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    natukimai

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    2023年4月8日WEBオンリー「先生はすげえんだから!」展示作品です
    いちゃちゃから痛々しいものまでの短編集です。闇堕ちだったり許されない恋だったりするので何でもゆるせる方向きです。

    #ポプアバ
    pop-a-boo
    #橙腐

    ポプアバ短編集●初々しいキス5題


    01:すぐに離れて「い、イイ天気ダネー」


     森の中で二人きり、先を行くアバンの後姿を眺めつつ、ポップは今日何度目になるか分からない溜息を零す。
     恋人同士になったのなら、と思いつつも、随分と強引かつ泣き落としで恋人になった自覚がある分、少しだけアバンとの距離が出来てしまったのではないかとポップは思うのだ。
     もっと、こう……気軽にキスをして「い、イイ天気っすね」と言えば、アバンの方も少しだけ頬を赤らめながら「そうですね」と笑い、そうして、もう一度、今度は深いキスを交わしたい。
     なのに、告白をしたばかりに、今は奇妙な距離が二人の間に出来てしまっている。この間までは二人でいい感じに漫才をしながら旅をしていたのに。
     もう一度、切ない溜息を零した瞬間、かの人は突然、怒ったように振り向くと大股で自分の方へと歩いてきたと思ったら、胸倉を掴まれて……キスされてしまった。
    「えええ……っと、先生?」
    「貴方ね、いつまで意気地ない態度をしているつもりなんですか? 私はとっくに覚悟を決めたんですよ」
     そう言うと、ふいっと元来た道へと戻っていく。暫く、その場でぽかんとしていたポップだが、背中を向けたアバンの耳が真っ赤なのを見て嬉しくなってしまう。
    「先生! ごめん! でも大好きっすよ!」
    「知りません! 私、怒っているんですよ!?」
     大袈裟な芝居がかった抑揚は、アバンが本心では怒っていない証拠なのは長い月日の付き合いで分かっている。ぴょんとアバンの背中へしがみ付けば、そのままにしてくれるのもアバンが優しいからだ。
    「だから、ごめんって……おれ、今日から心入れ替えるから! もっと、したいことはしたいって言うから! キスしたいとか服を脱がせたいとか! もっと、それ以上がしたいとか!」
    「服を脱がせる以上は駄目です! それ以上は大人になってからです!」
    「えっ! 服、脱がせていいの!?」
    「……上だけなら」
    「えー、おれ、アバン先生なら全部、脱がしたい」
    「だから、それ以上は大人になってからです」
    「おれ、15っすよ。十分、大人じゃないっすか?」
    「充分、子供です」
     15と言えば軍隊に入る事が出来る年齢だ。剣を持ち、戦うことが許される――腕力には自信がないので自分は魔法で身を立てるつもりだが、そんな年齢なのだ。
    「そんなぁ、先生は15の時はもう働いていたんでしょ?」
     ポップの言うことにも一理あると思ったのだろう、珍しく言い淀むアバンだったが、振り切るようにして思い切り首を横に振ると「18になるまで駄目です」と言い張った。
    「あと三年っすかぁ」
    「何か不満でも!?」
     正直なところ、大いに不満があるのだが、ここで臍を曲げられて困ると、ポップはアバンにぶら下がりながら「了解っす!」と元気よく声を上げた。
    ――あと三年。それまで先生より背が高くなって、様になるようなキスが出来るまではお預けだな、とほくそ笑むのを、アバンは知らなかった。 
    02:不自然な体勢で


