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    HQ_kazu613

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    HQ_kazu613

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    実況者五×ブレイクダンサー悠
    5月の新刊予定。
    すごく途中までです。

    出会いはシンプル、故に運命 部長の机に辞表を叩きつけたのは、入社してもうすぐ二年が経つタイミングだった。

     親友である夏油傑は、俺がとある会社に勤めると知ると目を丸くした後に腹を抱えて大笑いをした。涙が出るほど笑い転げたその男は、それぐらい俺が社会と言うものに馴染むことが出来ないと予想していたのだろう。俺だって自分の性格上誰かの下につくよりも上に立つ方が性に合っているとは思う。だが、一度だけでも社会のしがらみというものを経験するのも悪くないと思い結構本気で就活にも臨んだ。おかげで、誰もが一度は目にしたことのある大企業に内定を貰うことが出来た。
    「最長で二年、最短で一ヶ月」
    「なんだよそれ」
     傑と硝子が二人でいやもうちょい長い、短いと話をしている。二人とも酒が入っているおかげなのか、いつもよりテンションが高い。
    「決まっているだろ、五条がどれぐらいで会社を辞めるかの賭け」
    「賭け?」
    「私は悟のことを信じているからね。最短で半年、最長で三年にしようかな」
    「いい線いってるな」
    「だろ」
    「おいお前ら……」
     そんなに俺が会社と言うものに馴染めないと思っているのか。悔しい。こうなったらこの賭けが成立しないぐらい勤めてやる。
     そう意気込みながら入社式では代表で挨拶もし、研修期間も問題なく過ごし配属された営業部。その名の通り、外回りが中心の仕事だがまぁまぁ自分に合っていた。その顔で仕事取ってこいと言ってくる先輩もいたが、その通り取引先が女性だった場合好条件での契約を得られ部長には褒められ先輩には煙たがられた。露骨ないじめみたいな、そんなものは無かったが新人に割り当てるにはあり得ない量の仕事を振られ、先輩たちは先に帰るなんて日常茶飯事。サービス残業なんて俺の辞書の中には無いので、きっちり定時内か規定内の残業で終わらせるとまた部長には褒められ、先輩には妬まれる。結構優秀な人が集まっているはずなのに、やっていることが子どものようでやっぱり会社勤めなんてするんじゃなかったと思った要因の一つはこれ。
     もう一つは、酒絡み。元々飲めないと言っているにも関わらず、これも仕事だと接待に付き合わされ飲まされそうになったのを何度回避したか。俺が勧めた酒が、と部長は毎回言うけれどこればかりは体質なので勘弁してほしい。ひたすら烏龍茶とソフトドリンクでテンションを合わし、酔っ払った人は最後にタクシーに押し込むまでが仕事。いや、ほんとマジで俺何しているんだろうと思うことは多々あった。仕事にやりがいはあるが、頭はいいくせに後輩イビリする先輩も、酒の席で絶対になんで飲まないんだと怒鳴ってくる部長も。全員殴りたくなったが思い留まるようになっただけ、俺は大人になったと思う。傑が聞けば、絶対涙を流すはずだ。
     ただ賭けの対象となっているから、それだけには負けたくなくて仕事を続けた。続ける理由なんて、それぐらいしか無かった。俺が絶対にこの賭けに勝つ。一年が過ぎ、後輩も出来て次は自分が教える立場になり、先輩からのイビリも俺がほとんど無反応なのが気に食わなかったのか対象が変わった。飽きっぽい奴らだなと内心馬鹿にしながら、でもこの調子ならあと二年は居られる。つまり俺の勝ちになると思っていた。確かに思っていたんだ、あの日まで。
     その日は、部長に接待だと言われいつもよりランクが上の店に連れてこられた。料亭に着くと個室に案内され、数分後に現れた二人を見てハメられたと察した。副社長、と部長が呼び席を勧めその後ろから髪の長い女性も入ってくる。ぶっちゃけ役員の顔なんて覚えているはずもなく、その人が副社長だとも初めて知った。女性は副社長の娘らしく、頬を赤ながら会釈してきたので仕方なく返す。見合いの席なんて、俺は一ミリも聞いていないのに話は確実にそちらに向かっている。勘弁しろよと心の声が聞こえないように笑顔で隠し、運ばれてきた烏龍茶に口をつけたところで、俺の世界はぐるっと百八十度回転した。
     目が覚めると、そこはホテルの一室。上着は脱がされネクタイも解かれた状態で、ベッドの上で寝かされていた。ズキズキと痛む頭を抱え、起き上がる。窓の近くにあるソファには女性物のバッグと服、下着まで脱ぎ捨てられている。あんな大人しそうな顔していたくせに、ただのビッチかよ。その女は今はシャワーを浴びているらしい、水音が聞こえる。こんなところ、留まる意味がない。ネクタイと上着、鞄を手にし重たい体を引き摺りながらホテルを出た。
     翌日、カンカンに怒った部長の怒鳴り声と罵声に、俺の中の何かがブチっと切れた。もしかするとギリギリで保ってたのかもしれないその糸は、もう修復不可能。ここに居る意味もなければこの上の奴のご機嫌取りしか出来ない、無能な部長の元に居る意味なんて何も残っていない。賭けも、俺の負けでいい。やっぱり俺には全く向いていなかった。
     翌日、遅刻ギリギリで出社した俺は自分のデスクに向かうより先に部長の元を訪れた。そして鞄の中から取り出した辞表を、勢いよく部長のデスクに叩きつける。
    「お世話になりました」
     笑顔の裏に怒りを込めてフロアに響く大声でそう言ってやると、たぬきのような顔をした部長の目には恐怖が浮かんでいて、ちょっとだけ仕返し出来たとスッキリした。



