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    日雛他男女cp小話

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    2024.6.3 ひなたん話

    飴のように甘い 雛森の誕生日を祝うために休憩時間を利用して五番隊舎の執務室を訪れた日番谷。そこに雛森の姿はなかったが、居場所は平子が揶揄うことなく教えてくれた。
    「桃ならあっちの木陰や」
     怠そうに指で示されたのは図書館の方角。執務室にいなければ図書館あたりと目星はつけていたからおおよその予想通りではある。教えてくれた平子へと軽い相槌と感謝の言葉を伝えればニヤニヤとした目線だけが追ってきた。それを無視し執務室を後にして日番谷は五番図書館の木陰を目指す。

     平子が雛森を名前で呼ぶことが、初めは幾らか引っかかっていた。
     桃、と与えられた愛らしいその名を呼ぶ者は、平子が現れるまで雛森の周りにはいなかった。かつては日番谷もそう呼んでいたはずのその呼び方は──懐かしいようで、少しばかり悔しいようで。羨ましいような気さえして。
     呼ばなくなった理由は、日番谷が雛森と対等の関係になるには苗字呼びが手っ取り早かったからだ。この世界で生きている年月なんてものは関係なく、ただ対等の関係を築くためには。
     いつの頃からか雛森のことを兄のように慈しむことも、弟のように慕うことも、できなくなった。
     ──本当の家族でも疑似的家族でもないから。
     それに尽きる。
     たまたま此方の世界に来てからの住居が他と比べれば格段に安全な土地で近所だった、というだけで ── 流魂街に数多く在る、知らない者同士がこれも縁とばかりに同じ家に住み共同生活を営む擬似家族という存在ですらなかった。
     だがそれは、もしかしたら日番谷にとっては、とても都合が良かったのかもしれない。
     たまたま二人共が霊力というものを保持していた。だから霊力がない者と違って腹が空き成長をしていくことを出会った頃から知っていた。けれども背が伸びるという意味で、雛森の方が日番谷よりも随分と成長が早いことに気づいたのはいつだったか。だが二人が寄り添って育っていったのはたまたまではなかった。それは日番谷に要因がある。
     近隣住民たちから怖いと陰口をたたかれ眉を顰められ。霊力もない彼らからしたら異色の色を持つ日番谷は、畏怖の対象だった。そんな日番谷に物怖じしないのは、住まわせてくれている祖母を除けば雛森だけだった。少し足を伸ばせば、子どもの形の日番谷を慕ってくれる巨大な体躯で気がいい死神の友人もいたけれど。
     日番谷を怖がらなかったのは雛森自身が霊力を持っているからか、それとも雛森本人の気質か。気質だろうなと日番谷は思う。朗らかで人当たりよく他人を尊重できる強さがある。だから、日番谷も絆されたのだ。
     そうして二人は家族でなければ兄妹でも姉弟としてあるわけでもなく、隣近所の霊力を所持する者同士として親交を深め、ある程度まで流魂街で過ごした後に死神となった。
     二人で死神になろうと約束をしたわけではない。霊力があろうと日番谷には死神になる気などなかった。だが雛森が意志のままに死神になると決め、街を出て行った。それを追いかけたいと思う心と、ここまで日番谷と共に家族として過ごしてくれた祖母とを天秤にかけ、祖母を置いていくくらいならと死神になるという選択肢は選択外へ追いやった。
     しかしながらも死神になったのは、雛森と対等になれると思ったからだ。
     祖母を思う気持ちを逆手に取るように、持ってしまった強大な力が無意識の内に暴走しかかっていたことは一つの要因ではあったけれど、雛森がこの街を出て行くときに叫んでいった"同じところに入学できたら"なんて冗談のように言われた切り返しを間に受けて、力をモノにすることで可愛らしい渾名ではなく苗字呼びを強要し対等であろうと思ったからだ。
     「同じところに入学出来たら苗字で呼んでくれるんだったよな?」
     そう言って霊術院の制服姿で目の前に立つと、口をぽかんと開けた間抜け面をした雛森。日番谷はその顔を今でも覚えている。
     あの時に日番谷が望んでいた"対等"にはなれたのだろう。けれどそれから先で色々なことがあって、縮めたはずの物理的な距離はまた少し離れてしまった。
     日番谷と雛森を表すのは、同僚で今よりも幼い姿を知っている近所に住んでいただけの幼馴染、という宙ぶらりんな関係性。それだけが残った。
     そんな前進も後退もしない関係の中、間にあった見えない溝を一気に飛んできたのは、やはり雛森だった。日番谷は様々なことを考えすぎて動くことができなかったが、雛森は全部包んで抱えてくれた。こうしたいと思ったらそれができる強さを持っているところ、それが雛森の良さであり好ましいところ。日番谷の方が永く、この世界に在るけれど、こと雛森に関しては日番谷は後れを取ってばかりだった。