     静謐な空気の中、尊敬と愛情を注いでいる師は、つれなく背を向けたまま。
    「先生~いつまで調べものしてんですかぁ」
    「この珍しい古き呪文の本を読み終えてからです。っていうか、ポップ? 貴方も何か読んだらどうです? この古い魔法に守られた図書館で出会えるなんて、奇跡に近いのですよ」
    「そうは言っても」
     ポップはうんざりした顔で、壁一面に作りつけられた本棚に並べられた背表紙を見て溜息を零した。
    「おれ、古代文字とか分かんねーもの」
    「ああ、そう言えばそうでしたね」
    「今、それ言うんすか?」
    「すみません、この図書館を見つけた喜びで興奮してしまって、忘れてました」
    「ひっでー」
     すみませんと笑いながらアバンは椅子から立ち上がり、きょろきょろと周囲を見渡すと何かを見つけたようで、数歩先へと歩いていったかと思えば、大きめの本を両手に抱えて戻ってきて弟子へと渡した。
    「なんすか、これ?」
    「挿絵の多い本なのですが、これなら字が読めなくても楽しめるかと」
    「絵本ってことっすか!? おれ、幼児扱いっすか!?」
     まあまあと笑いながらアバンは椅子へ戻ると、またもや本の世界へと戻ってしまう。
     溜息を零しつつ、一応、ポップは手渡された本をぱらぱらとめくると、なるほど、字は読めなくとも挿絵のお陰である程度の意味は読み取れてしまう。
    「だから! おれは幼児じゃねぇっつーの!」
     静かな空間で雄叫びを上げてはみたものの、すでにアバンは本の世界に没頭してしまって、弟子の――いや、恋人の悲しい叫びなど何処吹く風だ。
     少々――いや、大分、むかっ腹が立ったポップは、アバンの背後に回ると、無理矢理に顔を上向かせて唇を合わせた。
     突然のことに逃げ惑う舌を追い掛け、絡めて擦り合わせれば、途端に抵抗は緩くなってされるがままになる。僅かに零れる吐息に背中をぞくぞくとした痺れが走って、夢中になってアバンの唇を堪能すると、少しばかり顔が見たくなって離れると、眼下には熱に浮かされた顔があって興奮した。
     長い間閉ざされた空間は少しだけ空気が重く沈み、図書館という淫らなことが許されそうにない空間でキスを交わすことに酔いそうになった。――しかし。
    「ポップ」
    「はい」
    「首の筋、おかしくしました。痛いです」
    「――えっ」
    「責任とって治してくださいよ」
     熱いレンズ越しに見える涙は快感ではなく、痛みによるものだと分かったポップは大慌てて回復魔法でアバンの痛めた首筋を治すと、あとはひたすらに床に額を擦りつけて謝るのでした。
    03:変な顔になっていないか気になりつつ


     避けられている。と、ポップは思うのだ。
     だって、おとといも昨日もキスしていない。どういう事なんですかよ詰め寄ると、アバンは「変な顔していないか気になって」と言うので、思い切り呆れてしまった。
    「一体、全体、なんでそう思うんすか?」
    「いや、だって……三日前に泊まった宿で――した時、見えたんですよ、自分の顔が」
     アバンに言われて記憶の糸を手繰り寄せてみると、ああ、確か森の中にある奇妙な宿で、二人一部屋と頼んだのにベッドが一つしかなかったのだが、特に問題なかったのでそのままアバンと二人で横になったのだが、いつも通りに二人で相手へと手を伸ばし、愛の言葉を紡いで唇を重ねたのだが、その際に天井一面が鏡になったのだ。
     別段、自分が魔法でどうこうした筈はなく、それは自分の体の下になっているアバンもそうだろう。疑問には思ったが、そう言えばベッドの脇に幾つものボタンが付いた石板らしきものがあったから、うっかりと二人の内、どちらかが押してしまって、結果、天井が鏡になったのだろう。
     要はそこで快楽に耽る自分の顔をアバンは見てしまい、ポップからのアプローチから逃げていたのだという。
    「なんすか、それ」
     ポップは脱力したように傍にあった椅子へと腰を掛け、大きな溜息を零して顔を両手で塞ぐ。
    「ポップ?」
     アバンの呼びかけにポップは答えない。これは随分と彼をがっかりさせてしまったのではと心配になってアバンは歩み寄り、少しだけ腰を屈めて名前を呼ぶと、今度はがっちりと顔を両手で包むようにして視線を絡めさせた。
     にんまりと、まるで悪戯が成功した子供の様にポップは笑うと、次に柔らかく微笑んでアバンの鼻先へとキスをする。
    「そんな心配はするだけ無駄っすよ」
    「そ、そうだろうか?」
    「知らないんすか? おれ、先生のキス待ち顔が世界で三番目に好きなんすよ」
    「さんばんめ?」
    「そ、ちなみに二番目に好きなのは快楽ででろでろに溶けている顔で」
    「ポップ!」
    「一番好きなのが笑っている顔っす」
     だから、笑ってとポップは乞い、アバンは少しはにかみながらも可愛い弟子の言う通りにしてやり、そうして二人は三日ぶりにキスをするのだ。

