「シ、マカゼ……?」
僕の下でリュウジさんは目を見開いている。だが、僕はリュウジさんの上から降りる気は毛頭ない。
ここはリュウジさんが一人暮らしをしているマンション。そこで、僕はリュウジさんを押し倒したところだった。 リュウジさんの元でシンカリオンの運転士をしていた頃に比べ、僕たちの体格差はほとんどなくなった。完全に僕に気を許しているリュウジさんの隙をつくのは案外簡単で、僕は容易くリュウジさんを押し倒してみせたのだ。隙をつかれたといえども、咄嗟に受け身をとって頭を守るところはさすがである。
「僕たち、付き合ってますよね?」
「そうだが?」
リュウジさんがここまで気を許してくれているのは、僕たちが付き合っているから。小学生の頃から抱いていた気持ちは、長い年月を経て報われたのだ。しかし、一つ問題がある。それは……。
「なんで手を出してくれないんですか?」
そう、リュウジさんはなかなか僕に手を出してくれないのだ。キスはしてくれる。ハグだってしてくれる。それなのに、手を出してくれない。既にお互い成人済み。僕たちを阻む物は何もないというのに、リュウジさんは手を出してくれない。そういうことに興味がないのだろうか。そもそも同情で僕に付き合ってくれているだけなのだろうか。そんな不安がどんどん湧いてくる。でも、僕はリュウジさんを信じたかった。信じるためには、行動するしかなかったのだ。
「抱くか、抱かれるかしてくださいっ!」
勢いに任せてそう叫べば、リュウジさんは目をパチクリさせている。僕がこんなこと言うなんて思ってもみなかったのだろう。しかし、僕はどんな形であれ、リュウジさんと繋がりたい。リュウジさんの服をぎゅっと握り締める。これでも僕は本気なんだと見つめていると、リュウジさんの優しい手が僕の頰を触れた。
「不安にさせていたんだな。すまない。少し大事にしすぎていたようだ」
その手に顔を寄せると、リュウジさんの指が僕の頰をなぞる。その焦ったさに、僕の吐息に色が含む。
「シマカゼはどっちがいいんだ?」
指が離れたかと思うと、不意にリュウジさんからそう問いかけられた。
「僕ですか?」
どっちとは、抱くか抱かれるかということ。さっき僕が叫んだこと。勢いで言ったことだから、どっちがということは考えていなかった。リュウジさんと繋がれればどちらでもよかった。でも、リュウジさんは僕に選択肢を委ねてくれている。
「僕は……」
想像してみる。リュウジさんと繋がるところを。
「リュウジさんになら……」
それで、リュウジさんがもっと欲しくなる。
「抱かれてもいいです」
そう小さく呟く。僕がけしかけたことだが、改めて口にすると恥ずかしくてたまらない。顔を真っ赤にしていると、僕の下にいたリュウジさんが起き上がる。そして、そっと僕の耳に口を寄せる。
「仰せのままに」
そう一言呟いて、僕は優しく床に押し倒された。