人数の違いうだるような暑さに耐えかねて、僕はコンビニに駆け込んだ。入った瞬間、人工的な冷気が僕を包み込む。大学から僕とリュウジさんが住むアパートまで徒歩十分。いつもは自転車で通っているが、あいにくパンクで修理中。仕方ないので僕は歩いて通学しているのだ。
コンビニで涼みつつ、客を装うために商品を見て回る。せっかくだから、在宅ワークだと言っていたリュウジさんに何かお土産でもと思いついた。僕たちのアパートのエアコンの効きは、お世辞にもいいとは言えない。きっとアイスを買っていけば喜ぶだろう。そんなことを思いながらアイスコーナーに赴けば、パッとあるアイスが目に入ってきた。よくナガラと一緒に食べた懐かしいアイスだ。迷わずそのアイスを手に取り、僕はレジでお会計を済ました。そして、再び灼熱の道路を歩き出す。
家に着き、仕事の邪魔にならないようにとそっと玄関を開ける。リビングの方からはカタカタとキーボードの音が聞こえてくる。すぐにでもリュウジさんに会いたいが、まだ仕事中。ぐっと我慢をして、僕は静かにキッチンに向かう。買ってきたアイスを冷凍庫にしまっておくのだ。リュウジさんが休憩のときに一緒に食べればいい。
冷凍庫の引き出しを開けると、既に大きな先客がいた。
「アイスキャンディー?」
それはフルーツのアイスキャンディー。しかも、箱入りのだ。
「おかえり。暑かっただろ?」
「リュ、リュウジさん!」
冷凍庫のアイスキャンディーに気を取られているうちに、いつの間にか背後にリュウジさんがいた。リュウジさんは時々こうやって僕を驚かせてくることがある。本当に心臓に悪い。
「アイス買っておいたから、一緒に食べないか?」
リュウジさんが買ってきたアイスとは、冷凍庫に鎮座する箱アイスのことだろう。灼熱の中、歩いて通学した僕のためにリュウジさんが買ってきてくれたアイス。そんなリュウジさんに、僕は申し訳ないお知らせをしなければならない。
「あの、僕も買ってきちゃって…」
僕は申し訳なさげに、手に持っていたコンビニの袋を見せる。
「考えることは一緒だな」
そんな僕をリュウジさんは笑う。そうですねと、それにつられて僕も笑った。
「何を買ってきたんだ?」
「パピコです」
「ほぉ、パピコか」
思いの外、リュウジさんがパピコに食いついてくる。
「パピコ、珍しいですか?」
「あまり食べたことがないんだ」
「じゃあ、パピコを食べましょう」
袋を開けて、パピコを取り出す。割ってみますかと差し出せば、いいのか?と目を輝かせながらリュウジさんは受け取った。恐る恐る二つに割るリュウジさんが面白い。
「つい癖でパピコを買ってしまいました」
「癖?」
上手に二つに割れて満足げにしているリュウジさんを眺めながら、僕はポツリと呟く。
「小さい頃、パピコとか雪見だいふくとか、ナガラと二人で分けられるアイスばかり買っていたので」
あの頃は少ないお小遣いを出し合って買っていた。今はバイトもしていて、わざわざパピコみたいに二人で分けるアイスを買う必要はない。それでも、ついつい買ってしまったのは、やはり染み付いた癖なのだろう。
「リュウジさんみたいに、どーんと箱買いすればよかったです」
ケチケチしないでカップアイスでも買ってこればよかったなぁと思っていると、リュウジさんは笑い出す。
「いや、あれも癖みたいなものでな」
「癖ですか?」
「うちは三兄妹だったから、たくさんないと喧嘩になるんだ」
僕とリュウジさんは同じ長男といえども、やはり違う。そんな違いを共有していくのも、二人暮らしの楽しいところだ。
「取り合いになるから、パピコとか雪見だいふくとか二人で分けるようなアイスをあまり食べたことがないんだ」
リュウジさんがパピコに目を輝かせていた理由に合点がいく。
「これからたくさんパピコも雪見だいふくも食べましょう!だって、僕たち二人だけですから」
「冷凍庫のアイスキャンディーがなくなってからな」
リュウジさんからパピコを受け取り、蓋を開ける。散々ナガラとやったこの一連の流れを、これからはリュウジさんとやるのだ。そう考えるだけで、手に持ったパピコが溶けそうなくらい僕の熱は上がった。