    04:俯く顔を上げさせて


    「せんせぇ~つかれた~おなかすいた~足がいたい~」
    「……お口の方は元気みたいですけど?」
    「そりゃ言うだけはタダっすからね」
    「まーた、訳のわからない言い訳を」
    「でも、先生」
    言うとポップはその場でうずくまり、呻き声を上げだした。これにはアバンも慌てて駆け寄って、大丈夫ですか? と声を掛けた途端、俯いた顔を上げると噛み付くようにキスをした。
    じっくり、ねっとり、アバンが軽くホップの胸を小突くまでキスは続いた。
    「な、なななな、なにするんですか!」
    「だって、そこに顔があったから」
    「……また、穴があったから覗いたみたいなこと言って」
    ポップはしてやったりとでも言いたげな笑みを浮かべると、両手を頭の後ろで組んで口笛をふく。
    「そこに顔があったから。つまりは、そこに顔さえなければ、おれはキスをしなかったからで。おれの顔を上げさせたのは先生っすよ」
    言うとアバンはポップへと背中を向けた。
    「ここから先、私は一切手伝いませんから!一人でいらっしゃい!」
    言うや否やアバンは瞬間移呪文で、その場から消えてしまい、取り残されたポップはポカンとしてしまう。
    「ずりー、おれを置いていくなんて」
    でも、まぁ。
    「先生のキスで元気貰ったから、もう少し頑張っちゃってみますかぁ」
    ポップは知っているのだ。アバンが不意打ちのキスに弱いことを。
    脳裏に後ろ向きでもハッキリ分かる、真っ赤になった耳を浮かべて、ポップは歩きだした。
    05:勢いづきすぎて転んだ後で


    祝福の花びらが舞い、歓声が上がる。地上を我が物にしようとした冥竜王ヴェルザーの侵略を阻み、世界に平和をもたらした一行…アバンの使徒たちは熱烈な歓迎を受けていた。
    生きている伝説とまで言われた竜騎士、ダイ。驚異的な復活を遂げた不死身の剣士ヒュンケル。今は亡き師の想いを受け継いだ武闘家マァム、世界の脅威を予想し、今日まで軍備を整えてきた女王レオナ、そして名実ともに大魔道士となり、四大精霊に愛されていると評される程となったポップ。
    大魔王バーンの戦いから五年。それぞれに成長し続けてきた弟子たちの勇姿を物影から見ていたアバンは感慨深げに涙を浮かべていると、幼さが抜けきって大人の男性としての魅力が出てきたポップがこちらを向いた。
    (え?そんな)
    アバンはフードを目深に被っていたし、群衆の背後から眺めていたのだから見つからないと思っていたのだが。
    「先生!」
    気のせいだと思いたいのに、名前を呼ばれてこれはダメだとアバンは走り出す。
    「先生っ!」
    ポップは両手を差し出すと大きな光の玉を生み出し、次の瞬間、群衆一部と自分の位置を入れ換える。
    「そんなことも出来るんですか!?」
    あっという間に間近に迫るポップに、慌ててアバンも自分の身の内から魔法力を呼び出す。
    瞬間移動呪文…を唱えようとした瞬間、背後で大きな、そして間抜けにも聞こえる声がして足を止めて振り返ると、ポップが顔を押さえて地面へと転がっているのが目に入った。
    ああ、もう!
    「何やっているんですか!そんな長いローブで走り出せば転ぶことなんて想像がつくでしょうに!」
    花道を歩いている時は、とても落ち着いていて立派で、賢者と呼ばれてもおかしくない空気を身にまとっていたのに、今、自分の前にいるのは出会った頃の危なっかしい、しかし、真っ直ぐにアバンを慕う少年のままで、心が騒いだ。
    「掴まえた、先生」
    気づけば自分の右手は節だった手が掴んでいて、目の前の元弟子はにんまりと笑う。
    「言ったでしょ?次に掴まえることがあれば、絶対にオレのものにするって。そして、先生はもし、本当に捕まったのなら降参するって」
    「それは、その…言いましたけど」
    「じゃあ、今日から先生はオレのものだ」
    「先生」
    瞳を潤ませ、ポップはアバンを見上げる。姿かたちは青年の精悍さを身に付けているのに、甘えるような、危うい光を放つ瞳にアバンは弱い。
    「愛しています。もう、離さない」
    近いほどの体温と唇に触れた甘い痺れに息が詰まる。
    周囲に響く人々の驚きと喜びが入り交じった声の波に、もう逃げられないのだと、アバンは悟った。