    「と言うことで、辞めた」
     会社を出てすぐ、親友に電話をかける。すぐに出た傑にことの経緯を全て説明しながら、駅に向かう。明日から満員電車に乗らなくていいと思うと、清々しい気分だ。
    『いや、よく暴力沙汰にならずに済んだね。大人になったんだな』
    「なんだよその言い方。俺は平和主義だって」
    『冗談言うな。拳で解らせてやるスタイルだろ』
    「いつの話してんだよ」
    『つい最近までの君の話だよ』
     どこが最近だ、暴力で解決は高校で卒業した。あいつ、実は俺よりも年上なんじゃないのかと時々思う。
    「お前らの賭けに負けたのは悔しいけど、やっぱ無理だったわ」
    『それでもそこまで続いたことに驚いているよ』
    「それは俺も」
     途中で辞めるタイミングなんて数えきれないほどあった。しかしどれも決め手に欠けていて、賭けに負ける方が嫌だと感じた。今回のは、もういいや俺の負けでいいと思えた。だから、あっさり辞める気になれた。
    『次の仕事は決めているのかい?』
    「ぜーんぜん。なんか仕事ない?」
     傑は小さなWEB関係の会社を学生の頃に立ち上げ、今もその仕事を続けている。他に人を雇っているかは知らないが、何か仕事を貰えたらラッキーだなとそんな軽い気持ちで聞いてみた。無いと言われたら俺も何か自分で事業でも立ち上げるかという、そんな軽い気持ち。
    『あるにはあるよ』
     予想外の答えに、足が止まる。
    『ただ君は初心者だからね。それなりに勉強してもらう必要はあるけれど』
    「具体的にはどれぐらい?」
    『悟なら、二週間で物にするよ』
    「乗った」
     別にもう何もすることがないのだから、二週間ぐらいの勉強で済むのなら探す手間も自分で動く手間も省ける。
    「一週間で即戦力になってやるよ」
    『それは楽しみだ』
     冗談のつもりで言ったわけじゃないが、そう聞こえたかもしれない。だが俺は至極真面目に言ったまで。何なら今から勉強してやる。
     こうして一日で仕事を辞め、再就職を決めることが出来た。これが運命の出会いに一歩近づいた瞬間だとは、この時の俺は知らなかった。


