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    natukimai

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    natukimai

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    誇りの一番弟子さん展示品!
    ヒュンケルとアバンでお墓参りです!二人でいちゃこらして「お父さん、これがオレの嫁です!」的な

    #ヒュンアバ
    hyunAba

    晴れたらいいね 荒涼とした大地。遠くでは雷の音が耐えなかった。
     自分は名もない、体も影すらもない存在のまま、しかし、ここに在るという意識のままに「それ」は空中を漂っていた。
    「お前、意識があるのか!?」
     突然に声を掛けられ、風任せとはいえ、ある程度は自分で制御出来ていた動きが止まる。
    「あるんだろ? 意識。なるほどーこれが――種、か」
     その声は近付いてきて、ないのかあるのか分からない自分の体を触ろうとし、しかし、文字通り霧散してしまうことに不満を述べた。
    「目、開けろよ」
     目? それは何だろう。
    「目だよ、目。魔力が足りないなら、ボクの力を分けてあげるから」
     途端、自分の核へと流れ込んでくる強大な魔力。〈目〉を開けるどころか、自分が消し飛んでしまう。私は咄嗟に根を張り、その場に留まると面白おかし気な声が届いて「腹ただしくなる」……そうか、これが怒りの感情か。
     そして、自分の中に新たな何かがあるのが分かる。その違和感のある部分へと意識を向けて、相手の言う目を開ける行為と言うものをやってみると、微かな光が自分の中へと差し込むのが分かった。
    「どうだ? どんな感じだ?」
     〈視界〉の中にあるのは銀髪の長い髪を持った子供。腕を組んで満足そうに鼻を鳴らしながら自分を見下ろした。
    「へんな、かんじだ」
    「どう変なんだ?」
    「……わたしが私であるという事実にだ」
    「変な奴。我が我である事など何の不思議でもないわ」
    「私はいらぬ者だ。そして、お前もいらぬ者だ。所詮、消えゆくものなら、何故『ある』ことに意味がある」
     目の前の子供は私の言葉に首を傾げて、口を不満そうに結んで、その場にあぐらをかいて座り込んだ。
    「意味なら、ある。『余』は恐怖だ。畏怖される存在であり、恐怖を刈り取っていく者」
    「それこそ、いらないものでは?」
    「いや、いるのだ。この世の摂理、余という存在は必要だ」
     自分は恐怖なのだと、力と影との象徴なのだと口にするのが本当ならば、この子供が放つ光は何なのだろう? 妬み嫉みの黒々としたエネルギーの私とは完全に異質の……。
    「余の覇道を見てみたくはないか?」
     自分の伝説を紡ぐには語り部が必要なのだ。お前が余の傍らに立ち、語り部となれ、と自信満々に胸を張る子供――その日から私には『名前』が与えられ、主人たるバーン様の御傍付となったのだ。

     明るい日差しが差しこむ。小鳥の軽やか鳴き声が木霊し、涼し気な空気の中で目覚める。
     腕の中には愛しい人。
     青みがかった銀髪へ指を差し込み、少しもてあそんでから旋毛へとキスをして、その体を抱きしめた。
     何もかも幸せしかない世界に、一つだけ迷い込んだ影。何故、今頃になってミストバーンの……それも自分が知らない、ミストの生まれた頃の記憶を夢に見るのか。
    「……難しい顔をしている」
     腕の中でアバンが身じろぎ、オレの顔を見上げて微笑むと、自分から背伸びをしてキスを交わした。小鳥が啄むようにキスをして、次に深く、しかし肉欲を呼び覚ますようなキスではなく、互いに情感を高めるためのキス。そうして唇は離れると視線を絡めながら「おはよう」と言う。
    「私では力になりませんか?」
    「いや、先生でなければ無理だろう」
     オレは今朝見たばかりの夢の内容を話すと、腕の中のアバンは神妙な顔つきとなる。
    「キミの中にある筈のない夢、ですか」
    「ああ、オレが思うに、これはオレの中へと入り込んだミストバーンの欠片が残っていた証拠だろう」
     大魔王バーンとの最終決戦。オレの精神へと潜り込んだミストバーンは、オレが心の中でため込んでいた光の闘気で滅んだ筈だったが、完全に滅してはいなかったのだろう。その事を包み隠さずに口にすると、アバンはオレの腕の中で神妙な顔つきとなり、その手をオレの胸へと当てる。
    「確かに……でも、今のところ、悪さはしないようですが」
    「これから、なのかもしれない。オレの中でミストの記憶が大きくなり、その思考がやがてオレを支配する」
     そうなる前に、オレは……。しかし全てを口にする前にアバンの手が伸びてオレの頬を包み込むようにすると、軽くキスをされた。
    「そう考えるのは早計ですよ。今日だけの話かもしれない」
    「明日も続くかもしれない。オレが不安なのはアバン、オレの中で奴の記憶が増え続けた結果、オレの心は奴に支配され、貴方を――回りの誰かを傷つけるかもしれないことだ」
     アバンの言葉に反論するように返すと、視界の中でアバンは厳しい表情へと変容する。
    「そうなれば、私が貴方を倒しますよ、ヒュンケル」
    「アバン」
    「でも、繰り返しになりますが、そう考えるのは、まだ早いです。もう少し、様子を見ましょう。そして、少しでも貴方が周りの誰かを傷つけようとする場面が訪れたなら、私が貴方の息の根を止めましょう」
     その言葉の奥、綴られなかった想い――そして、貴方が倒れたのを確認して後、私も命を絶ちましょう。という覚悟を嗅ぎ取って、オレはアバンを抱きしめた。

