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    つよし

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    つよし

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    マレレオ(冒頭ちょっとモブレオ要素あります) おめでとうマ🎂🥲

    #マレレオ
    maleLeo

    片目に傷を負った時、一時的に視力が低下して殆ど何も視えなくなった。そのうち回復すると言われたので周囲も俺自身も特に気にしていなかったが、時折酷い頭痛を伴って傷が疼き出す事があった。
    その日も突然の酷い痛みに襲われて、城の廊下に蹲って痛みが引くのを耐え忍んでいると「大丈夫ですか?」と、背後から声がかかった。若い男の声だった。
    「医務室にまで連れて行きます」そう言われ、半ば無理やり手を引かれた。薄ぼんやりとした視界で男の背中を見る。使用人に、こんな服装の者が居ただろうか?手を引かれているうちにだんだんと違和感は増していく。城に仕える者にしては薄汚れた上着。握られた手の爪には黒い汚れのようなものがこびりついている。そんな事を考えていると長い廊下の突き当たりにまで来ていた。男は少し迷う素振りを見せた後、俺の手を引いて医務室とは全く違う方向に進み出した。


    「お前、誰だ?」


    男は何も答えない。そこで痛む目を見開いて、改めて男の横顔を見た。この国の人間にしては薄い顔立ちに、不釣り合いなほどギョロリと突出した眼球が俺を凝視している。─こいつは危険だ。本能的にそう悟って手を振り払い逃げようとすると、覆い被さるように背後から抱きしめられた。そのまま近くの部屋に転がり込まれ、男の鼻先が首筋に埋まる。荒々しい息が肌に当たると、一瞬でゾワッと肌が粟立って、恐怖に全身がすくみ上った。


    「怖いことしないから。お願い。静かにして。ね、ね!」
    「うっ…!」


    男は工業油のような匂いがした。
    脂でペトリとべたついた額が顔に擦り付けられると、こみ上げてきた嫌悪感が爆発して男の腹を必死に蹴り上げた。暴れる脚を押さえつけられて乗り上げられる。なにか硬いものが膝に当たった。気持ちが悪い!そう叫び出したいのに、喉に何か大きなものが詰まったかのように声が出ない。誰か。誰か。床を必死に爪で掻き、偶然指先に当たったものを引っ掴んで壁に向かって思い切り叩きつけた。投げたものは傘がガラスで出来ているスタンドランプだった。大きな破裂音と共に、ガラス片が辺りに虹色の光を放ちながら散らばって行く。


    「…いやっ!!!誰か!誰か来て!!!」


    ガラス片が床に全て落ち切るよりも早く、扉の外から甲高い女の声が聞こえた。その声を聞いた男は小さく舌打ちをして瞬時に俺を突き飛ばし、ものすごい速さで扉の外に駆け出していった。
    暫くすると数人の近侍と共に兄貴が物々しい音を立てながら部屋に入ってきて「一体何があったんだ!」と、俺の肩を力強く掴んで揺さぶった。大きな声と逞しい腕の力に身体が反射的にビクリと震えると、それを合図にしたようにカタカタと全身が震え出して止まらなくなった。どうして怒られているのか、分からなかった。その日から、何となく人に触れられるのが苦手になった。
    ただ、それだけの話だ。





    冷たいものに頬を撫でられて、静かな眠りから目を覚ます。


    「ん…」
    「すまない。起こしたか」
    「…お誕生日会とやらは終わったのか?」
    「ああ、日付けが変わる前にお前の顔が見たかった」


    頬に添えられた指が輪郭をひと撫でして離れていこうとしたので、「もっと撫でろ」というように首を傾けて頬を擦り付ける。「ふ」と小さな鼻息が頭上から聞こえて、掌が俺のつむじの上に乗せられた。子供を眠らせるように髪と耳を柔らかく撫でられると、心地良さにまた深い眠りに落ちていきそうになり、重い瞼を懸命にしばたたかせる。─ふと、甘い匂いが鼻先を掠めた。バター、ミルク、たくさんの砂糖を混ぜ返した甘ったるいクリームの匂いだ。そう分かると自然と「ケーキか?」と唇を動かしていた。


    「あぁ、分かるか?」
    「嫌いなんじゃなかったか?」
    「別に、ケーキそのものが嫌いなわけじゃない」
    「へぇ」


    眠気からどうしても適当な返事になってしまっているが、マレウスは気にしていないようだ。筋張った指が俺の耳をさわり出す。指先と毛がしゅりしゅりと擦れる音が鼓膜を静かに震わせると、くすぐったくて小さく首を振った。「僕はお前に嫌われていると思っていた」突然降ってきた脈絡のない言葉に、眠気から揺り起こされたように顔を上げる。


