軽い運動年を越して、今日で二日たった。なんとなくつけているテレビからは、まだまだ新年の特番が流れてくる。それをBGMにしながら、こたつでみかんを食べていた。これで五つ目だ。チラリと向かい側に座っている兄貴へ目を向ければ、単語帳を眺めていた。受験生には正月はないのだろうと同情しつつ、これが二年後の自分の姿だと思うとゲンナリする。
今度はテレビへ視線を送る。一応、勉強中の兄貴に気を遣って大人しくしているのだ。とは言っても暇である。こんなことならミユと母さんの初売りについて行けばよかったかなと思ったが、どうせ荷物持ちにされるだけだろう。いつにもなくつまらない正月にため息が出る。六つ目のみかんに手を伸ばしてところで、そういえばと先週見たテレビのことを思い出した。それで、俺はニヤリと笑い、なあなあと兄貴に声をかける。そうすれば、なんだと兄貴は単語帳から顔を上げた。
「軽い運動をしてからのほうが勉強が捗るんだって」
とある情報番組から得た情報だった。それに聞いたことがあるなと兄貴も頷く。
「少し気分転換にランニングでもしてくるか」
俺の助言に従い、兄貴は単語帳を閉じ、立ち上がろうとする。そんな兄貴に、俺は待ったをかける。
「軽い運動ってのは、ちょっと筋トレする程度でいいんだって。疲れ過ぎたら逆効果らしいよ」
「ランニングだとやり過ぎってことか?」
「たぶんそう」
ランニングがやり過ぎかどうかなんて知らないが、適当にそう答えておく。だって、兄貴に出て行かれては困るから。
軽い運動に頭を悩ませている兄貴に、手伝ってやるよと声をかける。それで、訝しげに視線を向けてきた兄貴に、俺はニヤリと笑う。
「軽い運動、俺が手伝ってやるって」
そう言って、こたつに入れてある足を伸ばし、兄貴の股ぐらを意味ありげにさする。そうすると、すかさず俺の息子に向かって兄貴の足が飛んできた。
「〜っ!」
そのあまりの衝撃に俺は息が詰まる。涙目で兄貴を睨みつければ、不機嫌そうに眉間に皺を寄せる兄貴がいた。
「お前がヤりたいだけだろ?」
「兄貴の勉強の手伝いをしてやろうと思っただけだもん」
見え透いた嘘を口にすると、だったら大人しくしてろとみかんを投げつけられた。それを受け取り机に置く。みかんも飽きてきたところなのだ。
「最近、ご無沙汰じゃん」
「クリスマスのときに付き合ってやっただろ」
「そうだけどさ〜」
俺は机に突っ伏す。その気になってしまえば、嫌でも下半身は疼いてくる。それを収める手段を俺は一つしか知らない。兄貴はというと、置いた単語帳を再び手に取っていた。
「だいたい、それは軽い運動なのか?」
単語帳を眺めながら言う兄貴に、それもそうだなと俺は頷く。
「エッチした後の兄貴は、いっつも腰が抜けて立てないもんなぁ」
そう言いながら、兄貴の痴態を思い浮かべる。俺が欲望で兄貴を貫けば、身体を震わせてそれを受け止めてくれる。そして、受け止めきれなかった快楽に飲まれ、ベッドの上で激しく乱れていた。やがて、兄貴は放心して、泥のように眠ってしまう。これが軽い運動かと訊かれれば、確かにNOと答えざるを得ない。
「俺のテクがすごいからなぁ」
兄貴があんなにもよがるのは、俺の腕がいいからである。そううんうんと頷いていれば、再び兄貴からみかんが飛んでくる。
「調子に乗るな。お前が力任せに腰を振るからだ」
ムスッとしながら言う兄貴に、それがいいんだろと反論する。だって、現に激しくすればするほど締まりが良くなるから。
「タツミはガサツすぎるんだ」
兄貴からの文句を時々反論をしながら聞いていると、そうだと兄貴が手を叩く。何を思いついたんだと様子を伺っていると、いかにも真剣そうに俺へ視線を向けできた。
「今日は俺が入れてやる」
「はぁ?」
そして、兄貴が口にした言葉に俺は耳を疑った。兄貴とエッチをするとき、いつも俺が入れていた。成り行きでそうなっていて、今まで特に文句を言われることもなかった。だから、そういうものだと思っていたのだが……。
「ヤりたいんだろ?」
どうやら兄貴は本気らしく、単語帳を置き、俺の方へと迫ってくる。
「俺がよくしてやるぞ」
いつにもなくノリノリの兄貴が、俺のスエットのズボンへと右手にかける。これはまずいと、俺はその手を咄嗟に掴む。
「俺は兄貴に入れたいの!」
自分が兄貴に入れられているところなんて想像できない。俺は、俺が与える快楽によって、よがる兄貴を見るのが好きなのだ。だから、ここは譲れない。そう思い、今度は俺が兄貴のズボンへと右手を伸ばす。その手はズボンを振れる前に、兄貴に取り押さえられる。
「いつも入れているんだから、たまには交代したっていいだろ!」
兄貴が手に力を込める。
「無理だって!あんなの入らない!」
負けじと俺も手に力を込める。
「いつも俺に入れてるだろ!」
兄貴が体重をかけてくる。
「兄貴の穴とは違うの!」
だから、俺も力一杯押し返す。
「俺が丹念にほぐしてやる!」
兄貴が捕まれた手を解こうともがく。
「だから、俺はいいって」
それに習って、俺も腕を激しく振った。
「遠慮するな」
「遠慮してねぇし!」
兄貴との押し合いは互角だった。どちらも引く気はないし、引いたら入れられてのはわかっていた。お互い指がズボンに触れそうで触れない。そんな興奮もあってか、俺も兄貴も股の間が少しずつ膨らみ始めていた。
「たっだいまー!お土産買ってきたよって何してるの?」
そこへ両手に紙袋を持ったミユがリビングに飛び込んできた。お互いに昂り始めた自覚があり、咄嗟にこたつへ足を滑り込ませる。不審な動きを見せる俺たちに、どうしたのとミユは首を傾げた。それになんと答えたらいいのかわからない。助けを求めるように視線を横へ向ければ、兄貴と目が合った。それから頷いた兄貴に、俺は全てを悟った。そして、俺たちは口を開いたのだった。
「「軽い運動」」