     アバンの覚悟を聞いて、オレは日々を過ごしていたが、ミストの感情は夢の中だけで限局されていて、ついぞ表には出てこない。
     このまま、記憶の再現を繰り返すだけで終わるのか、オレは、日々、不安を抱えて過ごす。アバンの存在だけがオレの日々生きていく上での支えだった。


    「……太陽、ですか?」
     暗く閉じられた世界。魔界の全ての知識が集められているという図書館で、バーン様はうず高く積み上がった本の間で寝転びながら手をかざす。
    「熱くまばゆい光を放つ存在だ。余はあれが欲しい」
     図書館の天井には、世界の全て――木の上に球状の三つの世界があり、その周りを巡る太陽と月とが描かれていた。
    「そう言って、炎を集めて球状に天へと放り投げていたではありませんか」
    「あれはいずれ消える。束の間の太陽だ。気に食わん。オレが欲しいのはまがい物の太陽ではないのだ」
     少しだけ背の伸びた少年は体を起こすと、キラキラとした目で私を見返す。
     光も闇も、暖かさも苦しさも、全て人間に用意されたもので、自分達には何もない。その不平等さにバーン様は心の中から怒り、その実、裏に潜んだ事実――私たちは人を生かすための道具でしかない事に腹を立てていた。
     同じ魂である筈なのに、何故、魔族には地上の豊かさを分け与えないのか、暗闇に生まれ、闘争心がなければ生きていけない世界で、妬みを持つなと言う方が難しいだろう、と。
    「だから余は天への反乱を決心するのだ。まずはこの魔界を覆っている忌々しい地上を吹き飛ばし、太陽を手に入れて天界をも滅ぼすのだ」
    「――そのようなこと、口に出すのは」
    「お前だから話すのだ、ミスト」
     銀髪の少年の瞳はギラギラと輝き、まるで太陽の様だと私は思う。私を照らす暖かな太陽。貴方がいれば、天にある星など欲しくはない。
    「ついてこい、ミスト。そして、世界全てを手に入れよう」


