主人公とシドーが食事をとっているまものとの戦いのおりに、シドーの歯が抜けた。
乳歯だったのだろうか。
次の日見た時には、もう新しい歯が生えていて。ビルドはなんとなく、かじっていたパンを差し出して、食べる?と聞いた。
シドーが食事を摂るようになると、ビルドも同席した。シドーは肉が好きそうな雰囲気を醸しているが、野菜や果物も好んで食べた。特に懇意にしている住人たちの手塩にかけた作物はよく眺め、味わって咀嚼する。肉もそうだ。シドーも家畜の世話は手伝っているので、色々と思うところがあるのかもしれない。
咀嚼するところから、嚥下までなんとなしに眺めるビルド。自身の食事の手は、皿に乗ったトマトにフォークを突き立てたままとまっていた。ここにこの島の女王さまが同席していたら、はしたないわよ、と咎めていただろう。しかし、朝の緑の開拓地。僻地に建てられたこの家には、あたりまえのようにビルドとシドーのふたりしかいなかった。
破壊神シドーは、それを信じるものの命がいちばんの好物だと聞いたことがある。
「僕が死んだらさ、」
シドーは先日もらったいちごジャムの瓶に手をかける。
「食べる?」
蓋をおさえて、
ゆっくりひねると、抵抗もなく開いて、
赤赤としたジャムが顔をのぞかせる。
「……ハァ?」
「何言ってるんだ、オマエ」
「人間は死体じゃなくて、生きたまま食うのがイイんだ」
シドーはたまに真顔でとぼけたことを言うが、これもそうなのか判断するよりも先に、なるほどなぁという念がビルドに去来する。
「あのな…食わねーよ」
質問の答えをやや不機嫌にかえすと、シドーはジャムをたっぷり塗ったパンをひとくち。
ビルドは、そうか、とからから笑って。
「僕も、生きたまま食べられるのはちょっとヤダな」
とても美味しそうだったので、ビルドもパンにいちごジャムを塗ることにした。
シドーが使ったあとの瓶ものは大抵、蓋がかたくて開けにくくなっている。ビルドは腕まくりをして、気合いじゅうぶんに瓶をつかんだ。
おわり
2023.6