた唇に焦らないように寄せてゆく。でもあと少し、というところで丸い目がぱちりと開かれた。
「類」
吐息もかかりそうな距離。
グッと服を掴んで引っ張られる。あ、と思った時には唇が触れた。
「……終わり?」
「じれったいんだ、お前は」
「もう、司くんって」
服を掴んでいた手首を握られ、類の目がきゅっと細められた。
「なんだ、」
司にはその目が一瞬光ったかのように見えた。それに気を取られてしまって、気づけば類に食われていた。
「まっ……、る」
そんな弱々しい静止では止まらない。啄まれる。食まれる。角度を変えて、何度も何度も。ちゅうと音を立てられる。吸われて、舐められて、息が上手にできなくなっていく。閉じ忘れた司の瞳に映るのは、自分だけを映す澄んだ黄色。司より色素の薄い目尻がいつもより紅く見えるのは――。
天幕の支柱に追い詰められて、指を絡ませた手を縫い留められる。
酸素が欲しいと開いた口内にも侵入されて、すべてを絡め取られていく。司の鼻から抜ける甘い声。脳の芯までしびれるような、甘いあまい、苦しさ。どうやって息をすればいいのかもう分からなくなっていた。くるしい、あまい、くるしい、あまい。たまらず呻いて、繋いだ手をぎゅうと握ればやっと解放された。
「ふふ、かわいい」
瞳が潤んで頬も紅潮した司に類の口が滑った。ハァハァと息を整えながら、司は拳を握って、ドンと類の胸を叩いたのだった。