【SPN】歯車が狂う時【C/D】 本来なら、あの身体はミカエルのものになるはずだった。
大天使の器になるべくして生まれた正義の男。
ディーン・ウィンチェスターの魂を地獄から救いあげるのはミカエルのはずだったのだ。
しかし、神の悪戯かその役目はカスティエルに任されることとなる。ミカエルはそのことに対して反対しなかった。むしろ、面倒事に付き合わされずにすんだことに満足していた。あれはただの器なのだから、役目を果たすときに役立てれば良い。そう思っていた。
しばらく天界で様子を窺っていた。ディーンの準備が整い次第、ミカエルは器を手に入れる手筈だ。ザカリアの懐柔策に抜かりはない。ディーンはミカエルを器として受け入れ身も心も捧げるはずだった。
それがどうだ。
差し出した手をディーンは拒んだ。逃れるようにミカエルの追跡を交わした彼の態度は有り余る。器だからといって、甘い顔をしていたが、苛立ちがつのるとミカエルは躍起になった。何故ならディーンの祈りは全てカスティエルへ向けてのものだったからだ。
「私からそう簡単に逃げられると思うな」
ミカエルはそう囁くと、背を向けたディーンを吹き飛ばした。多少、器が傷ついても後で治せば問題ない。ミカエルは倒れたディーンを睨んだ。声を聞いて飛んできたのだろう、カスティエルがディーンを守るように現れる。大天使を前に怯まない態勢は一介の兵士にしては度胸があるが、全く気に入らない。虫唾が走る。カスティエルに祈るディーンは、ミカエルを拒み否定するのもそうだ。ミカエルは傷つくディーンの身体を優しく抱きとめるカスティエルを睨む。いつの頃からあの二人はそこまでの深い仲になった? 何を見過ごしていた? カスティエルはまるで自分のもののように器に触れた。苛立つ声を抑えられずにミカエルは一歩踏み込んだ。
「それは、私の器だ。返してもらおう」
二人の間にある魂の絆に嫌悪を抱きながら言い放つ。
カスティエルは、ますます嫌悪感を露わにミカエルを睨んだ。何故、彼は大天使に歯向かう? 不可解だった。しかし、次のカスティエルの言葉は決定的で今以上に神経を逆なでした。
「『それ』、ではない。ディーンは誰にも渡さない」
カスティエルの言い分は理解できなかった。ディーンの手を握りしめるその手を斬り落としたくなる。何故、自身がここまで苛立ちを覚えるのかも分からない。反吐が出そうだ。
それほどまでに、その器が大切であるなら貴重であるはずだ。ますます手に入れたくなった。今の器であるアダムで妥協するべきかと、脳裏に過ったが目の前のディーン・ウィンチェスターに興味がわいた。ミカエルは薄く笑んだ。