    ――奈津樹さんは『膝枕』をお題に、140字でSSを書いてください。――

    #shindanmaker
    https://shindanmaker.com/320966

    「まだ、その癖治っていなかったのですか?」
    言われて、なる程とポップは自分の右手を見る。昔から込み入った話になると耳に指を突っ込む癖があるのだ。
    「それは余計に垢を奥へと入れてしまうからダメだと言ったでしょう」
    「べ、別に耳垢が溜まってるんじゃねーんすよ、ただね」
    「言い訳無用!ほら、取ってあげますから」
    アバンはソファへと腰掛け、どこから取り出したのか耳掻きを手にすると、自分の膝の上に頭を乗せるように言う。
    「…ほんじゃ、お言葉に甘えまして~」
    そうしてアバンの膝の上へと頭を乗せると、暖かい、そして懐かしい感じが胸の中を一杯にして、魔術師ギルドで起こったゴタゴタなど遠退いてしまう。
    「あのね、ポップ。私には貴方の抱えている問題には手を出すことは出来ませんし、そもそも貴方には問題を解消する力がある。でも、そうやって働きすぎて疲れた時は私の所に来てくださいね。美味しいお茶とお菓子を用意して待っていますから」
    「それと、暖かい膝枕?」
    「……ご希望なら幾らだってしますが?」
    「うん、俺はこれがいい。これでなくちゃダメだよ、先生」
    アバンとの修行中時代の頃を思い出す。あの頃はただアバンに憧れるだけで良かった。遠くて懐かしい、慌ただしいけれども心踊る日々。
    アバンの手がポンポンとポップを慰めるように叩く感触さえ、あの頃のままに。
    いつしかポップはうつらうつらと眠り始めていた。

    ●微エロな5題×5★痛

    01:包帯を巻かせる

    「本当に、貴方は」
     不満を口にしながら、アバンはポップの手へと包帯を巻きつける。
    「それだけ本気ってこと」
     アバン曰く不肖の弟子は、肩をすくめて妖艶に笑う。一見、普通の少年に見えるものを、どうして、こんな取り返しのつかない、大胆な行為を平然と行うようにしてしまったのか。
    (ああ、もしかしなくても、私の所為か)
     あの小さな村でこの少年に出会い、半ば押し掛け同然で弟子になることを許し、そして過酷な戦いの中へと押し出してしまったのは他でもない、自分なのだ。
    「もしかして、自分の所為でこうなったって思っているすか?」
     声に目を開けてみれば、いつの間にか鼻同士が触れす程に近くにポップの顔が迫って、驚いて腰を引くとバランスが崩れて背中から倒れそうになるが、自分の腰を今では逞しくなった弟子が受け止め、そうして包帯を巻いた手の平をアバンへと向ける。
    「この手の平へと刻んだ呪いの言葉は、まさに先生の所為ですよ」
     にやり、とポップは笑う。
    「あの日、先生と出会って、おれの全ては先生のものになった。なのに先生は勝手におれの前から死んだと思わせて消えて、あの日の絶望と遺言がおれに呪いをかけた」
    「……まだ、修行途中のキミたちに世界の命運を預けたこと、生きていることを一切、知らせなかったことは、本当に申し訳なく」
    「じゃあ、ちゃんと責任とってもらわないとね」
     にっこりと、無邪気な少年の頃のままにポップは笑い、アバンの手を取り、アバンはその包帯を巻いた手から目が離せないでいる。
    「あの日から、ずっとおれは呪われたままだ」
    「呪いだなんて……その手の平に刻んだ文字だって、単なる私の名前じゃないですか」
    「ええ、おれにとって最強で最凶の、そして最大幸福の文字です。この呪いがおれを飲み込むのを止める事が出来るのは、先生しかいないんですから」
     触れ合った手が熱い。まるで自分自身の手が刻まれたような熱と痛みにアバンは顔を歪め、そうして、こんな痛みに苛まれている弟子を憐れんだ。
    「ポップ」
     ああ、これは解呪の言葉になるのだろうか? 
     分からずアバンは、自らの魂に一番近いだろう男の名前を呼ぶ。
    「大好きですよ。キミが堕ちると言うのなら、私も堕ちます。どうか、このまま離さないで」
     繋いだ手の指をそっと絡めると、自分の手の平の痛みなど構わないとばかりにポップは強く握り返してくる。その瞳は大粒の涙が溢れ、ぽろぽろと落ちていく。
    「せんせぇ」
    「あなた、泣き虫なのは変わってないのですねぇ」
     闇が二人の上へと降ってくる。もう二度と解けない呪いの中に佇み、ただ、胸に灯った暖かい何かを大事に抱えながら、二人は――。

