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    日雛他男女cp小話

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    夏に書いた水着話を加筆修正しました

    2022.12.17

    #日雛
    dayHina

    魅惑の渚燦々と照りつけてきてじりじりと肌を焼く日差しを手を翳して遮る。日番谷は氷の使い手だけあって暑さが苦手だ。
    出来ることならば潮の香りのする砂浜を立ち去って空気の冷えた室内へ移りたいと思う。思うけれどそれだけだ。一人だったならそもそもこんなところには来なかっただろう。けれど、一人ではないから日陰でもないこの場所で準備を終えるのを待っている。
    額から流れ落ちる汗を翳した手で拭っていると、己を呼ぶ声が聞こえた。
    「日番谷くん!」
    声の方へ頭を向けると、お待たせーと帽子を手で押さえながら雛森が駆け寄ってくる。
    海にきているのだから勿論、その姿は水着だった。
    白とオレンジという配色で、腕や腹や脚の健康的な肌が惜しげもなく晒されている。普段は肌を晒すことない着物を着ているから、見慣れぬ姿に時が止まった。
    「どうかな?」
    「いいんじゃねえか」
    期待の眼差しを向けられたからか、周りに人は多かろうと二人きりだからか、素直に褒めてあげられた。若干見惚れていたことを目敏く揶揄う者がいなかったことも日番谷にとっては僥倖だった。
    「えへへ、ありがとう」
    「珍しいな、その色」
    こそばゆそうに、はにかむ顔がまた可愛かったから照れ臭さを隠すように口をついたのがそれだ。
    薄紫や桃といった淡い色を好む雛森にしては珍しい配色だったため、気になったのだが……返ってきたのは「夏だからね!」という答えだった。
    おそらく夏らしくて明るい色を選んだということなのだろう。
    「海行こ!」
    「おわっ」
    走り出した雛森に急に腕を引かれ、バランスを崩しかけながらも走り出す。弾けるような笑顔で楽しげな様子に文句を言う気にもなれなかった。

    帽子をかぶっている雛森とパーカーを着たままの日番谷なので、海に入るといっても波打ち際で足をつけるだけだ。だけだったのだが、夏の海はテンションが上がるものなので。
    「それっ」
    びしゃりと雛森が掌ですくってかけてきた海水が見事に日番谷の顔に当たる。
    「おま、やったな」
    掌で顔を拭い、濡れた前髪をかき上げてからすぐさまお返しとばかりに水を撥ねさせた。
    「わっ」
    これも雛森の顔に命中し、どうやら闘志に火がついたようだ。
    「もー! お返し」
    えいえいっ、とひっきりなしに水をかけてくるのを避け続ける。
    「お前が先にやったんだろ」
    「しらないもーん」
    二人でただ水をかけ合っているだけなのに、暫く笑い声が絶えなかった。


    水のかけ合いを止め、ふと目に付いたのはかき氷と書かれた幟旗だった。
    「雛森、かき氷食いたい」
    アレ、と指を差しながら伝えると「あたしも食べたいなって思ってたの」と返ってきた。それじゃあ向かうか、と海から砂浜へ上がる。
    日差しは先ほどよりも強くなってきている上に、周囲の目も少しばかり気になり、日番谷は徐にパーカーを脱いだ。パーカーで隠されていた幼いながらもしっかりと筋肉のついた身体が晒される。
    「これ着てろ」
    「え? 大丈夫だよ」
    「いいから」
    押し付けるように渡せば、雛森は首を傾げながらも袖を通してくれる。日番谷の方がまだまだ身長が低いため、ぶかぶかのパーカーを羽織るようにはならなかったが、その身を己の肌上に着ていたものが包んでいるだけでなんだか少しばかりそわそわする。
    「行こっ」
    手を差し出されたからその手を取った。見えた幟旗のある海の家まで二人並んで歩いて行く。仲良く手を繋ぐ姿は果たして恋仲のように見えるのだろうか。せいぜい姉弟だろうか。外見が似てはいないからやっぱり幼い恋仲だろうか。
    繋がれた手をじっと見つめている間に海の家までついてしまった。するりと手は離れて行ってしまい、気にしているのは俺だけだなと小さく息が漏れた。
    かき氷は日番谷は赤いいちごシロップ、雛森は緑のメロンシロップを選んで注文する。
    「ふふ、スイカ色」
    出された並んでいるかき氷を見て、雛森はそう言って笑った。

    並んで座りかき氷を口にする。
    「ん〜! 冷たい」
    美味しそうに食べるから、雛森が食べるところを見るのが好きだな、と日番谷は思う。
    「おいしいね!」
    「氷は冷たくていいよな」
    「日番谷くんは冷たくないよ」
    「そもそも俺は氷じゃねえよ」
    「知ってますー!」
    「雛森、舌が緑色だな」
    「そっちもいつもより赤いよ」
    「お前ほど目立たないだろ」
    「もー日番谷くんも変わっちゃえ!」
    口へ緑色に溶けてきた氷を突っ込まれる。一口くらいじゃあどうにもならないだろうと思考とこいつなにも気にしねえのかという思いとでジト目になる日番谷のことは気にもしないで、雛森は「あたしにも一口ちょーだい」なんて言ってくる。
    「ほら」
    匙に盛った氷を向ければ、素直にあーんと口が開いて。
    「いちご味もおいしいね」
    「甘いからな」
    なんだかその甘さにこちらが溶けそうだった。

    「あっ」
    ピュッと吹いた海からの風によって雛森が被っていた帽子が飛ばされた。取りに行こうと立ち上がりかけた雛森を制して、日番谷は走り出す。
    難なく拾い、戻って渡せば「ありがとう」と言いながら帽子で口元を覆い目を逸らしている。
    「どうした?」
    「えっ、なにが?」
    「こっち見ねえから」
    「なんでもないよ」
    「雛森」
    「──かっこよく見えたから」
    「ふ〜ん?」
    日番谷は座る雛森の真正面から覆いかぶさるようにして顔を覗き込んだ。
    「照れたのか」
    「う〜〜」
    日番谷の方を見ずに赤くした顔を帽子に隠す雛森に、意識しているのは自分だけではなかったのかと気が高揚する。
    「まだ遊ぶんだろ」
    「ちょっと待って……」
    「待たねえよ、デートだろ」
    「デ!?」
    「違ったか?」
    「……違わないから日番谷くんパーカー着て」
    「いやだね」
    「なんで〜」
    「俺はお前のその姿、誰かに見せたくない」
    そう素直に告げた後、周りはガヤガヤとしているのに、ここだけ時が止まったように沈黙が落ちた。
    数分の沈黙後、帽子を下げ、ちらりと目だけを出し見上げてきた雛森は何かを小さく呟いたが、それには聞こえないフリをした。
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