待てど待ち焦がれる ディーン・ウィンチェスターが何故これほどまでに多種を惹きつけるのかルシファーには理解できなかった。カスティエルの器を媒体にしてから感じ取られる視界は、確かにルシファーが見ていたものとは違うかもしれない。目を細めながらディーンに視線を向ける。人差し指で自身の唇をなぞりながらルシファーはディーンを注意深く観察した。
バンカーのキッチンでディーンはこちらに背を向けて料理している。彼は時たま、こうして自身が食べるものや家族に手料理を振る舞うことがある。これは、カスティエルの記憶から知れた。鼻で笑うルシファーは、ディーンの背から腰、ヒップへとじっくりなぞるような視線を向ける。器の評価は高い。それもそのはず。ディーンは元々ミカエルの器だ。体の作りはルシファーも唸るほどの美しさだ。
ディーンが振り向いて皿にハンバーガーを乗せる。容姿をじっくり観察したルシファーは彼が人類ともに認める美形であることも認めた。
「おい、さっきから何だ?」
ディーンが顔を上げ、こちらを睨んだ。しかし、その視線には怒気はなく、どちらかというと羞恥に色が濃い。ルシファーは眉を顰める。ディーンの表情は、アマラに対して絆を感じていると告げた時と同じようなものがあったからだ。カウンターに体を傾けたルシファーは、わざとディーンのパーソナルスペースに入る。
「キャス……」
ディーンはジッとしてこちらを魅入るように呆けたままだ。ルシファーは一瞬、目を丸めるも薄く笑む。腕を伸ばしディーンの頬に触れた。親指で膨らんだ唇をなぞる。目の前のディーンが抵抗しないのを良いことに味見しようかと思った矢先、カスティエルの低く唸る声が響いた。
『彼に触れるな』
ルシファーは笑んだ。しっかり独占欲を見せるじゃないか。誰もが惹かれる体だ。少しくらい味わえばその魅力を理解できると思った。だが、ディーンの唇を撫でただけで、その先に進めない。体が動かないことにルシファーは唸ったが同時に可笑しく思えた。
「キャス?」
呪縛が解けたようにディーンは相手と距離を取る。怪訝に眉を寄せた彼はカスティエルに違和感を覚えたのか警戒心が覆う。ルシファーはディーンから一歩引いた。
「すまない。唇に……ついていた」
料理する途中でディーンが味見した食べ残しだ。ルシファーはカスティエルを真似て申し訳なさげに指を舐めあげる。ディーンはすぐに頬を赤らめ唇を自身の手の甲で拭った。
その仕草は初心な少年のように映りルシファーは喉を鳴らす。
ああ、勿体ないじゃないか。カスティエル。
さっさと彼をいただけばいいものを。