    「ピクニックに行きましょう、ヒュンケル。まずは魔界の入り口を案内してくれませんか?」
     ピクニックに行くのはいい。これまでも何回となく弁当を持っては出掛けたものだ。だが、行き先が不穏過ぎる。思わず固まった頬をアバンは摘んで、ぐっと横に引っ張られると多少なりとも痛んだ。
    「大丈夫ですよ、ヒュンケル。魔界の入り口までです。それ以上は入りませんから」
     魔界の入り口は南の――死の大地にあるが、そこは秘密裏にされ、知っている者はオレのように魔界に出入りした事がある者か、そこへ強力な結界を張ったレオナ姫だけが知る場所だった。
    「行ってどうする」
    「ちょっとご挨拶にね」
     そう言うとアバンは懐から『キメラの翼』を取り出し、オレに渡す。どうやら、これで移動しろという事らしい。
    「何故……行かなければならないのか?」
     自分の中にいるだろうミストバーンの気配が色濃くなっている以上、魔界の入り口に立つ事は危険なような気がしてならないが、目の前のアバンはにっかりと笑うと「今だからです」と強い言葉を使った。
     もう、何も言うまい。
     オレがおかしくなった時は、共に死のうと言ってくれたのだ。今日のこの日がオレの命日になっても構わないだろう。
     アバンから『キメラの翼』を受け取り、頭の中で死の大地のイメージを膨らます。
     草木も生えない、不毛の大地。空は異様に高く、地面から立ち上る冷気に身を凍らせる。さらに魔界の入り口ともなれば、強力な結界を敷いたにも関わらず、少し漏れ出る瘴気に怖気が出る。
    「だが、キメラの翼は一人用だ。先生は」
    「貴方の体に触れて魔法が発動したと同時にリリルーラを唱えますから、大丈夫です」
     何もかも規格外なアバンに諦めに似た笑いが漏れる。本当に、この人は何でもありだな、と思いながら、キメラの翼に付いた宝石を強く指で押し込んで、移動しろと念じる。
     途端、浮遊感が体を包んで強い白い光が視界を覆う。
     気が付いた時には見覚えのある大地へと辿り着いたが、以前とは変わってしまった風景――草も生えないような土地に真っ赤な花が群棲している事に目を剥いた。
    「これは」
    「魔界の入り口から吐かれた瘴気が途絶えたから、でしょうね」
    「それにしても……凄いな。まるで深紅の絨毯だ」
     すっと伸びた茎の先に三つほどの花が付いていて、細く内側へと捲いた細い花弁は赤く、太陽の輝く穂先のようだった。
    「……その花には触れないで。毒がありますから」
     アバンの注意を促す言葉に、魔界の入口へと通じる大地に相応しい花だという感想がこぼれたが、それを口にする前に胸の中を激しい痛みが襲った。
     ばくばくと五月蠅く鼓動する心臓に、まるで握り潰されそうな痛みに膝を付く。
    「ヒュンケル」
     アバンの労るような、静かに耐えるように促す声に息が乱れないように心静めながら待っていると、胸を抑えた手の平を押し上げるような圧迫感があり、それはやがて溢れて、黒い霧となって手の平から地面へと吹き出した。
    「これは」
    「静かに。黙って見守っていましょう」
     アバンの言葉通り、黒い霧は地面へと流れるとこぶし大の大きさになり、伸びたり縮んだりを繰り返して、やがて魔界の入り口――暗い洞窟の中へと吸い込まれていった。
     もう、その頃には胸の痛みはなく、立ち上がって黒い霧が消えていった先を見つめていると、いつの間にか白い薔薇を抱えたアバンが洞窟へと歩を進めていった。
    「今日が何の日か、知っていますか?」
     まるで教壇に立つ教師のように言う。
    「太陽が真東から上がり、真西へと沈む日ですよ。この日は死者の国と生者の国とが近くなると言われています。私ね、是非、彼にお礼を言いたくてここに来たんですよ」
     そうして、アバンは洞窟の闇へと話し掛ける。
    「だから、今日、貴方の欠片と共にここに来ました。あの日はキミが彼に助けられたなんて知らなくて……いや、例え知っていても貴方と私達は敵同士でしたから難しかったもしれませんが」
     洞窟の中からごうっと強い風が吹く。まるで怒りを撒き散らすように。
    「ヒュンケルを救ってくれてありがとうございます。例え、貴方の意向が別の場所にあったとしても、ヒュンケルの命を救ってくれた事には変わりありません」
     まるで祈るように、目を閉じて祈るかのようにして立つアバンの隣にオレも立つ。
    「……先生も聞いていたでしょう? ミストバーンは自分の体のスペアとしてオレを育てていたんです」
    「それでも、貴方の命を救ってくれたことに変わりはないでしょう? 貴方にだって彼への想いがまったくなかったことはないのですから」
     アバンの言葉に胸を抉られる。
     確かに思う所がなかったと言えば嘘だ。でなければ、道具だと言われた時にあれ程傷ついたりはしないし、彼はオレを選ぶだろうという確信もなかった。細い、今にも切れそうな線だったが、確かにオレと彼とを結ぶ糸はあったのだ。
    「この花が貴方の慰めになるか分からないのですが、今、私に出来る最大限の感謝の気持ちです」
     放り投げられた白の花束は、まるで闇に吸われるかのように消えていき、代わりにごうごうと洞窟から吹いていた風はぱたりと止む。
    「アバン」
    「はい?」
    「こういうことをするなら、前もって言葉にしてくれ」
     オレは一つ深い溜息を吐いて、言葉を繋げた。
    「オレだって、思う所がないわけじゃないんだ」
    「はい、すみません。今回は貴方の中のミストバーンがどう動くか分からなかったので黙ってきちゃいましたけど。次は二人で話し合って、持ってくるものを決めて来ましょう」
     その言葉にオレははっとする。もし、俺の中のミストバーンが何か悪しき方向に動いた場合、アバンはオレもろとも滅するつもりだったのだろう。それは同時にアバン――自分自身の死をも意味していたのだ。
    「……悪のモンスターでも魂は存在するのだろうか、そして、その魂の行く先は人と同じ場所なんだろうか」
    「モンスターでも魂はありますよ。その証拠に、貴方が話してくれたバルトスさんの遺言、魂の貝殻はまさに、その存在自体がなければ発動しないアイテムなのですから。それにね、バルトスさんならきっと楽園にいるに決まってます。だって、こんなに立派な息子さんがいらっしゃるんですもの」
     アバンの手がオレの背を叩く。それは暖かく心を包み込むものだった。
    「ヒュンケルは二人のお父さんに育てられたんですね。一人は勇敢で気高い意思を持つバルトスさん、そして、もう一人は冷静で何事にも動じず、そして立派な人には賛辞を惜しまない公平なミストバーンさんに」
    「……先生は?」
    「私? 私はほら、家庭教師ですから」
     カンラカンラとアバンは胸を張って笑い立てたが、黙って見つめている内に黙り込み、その頬は真っ赤になった。
    「……だって、私まで『お父さん』なんて言ったら、罪の意識半端ないじゃないですか、その……先生と生徒だって相当に倒錯めいてるのに」
    「そうだな、オレも『父さん』を抱こうとは思わないな」
    「だから!」
     何かを言い立てようとするアバンを引き寄せ、唇を重ねた。
     最初、抵抗あった体をきつく抱き寄せてキスを深くすれば、くたりと柔らかくなって腕の中へと納まった。
    「だから、急にキスするの止めません? 油断も隙もあったものじゃない」
    「そう言いながら、オレの腕の中で恍惚に至る先生が好きなので」
     笑いながらアバンを抱きしめていると、ごうと洞窟の中で風が渦巻く音が微かに届く。おそらく、あれはオレしか届かない音だろう。
     オレはこの通り、幸せですと、闇の中にいるだろう大事な存在へと思念を送り、二人の父の記憶を辿る。
    「また、ここへ来ような、アバン」

