その正体は指先の違和感。ズキズキとした鈍い痛みが、怪我をなかなか忘れさせてはくれない。目を凝らして見れば、うっすらと浮かぶ傷口が線を描いていた。紙で切るとなかなか傷は塞がらない。きっと数日は違和感が残るだろう。
教室での出来事を思い出して、頭をふるふると振った。事もあろうにその指先を口に含んだ、血の滴る指を躊躇いもなく舐め取った同級生の、ショー仲間の非常識。
「一体なんなんだ」
ぽつり溢れる。当然返事はない。ここには誰もいない。類はいない。
あいつは時折オレをただ眺めていることがある。お前は知っているのか、どんな顔でオレを見ているのかを。お前はきちんと、気付いているのか。
それは遠目に寧々とえむを見ている顔に似ている。でもそうではない。似ているけれど、違うのだ。彼女たちへ向けられているのが愛しみだというのは疑いようもない。オレが咲希に向けているものと似たものだろうと、それくらいはわかる。
では、オレを見つめるその瞳に宿っているものとは――
傷ついた指先は、ちゃんと消毒した。けれどここに傷があると痛みはまだ報せてくる。
ジンジンと。
愛おしむように舐められた指が、痛む。指を含まれた口内の熱がまだ残留している気さえした。あたった歯の硬さと、舌の柔らかさの記憶はまだ鮮明で。
どういうつもりなのだろうか。
オレ以外のヤツにもするのか。
オレ以外のヤツにはしないと言っていた。
それはどういう意味なんだ?
なあ、類?
お前はちゃんと、理解っているのか。