     傑から割り振られる仕事は、結構多種多様だ。地域のパン屋のチラシ作りから、ウェブの立ち上げ、動画編集までこなしている。前の仕事を辞めてこの仕事に就き、もう四年以上経った。前職より長い期間、ほぼ在宅で働いているがやはりこっちの方が自分の性に合っていると思う。別に特別インドア派ではないが、週に半分以上接待や飲み会に付き合わされていたあの頃に比べると、仕事をこなせば特別そんな行事が無いのもいい。時々、傑と飯に行くがそれぐらい。あとはこの年になって趣味になったゲームに時間を注いでいる。
     幼い頃は触れてこなかった反動なのか、今はありとあらゆるハードを揃えパソコンもゲーム用の物を用意した。今ハマっているのは、FPS。引き摺り込むように傑と後輩である七海を誘い、ほぼ毎晩のようにゲームの世界で楽しんでいる。
    『夏油さん、そこ右に居ます』
    「俺が行く。援護よろしく」
    『了解』
     ボイスチャットを繋げ、三人チームで相手を倒していく。連携プレイが必要不可欠だが、なんだかんだで俺たちのチームはいいバランスだと思う。七海の見つけた敵を倒せば、チャンピオンと文字が出てきた。三戦連続の勝利に喜びながら、そばに置いていた炭酸水に手を伸ばす。勝利の味がするのは、きっと気のせいだがそう思うぐらいには気分がいい。
    『まさかこんなに悟がハマるとはね』
     このゲームを勧めてきた本人以上にハマり、立ち回りが上手くなった俺を見ての反応だろう。そうだろそうだろ、と椅子の上で踏ん反り返る。
    「仕事以外の時間はずっとやってるからな」
    『寝不足で倒れますよ』
    『食事はどうしているんだい』
     二人からの疑問に、最近の睡眠事情と食事事情を思い返す。
    「朝六時ぐらいから寝て、十時前に起きてるから大丈夫。食べるのも、合間にパソコン前で食べれるもん出前取ってるし」
     元々ショートスリーパーで、ガッツリ寝たいと思っても目が覚めてしまう。食もそれほどこだわりが無いので、お菓子は常に手の届く場所にはあるがその他は全部出前。キッチンに立つのは、飲み物を入れる時ぐらいだ。
    『早死にしますよ』
    『せめてもう少し休みな』
     二人から心配の声が聞こえてくるが、あまり響かない。疲れたらちゃんと休んでいる。ゲームも仕事に影響が出ないようにしているから、今のところ何も問題ない。
    「ご忠告どうも」
     ここで二人の意見を足蹴にすることも出来るが、それは後々面倒なことになりそうなのでやめておく。
    『それほどゲームが好きなら、いっそ配信をしてみてはどうですか』
    「配信?」
     七海の言葉に、持っていた炭酸水のペットボトルを元の場所に戻す。
    『言葉の通り、動画サイトでの配信ですよ。五条さん、動画の編集などもされているんですよね』
    「まぁ、回ってきたら」
     仕事を割り振るのは傑なので、それ次第だが何本か世界一有名な動画サイトにアップする動画の編集を担当したこともある。あまり反応とかは気にしないので、その動画がどう思われているのかは、今まで確認したことがない。先方がオッケーならいいだろ、と。
    『そのサイトでの生配信ですよ。ゲーム実況というものです』
    「ゲーム実況ねぇ」
     言葉は聞いたことがある。ただ自分がそれをしようと考えたことは、全く無い。確かに、ただゲームしているだけなら、配信などをしてもいいかもしれない。
    『悟は興味がないから知らないかもしれないけれど、君、結構有名人なんだよ』
    「有名人? なんで?」
     首を傾げる。有名になるようなことをした覚えは無い。学生の頃は、モデルのスカウトとかによく名刺をもらったけれど、全く興味が無かったので全部その場で断った。こんな日中家に引きこもっているような奴が、どうやって有名になるのか。一つだけ思い当たるが、口にはしなかった。
    『このゲームの世界でだよ』
    「ゲームで?」
    『本当に知らなかったんですね』
     その口ぶりだと、七海も知っているようだ。いつの間にそんな有名になったんだ。ただどっぷりハマったゲームを毎日やっているだけなのに。
    『君の腕が認められているようだよ。Satoruとマッチすると勝てないってね』
    「……へぇ、それはそれは光栄だね」
     悪い気分じゃない。名前だけが一人歩きしているようだが、それも俺の腕が認められたからと考えると、嬉しいものだ。
    『もうすでに一部では有名だからね。配信を初めても、すぐにファンが付くんじゃないのか』
    『五条さんに合ってますよ』
     二人にそう言われたら、その気になるのが人間だ。ただひたすらゲームをやる。そこに配信を付属するだけ。別にそれを仕事にしようなんて思っていないから、遊び半分で始めるのも悪くない。
    「傑、機材とかって何か必要?」
     こう言うことに俺よりも詳しい悪友に尋ね、指南を受けてすぐに通販サイトで注文の確定ボタンを押した。