    「…いつの話だ?」
    「今ではない事は確かだな」
    「ふん」
     

    小さく鼻を鳴らして笑ってみせたが、マレウスが俺と初めて会った日の事を言っているんだとは分かっていた。
    あの日、いつも通り植物園で昼寝をしていると何かが俺の頬に触れた。人の気配だと本能的に感じ取り、咄嗟に身を起こすとそこにマレウスが居た。髪に這っていた小さな虫を指先で掬い上げようと手を伸ばしただけ。ふれるつもりはなかった。マレウスは唸りを上げて不快感を露にする俺に、酷薄そうな顔でそう言った。
    あれからどうにも、マレウスには顔を突き合わせるたびに意識的に剣のある態度を取ってしまっていた。不用意にふれられそうになって、一瞬でも怯えた表情や態度を見せてしまったんじゃないかと思うと気が気じゃなかったからだ。
    それが今は、夜中にこうしてお互いの部屋を訪ね合う関係になっている。同じ空間に居て会話を交わさなくても苦じゃないことに互いが気がつくと、今度は身体を重ねるようにまでなった。


    「ふれられるのが嫌いか?」


    初めて肌を合わせたときに、そう聞かれた。人にふれられる事が苦手だと、誰かに話した事は一切ない。それなりにうまく隠せていると思っていた。マレウスと親しくなってからもそれは変わらずだと自分で思っていたのだが、まさか植物園でのあれだけの短いやり取りの中で見抜かれていたのかと思うと、自分自身の未熟さに嫌気が差した。
    その後はいちいち「これは嫌か」「これは嫌じゃないか」と反応を窺いながら肌を撫でてくるので、鬱陶しくて仕方がなかったが、それがこいつなりの気遣いなんだと思うとどうにも伸ばされた手を払いのける事が出来なくなっていた。遊びのつもりで寝たことが、なんとなく俺たちの関係性に意味を持たせたようでこそばゆい気持ちになったのを覚えている。


    俺の頬にキスしようとマレウスが身体を倒してくると、ピクリと身体が小さく反応した。誰かにふれられそうになると条件反射的に身体が強張るのは、あの日男に襲われてからの忌々しい俺の癖だった。


    「まだふれられるのが怖いか?」


    どこかで聞いたような台詞だなと思いながら、ゆっくりと顎を持ち上げてまじまじとマレウスを見る。いつもと違う白いジャケットに、黒いシャツ。肩にかけられたタスキには間抜けなほど大きな文字でBirthday Boyと書かれている。馬鹿馬鹿しい格好だが、意外にも似合っているなと思うと唇から小さな笑いが漏れた。


    「ハ、どう思う?」
    「僕にふれられるのは嫌じゃないと見ている」
    「ならそれでいい」


    得意げに笑みを向けてきたマレウスに愛想なく返す。問いかけてきた本人も、もう答えなんて分かりきっているはずだ。マレウスの肌はいつ触れても冷やりとしていて陶器のようだ。何より、美しい指が自分の肌を伝っていくのを眺めていると、なにか神聖なものに身体を清められているような気分にすらなった。嫌どころか、最近はもっとふれてほしいと思う。流石に口には出せないが、会うごとに柔化していく俺の態度にマレウスもなんとなくそれを察していると思っていた。


    「望むなら、もっとふれてやろうか?」
    「今から?さすがに勘弁しろよ」
    「…僕は今日、誕生日なんだが」
    「残念だったな。もう日付けは変わってる」


    「む」と顔を膨らませたマレウスに対して、意地悪げに時計の方向に目線をやった。たまに子供のような我儘を言い出して、ぶすっと口をへの字に結ぶこの男の扱いにも、もうずいぶん慣れたものだ。


    「ならいい。眠りを邪魔して悪かったな」
    「待てよマレウス、こっちに来い」


    不機嫌さを露わにしたまま腰を上げた大きな子供の腕を引く。ベッドの隅に尻を突いたマレウスに、俺が包まっていたシーツを広げてバサリと上から覆い被せた。シーツ一枚隔てただけなのに、そこだけが部屋から切り取られたように静かになる。暗闇のなか夜目を光らせると、マレウスの瞳の虹彩までもが鋭く輝いて見えた。


    「しかたねぇな。誕生日のお前に免じて、優しい俺が一つだけお願いを叶えてやるよ」
    「一つ?ずいぶん少ないな」
    「どうせいつもと同じようなお願いなんだろ?」
    「さぁな、わからないぞ」


    軽口を叩きながら腹筋にふれる手が肌を撫で上げるとやはり心地が良くて、まつ毛を震わせながら身体を後ろに倒した。口づけは甘ったるいバタークリームの味がして、好みじゃないなと思ったが(誕生日だから、皮肉を言うのはここらでやめておいてやるか)と、唾ごとそれを飲み下した。
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