ハロウィンのちょっと苦い思い出「トリックオアトリートっ!」
ハロウィンの言葉を唱えなら、俺は兄貴の部屋のドアをあける。お菓子をもらうためじゃない。悪戯するためだ。どんな悪戯をしてやろうか。悪戯をしたら、兄貴は熱に浮かされて泣くだろうか。そんなことを考えていると、楽しくててたまらなくなる。俺の息子も楽しそうだ。ふふっと上機嫌に鼻を鳴らしながら部屋へと足を踏み入れると、何かが豪速球で飛んできた。
「ぐへっ!」
空手の達人である俺も、流石に不意をつかれては避けきれない。飛んできたものを顔面で受け止める。そのあまりの勢いに、思わず廊下へと尻餅をついた。ポトリと顔から何かが落ちる。それはファミリーパックのお菓子だった。中身はチョコのようで、俺は顔にかなりのダメージを負った。痛ててと患部をさすっていると、兄貴の部屋のドアがゆっくりと閉まり始める。
「ちょっ、待ってよ!兄貴っ!」
それを慌てて手で止めれば、ドアの隙間から兄貴の顔が見えた。
「今年もハロウィンしようぜ!」
去年のハロウィンも兄貴の部屋で悪戯をした。ハロウィンということで、コスプレをしたりもしてかなり盛り上がった。だから今年も兄貴とハロウィンがしたかった。だが、そんな俺に兄貴は冷たい視線を向けるだけ。
これでも兄貴と俺は付き合っている。エッチの誘いは悪いことではない。なのに、なぜこんな視線を向けられなければならないのか。もしかして、俺に飽きたのか。もう別れたいとでも思っているのか。そうぐるぐる考えていると、兄貴はわざとらしく大きくため息をついた。
「俺は何年生だ?」
そして、そう問いかけられる。質問の意図がわからないまま高3だろと答えて、俺は青ざめる。
「受験勉強の邪魔をするな」
「す、すみませんでした……」
いつにもなく低い声で言う兄貴に、俺はちびりそうになった。そんな俺を廊下に置き去りにして、バタンとドアが閉めらる。その音が妙に廊下に響いていた。
あれだけ昂っていた俺の息子も、兄貴のあまりの迫力にしゅんとなってしまった。仕方がないので、俺は兄貴に投げつけられたファミリーパックのお菓子をあける。そこから1つチョコを取り出して口にする。
「苦っ……」
手に取ったチョコは、たまたまそれはカカオの濃度が高いチョコだった。