けいどの違いそれを知ったのはたまたまだった。シンカリオンの戦闘に役立てばと、運転士たちの身長や体重、特技など、様々なデータを眺めているときにたまたま目に入ったのだ。
シンたちのデータを一通り見終わって、最後はシマカゼのデータだった。僕と同い年の運転士。空手をやっていて、戦闘センスは抜群だ。周りもよく見えていて、作戦も立てられる。僕も一目置いていた。そんな彼の誕生日が何故だか目に留まったのだ。3月21日。早生まれなんだな。
他の運転士たちのデータにも誕生日はあった。でも、気にもとめなかった。しかし、何故だかシマカゼの誕生日だけ目に入ってきたのだ。流石の僕も6人分のデータを見て、疲れてきたのかもしれない。今日はこれくらいにしようと、超進化研究所で借りていたパソコンの電源を切った。
それから、手帳やカレンダーにメモをしたわけでもないのに、妙にシマカゼの誕生日が頭に残っていた。意識しすぎているからかもしれない。しかし、その3月21日は刻一刻と迫っていた。せっかくだから誕生日プレゼントでも準備するかと思ったが、他の運転士たちにすらあげたことがないのでやめることにした。せめて同い年のよしみで、一番最初におめでとうとメッセージを送ってやろうと思った。
そして、迎えた誕生日前日。その日は妙にソワソワした。いつも寝るのは10時である。一番最初におめでとうと言うのならば、あと2時間は起きていなければならない。きっと本でも読んでいれば起きていられるだろう。
しかし、そこからの時間は長かった。何をしていても落ち着かない。なんてメッセージを送ったらいいかわからなくて、何度も打っては消した。そもそも僕が一番にメッセージを送ってきたら変じゃないかと思うようになってきた。雑念を払拭すべく、スマートフォンの画面を下向きにして机に置いた。本でも読むかと読みかけの文庫本を開く。いつもの如く文字を追うが、全く頭に入ってこない。少し身体でも動かすかと腕立てでも始めてみる。しかし、こんな夜中にシマカゼを意識しすぎて筋トレをしているという事実に、腹が立ってきてやめた。いっそ勉強でもしようと、ランドセルから算数のドリルを取り出す。無理矢理違うことを考えていれば、きっと時間はすぐに過ぎるだろう。そして僕は黙々と数式を解き始めた。
♢♢♢
ブーブーと何かが振動している。一定のリズムというわけではなく、不規則なそれに不快感が増していく。僕のスマートフォンのアラームはこんなものだっただろうか。いや、そもそも僕は目覚まし時計を使っている。ならば何故スマートフォンが鳴っているのか。働かない頭を必死に動かしてそこまで考えて、何か変だと気がついた。パッと起き上がると、机の上には算数のドリルが広がっている。そこにはミミズが貼ったような鉛筆の線が続いていた。おそらく問題を解きながら眠ってしまったようだ。
「今、何時だ!」
ハッとして、急いで部屋の時計に目を向ける。日付を越えてすでに2分が経っていた。スマートフォンを確認すれば、すでにチームシンカリオンのグループはシマカゼの誕生日で盛り上がっている。先ほどの不規則なバイブの音はメッセージの通知音だったのだ。
「なんと言うことだ…」
ガクリとそのまま机に突っ伏す。やはり慣れない夜ふかしはするものではない。シマカゼに一番最初におめでとうとメッセージを送ってやろうと、ソワソワしていた自分が馬鹿らしいし、恥ずかしい。穴があったら入りたいと机の上でグズグズしていると、ふと棚に置いてある地球儀が目に入った。日本を分断する縦に引かれた線が妙に目立って見える。そうだと、僕はスマートフォンでとあることを検索し、頭の中で計算する。まだなんとかなるかもしれない。
時計の針を確認する。すでに日付を越えて5分も経っていた。あと20秒ほどで6分。あと10秒。5、4、3、2、1。
『お誕生日おめでとう』
0時6分ピッタリに、僕はシマカゼへ個人メッセージを送信した。するとすぐにありがとうと返事が返ってくる。チームシンカリオングループはまだ盛り上がっている。流石のシマカゼもまだ起きているのだ。ただそれだけのことなのに、直接話しているようでなんだか嬉しくなる。
『僕のために起きててくれたんだね』
続くシマカゼのメッセージに、そんなんじゃないと誰もいない部屋で叫んでいた。確かにシマカゼのために起きていた。しかも結構頑張って起きていた。それをシマカゼに見透かされているようで悔しい。だから、なぜそう思うんだと口を尖らせながら返信する。
『だっていつも10時から6時の間はメッセージの反応ないでしょ。その間は寝てるんだよね?』
相変わらずの推理力に、僕は感心せざるを得ない。
『シマカゼの誕生日を一番最初に祝ってやろうと思っていたんだ』
鋭い推理力に免じて、僕の魂胆を素直に白状してやった。そうすると、みんなに先越されちゃったねとシマカゼからフォローのメッセージが入ってきた。
『そんなことないぞ』
シマカゼには悪いが、そんなフォローは必要ない。なぜなら、正真正銘僕が一番最初にシマカゼの誕生日を祝ったから。
『日本の標準時間の基準となる子午線は兵庫県明石市を通る東経135度線だ。でも、実際には経度が違えば時刻は違う。元々、太陽が真南を通る時刻を正午としていたからな。名古屋の経度は東経135度54分23秒。経度1度ごとに時間は4分進むから、名古屋は標準時間より約6分後に日付を越えることになる。つまり、僕がメッセージを送った時間、0時6分が名古屋で日付が変わる正確な時間なんだ。だから、僕が一番最初にシマカゼを祝ったことになる』
我ながら完璧に失敗をリカバリーしたと思う。うんうんと頷いていると、ブーとシマカゼからメッセージが届く音がした。その内容を確認して、カッと僕の顔は熱くなる。
『僕のために一生懸命になってくれて嬉しいよ』
スマートフォンの向こうで、嬉しそうにしているシマカゼが浮かんでくる。
「べ、別に一生懸命になんてなってないからなっ!」
思わずベッドに向かってスマートフォンを投げつけた。日付を越えるまでのソワソワも、日付を越えてからの必死さも、全てシマカゼにお見通しだ。あぁ、実に面白くない。