     次の訪れた時、きっと、ここは今よりも緑が多くなっているだろう。
     それは予感ではなく、確信だった。



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    natukimai

    DONE2023年4月8日WEBオンリー「先生はすげえんだから!」展示作品です。
    長い間、先生とポップの出会いはこうだったんじゃないかなぁと妄想していたものをようやく形にすることが出来ました。魔法のシステムは原作を踏襲してはおりますが、大分、独自の解釈が交じっております。
    あと物語を進めるための名前ありのモブキャラが出てまいりますが、あくまでの舞台設定上のキャラです。
    緑の軌跡緑の軌跡



    「すみません。もうついていけません」
     そう言って志半ばに去っていく背中を、幾度眺めた事か。
     彼は真面目な生徒だった。生真面目すぎるほどに修行に打ち込み、そして己の才能に限界を感じてアバンの元を去った。
     彼の志望は魔法使いで、魔法の成り立ちや、各魔法で使用する魔法力の値、禁忌などの座学は優秀だったが、実践ともなると危うさが散見した。
     理論だけで突き詰めるな、感覚で魔法を掴めと言っても、目に見えないものをどう掴むのかと詰め寄られる次第で、時折、昔の盟友である大魔導士に指導を頼もうかと思うこともあるが、一旦、引き受けた以上は自分が最後まで彼を導くのだと自分に言い聞かせた。
     これで彼自身が魔法力を持さない者ならば、戦士や武闘家の道を勧めるのだが、ある程度の基本的な呪文が契約が出来たことが、彼を余計に瀬戸際まで追い込んだ。
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