    02:噛み跡に滲む血


     鏡を前にしてアバンが溜息を零す。
    「ポップ、これでは襟の空いた服を着られないじゃないですか」
     鏡台の前に座ったアバンの手は、首元の赤くなった跡を行き来している。
    「えー、いつもの詰襟の服でいいじゃなっすか」
    「私室にいる時はいいですよ、でもね、公式な場で着替える時は侍女が私の着替えを手伝うんですよ? それに……」
    「フローラ様とベッドを共に出来なくなる?」
     幼いと思っていた少年は青年へと成長し、半裸のままでベッドから降りてアバンの背後へと回り、薄い皮膚の上に滲む血を舐めとると、ひくりと体が震えた。
     白くすべらかな白磁の皮膚の下には良質な筋肉の束がある――だなんて、幾人の人が知っているのだろう。
    (フローラ様と、そして、今まで先生を抱いてきた全ての男達?)
     初めて抱き合った時、セックスが初めてではないことは当然と理解していたが、まさか、男同士のまぐわいで受け入れる側であったことがショックで、少々乱暴な扱いをしてしまったことをポップは思い出していた。
    「痛っ!」
     ポップはもう一度朱印へと歯を立て、アバンはその痛みで思わず声を上げる。
    「ポップ!?」
    「先生の同性での初めてはオレが良かった」
    「……私の初めての時、あなたは生まれてもいませんでしたよ」
    「どうして待ってくれなかったんですかっ」
     ポップの切実な声にアバンはくすくすと笑い、幼い子にやるように、首元に噛みつく弟子の頭をよしよしと撫でる。
    「無茶言わないで下さいな」
    「……でも」
    「私の初めては無理ですが、最後は貴方にあげますよ、ポップ」
    「今、欲しいんすけど」
    「今は無理です。私は国王としての責務を全うしなければいけない身ですし、それにね、フローラ様も私にとって大事な人なのですよ」
    「自分の奥さんに『様』とか付けて。他人行儀っぽい」
     アバンはかんらかんらと声高々に笑う。
    「長年の癖は早々には治りません。こればっかりは」
    「残酷な博愛主義者ですね、先生は」
    「自覚はしています」
    「正そうとはしないんですね」
    「――分かっていて、近づいたのではないんですか?」
     アバンは妖艶に笑い、近くにあるポップの唇へと吸い込まれたとでも言うようにキスをすると、いつものアバンへと戻って「これでおしまい」というように手を叩く。
    「さ、朝から不穏な空気を醸し出していないで、貴方も今日は仕事があるのでしょう? さあ、行った行った」
    「――いつか攫いますから」
    「私が義務を果たした時にね。さ、いってらっしゃい」
     不承不承ながらもポップはアバンの言葉に従い、床に散らばった服を集めると瞬間移動呪文で姿を消してしまう。
     朝の白い光が差し込む秘密の場所で、アバンは未だに痛みと熱をもつ首元を手の平で覆うと、深々と溜息を零した。
    「一体、どこまで我慢できるんでしょうかね、私は」
    03:絆創膏に隠れたキスマーク


