想いあふれて少し遅めの昼飯を食堂へと食べに行った帰りに日番谷は、その姿を見つけた。
人気のない木の陰で眠りこける雛森を。
おそらく休憩中なのだろう。すやすやと静かに眠っていた。傍らに本が落ちているから、読んでいる最中に寝落ちした、というところか。
「のんきに昼寝してていいのかよ、副隊長」
しゃがみこみ寝顔を覗きながら語りかけるように呟いた声にも反応はない。
たしかに今日は昼寝日和だ。ぽかぽかと陽は温かく、風はそよそよと凪いでいる。木陰は心地よい気温に包まれていて、ここにいれば眠くなってくるのもわかる。
「しっかし、よく寝てるなー」
気配を消した覚えのない日番谷が近づいたことにも気づかないほどに。こんな間近で声を出しても起きる素振りひとつない。それでいいのか副隊長。
日番谷"だから"起きないというのなら喜ばしいが、他の奴でも起きないのだとすれば少々問題ではなかろうか。
真意の程は判りようがないが、日番谷だからだと思い込むことにした。
自分だから気づかず安心して起きないのだと。
気配を消して近づいた時にはわーわーぎゃーぎゃーと騒ぐくせに、そうでなければ笑顔を振りまいてくれるのだから、それがなんとも可愛らしくて。
日番谷はふっと笑って、額をぺしりと叩いて起こそうかと手を伸ばした。けれど少し汗ばんだ額に張り付いた前髪をそっと退かすだけに留めておいた。
こんなにもよく寝ているのに、無理に起こすのは忍びない。
それに執務中は意地でも寝ないようにと肩肘張ってる雛森が、休憩中とはいえ寝ているのだから疲れでも溜まっていたのだろう。
もう少し、いいか。
後ろの木へと手をついて身を乗り出し、眠る雛森へと顔を近づける。
そして音を立てずに口付けた。
無防備になった額へと口付けをひとつ。
「好きだ」
その声は掠れて音となったかならないか。
途端に羞恥が襲ってきて、赤くなった顔を隠すように膝へと伏せた。
「なにやってんだ俺は……」
独りごちた声は震えていた。想いだけが溢れ止まらず。はー、と思い切り息を吐き出すと膝の上で頬杖ついて、変わらず穏やかな寝顔を眺める。
「お前もそろそろ気づけよな」
そうは言ってもまだまだ長いこと続きそうな片想いだ。
日番谷は雛森の横へと移動し木にもたれかかって、一緒に寝てしまおうかと目を閉じた。