     とにもかくにも、雛森が日番谷を特別な存在だと言ってくれている。
     だから、誰かが桃と名前を呼んでいたって、もう何か引っかかることはない。それが今の日番谷の全てだ。


     五番図書館の建物の影に立っている木の下で、読書をしている雛森を見つけた日番谷は、近づいて上から覗き込む。気配を消しているわけでもないのに気づかないのはどうなんだ。そんなことを思いながら声を掛けた。
    「雛森」
    「ひつはやくん!」
     すぐに顔を上げた雛森は嬉しそうに笑ったが、呼ばれた名はどうにも舌足らずで、もごもごと籠っている上に棒が唇からはみ出している。
    「飴食ってるのか?」
    「イチゴ味」
     目線を合わせるようにしゃがみ込んだ日番谷に向けて、見せるように口から取り出された飴は三角形の透き通った赤い色をしていた。
    「日番谷くんも舐める?」
     聞いたくせに日番谷の返事は聞かず、飴を咥え戻してから膝の上で開いたままだった本を閉じて。ガサと傍の袋から飴を一つ取り出すと、被せられた透明な封を開けていく。イチゴの形で三角形なのだろうか。おそらくだが貰い物なのだろう。
     何も言わずに見ていた日番谷の唇に赤い三角が押し当てられる。押し当てられたので仕方なく口の中へと招き入れると、ふわりと甘い香りが広がった。
    「美味しい?」
    「飴だからな」
     答えた後で棒を持って飴を口内から外へ取り出して、疑問を音に乗せる。
    「誰かに貰ったのか?」
    「うん、隊長からもらった」
     平子に貰ったのだと確定の情報を得て、似たようなものを選んでしまった、という言葉が頭をよぎった。
    「そうか。オレも甘いもの持ってきちまったんだよな」
    「ほんと!? 嬉しい!」
     今年も捻りなく甘い食べ物にしてしまったが、こんな風に喜びを顔に乗せてくれるのだから良いとしよう。袂から小ぶりな箱入りの袋を取り出し渡す。いそいそと包みを開けていく雛森の瞳がキラキラと輝いた。中に入っていたのは瞳に負けず輝く白と桃の琥珀糖。頭上に掲げて太陽にかざす。「きれい」と一言呟いて、舐めていた小さくなりつつある飴を手に持つと目線を合わせてきた。
    「ありがとう。大事に食べるね」
    「ああ。今年も誕生日おめでとう」

     そこから二人で静かに飴を舐めていた。そのうち雛森は舐め終わったのか、棒を持て余し気味にくるくると遊んでいる。ふと、いたずら心というものが浮かんできてまだ小さくなりきらずに棒がついたままの飴をガリと噛んで棒から外す。
    「あー! 噛むなんて勿体無いよ」
    「桃」
     名を呼び、どうしたのと言わんばかりの顔へと地面に片手をついて身を寄せて口付けた。残っている飴の欠片を口渡しで雛森の口の中へと送り込む。難なく捉えた舌を絡ませてから口を離すと、雛森は目元も頬も耳も赤く染まって先程まで舐めていた飴のような色をしていた。
    「甘いな」
     美味しいかを訊かれて答えていなかった感想を口に乗せれば「バカ」と罵りの言葉が返ってきた。両掌が頬を隠すように当てられて口からはううう、と恨めしげに唸る声が漏れている。
    「嫌だったか?」
    「違うけど、急に名前呼ぶんだもん」
     いつもは絶対に呼ばないくせに、と恨みがましく見られて、なるほどその目の原因は名前呼びの方かと納得をした。
     今までは頑なに雛森と苗字でしか呼んでいなかった。そういう関係になって、そういう行為をするようになってからも。日番谷にとっては苗字呼びこそが対等だったからだ。けれども。
    「もう呼んでも良いんだ、と思ってな」
     雛森は日番谷を選んでくれた。だからどんな呼び方をしたって良いはずだということに急に気が付いてしまったのだ。飴を介して口付けたのはいたずら心だったけれど、名を呼んだのはそれではなかった。
    「これから桃って呼んでくれるの?」
    「ん、二人の時はな」
    「嬉しいから、あたしもシロちゃんって呼ぼう」
    「いやそれは別だろ」
     懐かしい呼び名に間髪入れずに苦言を呈したら、首を傾げられた。
    「嬉しくない?」
     苗字呼びは対等だった。けれども、そうでなくて良いのだから、日番谷が桃と呼ぶならば雛森だってシロと呼んで良いことになる。だから、折れるしかなかった。
    「……二人の時だけにしてくれよ」
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