     いつかは消えてしまう恋だと思っていた。
     透明な湖の底にある星のように、手に届くようで届かない、いや、求めてはいけないものだと思っていた。
    「すみません、先生」
     彼は事が終わる度に、私の体中に散らした花弁の数に眉を顰め、そうして頭を下げて私を求める。
     不安なのだと。
     また、失ってしまうのかと思うと不安で恐ろしくて、自分の手中へと納めて、身を捩って喘ぐ私を見つめていないと怖くて仕方がないのだと告白する。
    「おれの頭の中には常にあの日の光景が……ハドラーを抑え込みながら光に消えていく先生の姿がこびりついて、何も出来ず、目をそらすことも出来なかった悪夢が何度も蘇るんです」
     この悪夢が消える日まで、貴方はおれのものだと確信できるまで、胸の奥に刺さった氷のような澱は消え去って行かないんです。そう言って、彼はもう一度、私を求めるのだ。
    「……だめですよ、ポップ。もう出掛ける時間でしょ?」
     震えそうな声を叱咤しながら彼へと語り掛け、現実へと引き戻された彼は惜しいかのように私から離れる。
    「……はい、先生」
    「さあ、しゃっきっとしてくださいよ、私の大魔導士」
     そう言うと彼の表情は明るくなる。
     はい、と素直に頷いてベッドから降りると、床に散らばた服を拾い上げて身に着けるが、彼は首の後ろにある絆創膏には気付かない。それが彼の詰襟へと消えていくのを安堵しながらも寂しい気持ちに駆られながら、私は腕を伸ばして送り出すためのキスをすると、まるで、偶然とでも言うように首の後ろを手で優しく撫でつけていく。
    「いってらっしゃい、ポップ」
    「はい――アバン」
     首の後ろに刻まれた執着の印を身に着けて、ポップは部屋を出ていく。きっと、あの印は夕方には消えているだろう。
     その時、私の皆底にある星も消えてしまうのだろうか?
     やがてくる未来を求め、そして悲しみに沈み込みながら、私は彼が消えてしまった朝の光を振り返るのだ。
    04:手首を縛った跡


