2、額をこつん ダイ×アバン「先生、弱くなったね」
「そう言うキミは丈夫ですね」
「そりゃ、竜魔人の血を引いてるから」
年の初め。年内中に終わらせなければならない仕事が立て続いたからか、年が明けた途端、アバンは風邪をひいて寝込んでしまった。
熱でぼうっとする視界の中、ダイは甲斐甲斐しくアバンの看病をする。少しでも食欲があるなら食べた方がいい、とお粥を作ってみたり、のどの痛みにいいという薬草を取りに行ったり、汗をかいたなら着替えをするといい、と言って、体を拭くのを手伝ってくれたり、それはもう至れり尽せりだった。
ふと、気が付けば窓の外は雨で、大粒の水滴がガラスを叩いていた。室内は乾燥しないようにと暖炉にはケトルが置かれ、ベッドサイドのテーブルにはアロマポットが、暖かな火の明かりと甘やかで清々しい花の香りを醸し出している。
傍らには可愛い弟子が、分厚い本のページをめくりながらアバンの様子を窺っていた。
太い眉毛の下には意志の強い光を湛えた瞳。大人と子供の中間にいる姿は何処か危なげで、しかし、あらゆる可能性を秘めたオーラを感じる。男臭さも増してはいたが、それでも、何処か可愛らしさを感じるのは、母親譲りの愛嬌からか。
「先生?」
余りにも見つめ過ぎていたことがバレたのか、と恥ずかしさから布団で己の顔半分を隠したアバンだが、一方のダイは咎める事も揶揄う事もなく近づくと、手で自分の前髪を上げると、こつん、とアバンの額へと額を合わせる。
「熱、下がりましたね」
悪びれなく、至近距離で笑う元弟子に、アバンは顔を真っ赤にして「何をするんですか」と問い質す。
「え、なにって熱を測っただけだよ」
「でも、額と額をこつん、って! キミの顔がこんなに近くって!」
「だって、ブラスじいちゃんは、こうして計るよ?」
瞬間、アバンの脳裏には全身が顔面の鬼面道士の姿が浮かんで、「あーなるほど」と納得してしまった。