     後ろ手に両腕を縛られたまま吊るされ、アバンは闇の中で項垂れている。何度も力を込めてみたり、解呪の呪文を試したりしていたが、そもそも魔法自体が使えない。
     手首はおろか、全身をきつく縛っている縄には魔法力が宿っている。おそらく、魔術で縄自体に呪文を刻んで魔法封じと同じ作用が起きているのだろう。幾度も試した魔法が使えないのだ。
     闇の中は物音一つしない。自分の繰り返される呼吸が煩わしく思えるほどに。
    (彼に会えば……このバカげた状況も解決の糸口を見つけられるものを)
     アバンの脳裏には、この闇へと放り込まれる前の映像が鮮やかに蘇る。錚々たる魔族の中に一人だけ、人間である彼が冷たい笑みで自分を見返していた。
    (……ポップ!)
    「ご気分はいかがですか……って、よくはねーですよね」
     笑いを含みながら、軽い調子で響いた声は、確かにアバンが愛した弟子の声だった。
     声のする方向へと顔を上げて見れば細い光の元、ポップが黒いローブを纏って現われ、間もなく光も細く萎まり、消えていく。一瞬、元の真の闇へと戻ったが、壁にあるランタンへと炎が灯ると、互いの顔を確かめる程度には明るくなった。
    「ポップ、あなた!」
    「おーっと、説教はもう勘弁して下さいよ。聞き過ぎて夢の中でさえも説教が繰り返されるんすから」
    「いいえ、何度だって言いますよ。こんな姿が貴方本来の筈がない! あんなに……仲間想いで優しいあなたが」
    「何故、暴虐非道な魔王になったんですか、です?」
     言うとクスクスとポップは笑って指を鳴らすと、アバンの体はどさり、と床へと落ちる。そこへポップは歩み寄り、投げ出された腕をとると、両手の自由を奪っていた縄だけを呪文一つだけで外してしまう。
    「あーあ、こんなに赤くなって」
     ポップは愛おしげに、痛ましげに赤くなった手首の跡を指で撫でると、そこへとキスをする。
     かっとアバンの頬が朱に染まり、振り払うようにしてポップから身を引くと、両手の手の平をポップに向けるが、そこからは火炎も閃光も生まれはしない。
    「なにやってんすか。先生、縛られていたんすから、両手に力が入らないっしょ?」
    「手に力は入らなくとも、魔法なら」
    「あーダメダメ。呪文封じの縄は全身に施されているんすから、手首だけ取っても意味ないっすよ」
    「それでは、この縄、全てを解きなさい、ポップ!」
    「それも出来ねー相談っすよ」
     ポップは指を鳴らすと、何も無かった地面から蛭のような、ぬめぬめとした体液を纏った巨大な何かがせり上がり、アバンの体を絡めとっていく。
    「ポップ!」
    「大丈夫、傷つけるとかねーっすから。でも、そいつ、繊維とか大好きでね、粘液で溶かして喰らうんですよ。あ、ちなみに特殊加工を施した縄は溶けねーんで」
    「なっ!」
    「それでいて、オレのいう事は何でも聞くんすよ。例えば、露わになった肉に絡みつけとか、穴に潜り込めとか」
     くすくすと笑いながら、ポップは魔法で出現させた椅子へと腰掛けると、アバンの肌が触手の粘液で露わになっていくのを眺めている。
    「……私を辱めて何になります」
    「辱める? 違いますよ。オレは先生を愛したいんです」
    「愛する?」
    「気が付かなかったっすか? どんなにオレが先生を愛していたか。どれだけ、先生の存在を身の内に宿して戦っていたか。いつでも、どんな時でも、先生のことは忘れたことはなかった」
    「――ポップ」
     椅子に腰かけ、頭を垂らしたポップの顔は分らないが、声だけは今までの嘲笑うような色を含んでいないことがアバンには分かる。
    「先生……先生は世界の秘密を知っているのでしょう?」
     ポップの言葉にアバンの体が震えた。
    「やっぱり」
    「ポップ、それは」
     そうしてポップは体を起こすと、指の先に光を灯して空中へと放り出す。それは一つの星のように見えた。
    「何故、世界は人、竜、魔の三つで作られたのか。どうして人だけが地上に送られ、魔と竜は魔界へと封じられたのか。そして、どうして天界の神は例外を除いて人の世に関与しようとはしないのか」
    「天は」
     ポップの声にアバンが続く。
    「楽園――地上を作ると三人の神に与えました。そうして、密命を与えたのです」
     その後を重々しいポップの声が続く。
    「萌芽から始まる世界のサイクルを途絶えさすな、と。今、世界は魔と竜の王を失った。人だけの世界は凄くバランスが悪い」
    「だからって、あなたが……んっ!」
     ぬるぬるとした触手は、アバンの身に着けていたものを縄以外全て溶かして飲み込み、まだ、食べるものはないかと体中をまさぐっている。
    「オレ、結構、今の立場、気に入ってんすよ。面倒なしがらみも何もない」
     指を鳴らすと触手は先端からピンクの粘液を吐いて、アバンの口を抉じ開けて侵入する。途端、アバンの体は大きく震えて喘ぐ。
    「ただ、時々、寂しいなって思うんすよ……あ、その粘液、ちゃんと飲み下してくださいね。催淫剤の効果があるんで……先生だって、ただ痛いのは嫌でしょ?」
     嫌だ、飲み込みたくないと足掻いてみても、触手は容赦なくアバンの喉の奥へと入り込み、無理矢理の飲まされた粘液で大いにむせこんだ。
     ポップは椅子から立ち上がるとアバンの元へと歩み寄り、膝をついて指一本でかの人の顔を上げさせる。
    「いい顔。オレはもしかしたら、先生のこんな顔をずっと見たかったのかもしれませんね」
    「あなたは――ポップ。泣きそうな顔をしていますね。よく、ほら……課題が出来ないと拗ねては泣き、それでも諦めずに私の後をついてきたあの頃と――同じです」
     アバンの言葉にポップは顔を歪め、泣きそうな顔のままにアバンを押し倒して馬乗りになると、胸倉を掴んで屈みこんだ。
    「だったら! 助けて下さいよ! 先生! このどうしようもない世界の摂理から! たった一つの橋の掛け違いが起こした不幸を! 不肖の弟子の過ちを!」
    「――いいですよ」
     言うとアバンは、二段カールの髪型をぐちゃぐちゃに解いた。勿論、そうしたからと言って、普段から整えられている髪型は僅かに乱れるだけだが、それでも、髪型を解くことは、公的立場を捨てたと言外にアバンは言っているのだ。
    「不肖の弟子の不始末は私の責任です。一緒にいきましょう」
    「先生ぇ」
    「……情けないですねぇ。それでも魔王ですか。さっきまで凄く格好良かったのに」
     アバンの言葉にポップは勢いよく体を起こす。
    「本当っすか」
    「本当ですよ……私の魔王様。まずは契約をしましょうか」
    「契約?」
    「――キス、ですよ」
     言うとアバンは額を片手で覆い、深々と溜息を零す。
    「あなた、何てモンスターを使うんですか。飲み込んだ催淫剤の所為で体が熱くて熱くて仕方がないんです」
    「……本当っすね。こんなに熱くて硬い」
     触手の粘液で服を溶かされ、全てを曝け出していたアバンの股間の物を手で包むと、感心したようにポップが言う。
    「言わないで下さいよ。ムードがない人ですね」
    「そりゃ、先生に似た所為ですから」
     弟子の言葉に目を見張り、不敵に笑うポップと見つめ合い、次の瞬間、笑い合った。
    「本当に、いいんすか?」
    「不肖の弟子の責任は私が取るって言ったでしょ? これがわたし最後の務めです」
     二人は視線を絡め、やがてどちらともなく目蓋を閉じるとキスをする。触れた瞬間にアバンの口からは甘い声がこぼれ、それに触発されるようにポップはアバンへとむしゃぶりついて――。
     やがて、部屋の中は粘着質ないやらしい音とアバンの喘ぎ声が満ち、征服する喜びにポップは咆哮した。

    ――そうして、世界の黄昏の時間は近づいたのだ。


    05:傷跡を撫で、舐める

     製作中。

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    Replies from the creator

    natukimai

    DONE2023年4月8日WEBオンリー「先生はすげえんだから!」展示作品です。
    長い間、先生とポップの出会いはこうだったんじゃないかなぁと妄想していたものをようやく形にすることが出来ました。魔法のシステムは原作を踏襲してはおりますが、大分、独自の解釈が交じっております。
    あと物語を進めるための名前ありのモブキャラが出てまいりますが、あくまでの舞台設定上のキャラです。
    緑の軌跡緑の軌跡



    「すみません。もうついていけません」
     そう言って志半ばに去っていく背中を、幾度眺めた事か。
     彼は真面目な生徒だった。生真面目すぎるほどに修行に打ち込み、そして己の才能に限界を感じてアバンの元を去った。
     彼の志望は魔法使いで、魔法の成り立ちや、各魔法で使用する魔法力の値、禁忌などの座学は優秀だったが、実践ともなると危うさが散見した。
     理論だけで突き詰めるな、感覚で魔法を掴めと言っても、目に見えないものをどう掴むのかと詰め寄られる次第で、時折、昔の盟友である大魔導士に指導を頼もうかと思うこともあるが、一旦、引き受けた以上は自分が最後まで彼を導くのだと自分に言い聞かせた。
     これで彼自身が魔法力を持さない者ならば、戦士や武闘家の道を勧めるのだが、ある程度の基本的な呪文が契約が出来たことが、彼を余計に瀬戸際まで追い込んだ。
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    ムーンストーン

    DONEダイの大冒険 ハドアバで現パロですがほとんど現代らしい所がでてこない。
    ハドラーとの出会いから別れを手紙で回想するアバンです。
    二人は転生して若干容姿も変わり、名前も変わりましたが出会った瞬間に最速で結ばれた設定(生かされていない)
    アバンの前世の善行のお陰と、種族差だの性別だの年の差だの細けーこたあいいんだよ障害は無くしたから後は自分で頑張れと人間の神様がハドラーの最後の祈りをくんでくれました。
    逝き去りし貴男へ貴男へ

    貴男に手紙を書くのは初めてですね。
    あの頃は手紙を書くのも届けるのも一苦労。
    便箋なんて中々売っていないし、書けたとしても送る手段が限られ相手のいる近くに行く用がある、信頼できる商人や旅人に託すしかない。
    その上長旅の途中で紛失したり商売の都合で渡すタイミングが遅れたり、返事は期待しない方が精神衛生上良い位。

    手紙に花言葉のような惹句をつけるとすれば「不確実」でしょうか。
    それでも人は手紙を書くのです。
    相手の為より自分の為に。

    そもそも貴男の場合長い間宛先、というか住処が分からなかったですし。
    私も修業の為に世界中を旅していましたからもし貴男が私に手紙を書いたとしても届けようが無かったと思えば…あぁ貴男は鏡にメッセージを書けましたね。
    2222