    「じゃあまた明日。バイバーイ」
     画面に向かって手を振り、画面を切り替える。生配信は終了しました、と三十秒ほど表示させた後に配信を終了した。今日も合計で四時間ほど配信していた。前半はゲームで、後半はメッセージ読み配信。わかりやすく視聴者層が異なる配信をすることで、どちらのファンも取り込むという作戦は見事当たり、今では動画配信のみで十分暮らせるようになった。当初は顔出しする予定もなかったが、これはこれで楽しい。何件かコラボしましょう、テレビ関係の仕事は興味ないですかとダイレクトメッセージもくるが、丁寧に断っている。そこまで手を広げるつもりは無い。他にも、付き合ってくれとか愛人になって欲しいとか、その手のメッセージは無視している。今のところ家を特定されたりといった問題は無いが、もしもの危険もあるのも重々承知。その時は引っ越そうとは思っている。もう少し、防音がしっかりとした部屋にも住みたい。合間に探してはいるが、自分に合った物件にはまだ出会えていない。
    「ゲームして寝るか」
     今日もずっとゲーミングチェアに座りっぱなし。うんっと両手を上げて背中を伸ばし、重い肩をぐるぐる回す。ゲーム実況を始めて、さらに運動不足が加速しているのは、否めない。流石にこのままでは体力も衰え色々鈍ってしまう。ジムの契約をしないとな、と思いながらも実行出来ていないのが現実だ。
    「せめてストレッチだけでも、やっとくか」
     コントローラーに伸ばしかけた手を引っ込め、俺も配信している動画サイトで検索バーに「ストレッチ 簡単」と入力する。どこまでも楽をしたいのは、人間の性だ。
     検索ボタンを押すと、ずらりとストレッチ動画が並ぶ。自宅でエクササイズも流行っているので、数百万再生されているものから数千回のものまで様々。適当にスクロールをし、どれにしようか吟味していると一つの動画が目に止まりマウスを動かす指が止まる。至って普通のサムネイル。というか、すごくシンプル。デカデカと文字が並んでいるわけではなく、黒文字で「十分ですっきりストレッチ」とだけ書かれている。普通なら、スルーするだろう。ただ俺が目を奪われたのは、そのストレッチ方法を伝授するであろうタンクトップ姿で力こぶを見せている男の写真。目が大きく、タンクトップ越しでもわかる鍛え上げられた肉体。
    「……うわっ」
     思わず声が出た。それぐらい衝撃の出会い。ぶっちゃけ、一目惚れ。こんなこと初めてだ。
     勢いのまま、その動画を再生する。よく聞くスローテンポの曲と共に現れた動画主の男が、ストレッチマットの上で正座でお辞儀した。そのまま、ストレッチが始まる。喋ることもなく、字幕で説明することなく、ただ淡々と進むのをじっと見つめていると、いつの間にか動画は終わっていた。俺は体を動かすことなく、ただじっとその子の顔と体だけ見つめていた。もう一度再生ボタンを押し、最初から動画を流す。激しい動きもいやらしい動きも一切無いのに、俺の下半身に熱が集まる。それぐらい、ドンピシャで好みの子。こんな子に出会ったことは無い。
     自分の恋愛対象が世間一般と違うのは、小学生の頃から感じでいた。決定的にそうだと思ったのは、初めて出来た彼女に誘われた時。興奮よりも嫌悪感が勝り、その瞬間に別れた。相手には泣き叫ばれたが、仕方ない。一線を越える前でよかったと思って欲しいぐらいだ。
     それから俺は、アプリやSNSで相手を探して付き合ったり一夜だけの関係を持ったりを繰り返してきた。その中で何人か可愛いとか好きとか思ったことはあるが、どこか物足りなさも感じでいた。この足りない何かは埋まることなく、一生を終わるんだろうなと思っていた。
     そんな中でのこの出会い。まさに運命としか言いようがない。この運命を引き寄せたのだから、ここから何としても手繰り寄せなければ。
    「yuji、ゆうじかな」
     チャンネル名から名前を知り、概要欄から他のSNSに飛ぶ。そちらの方が詳しいプロフィールが掲載されていた。彼、悠仁はブレイクダンサーらしい。フォロワーはそれほど多くないが、数々の大会で優勝の経験もあるらしく、大きなトロフィーを掲げている写真もある。その世界では有名なのだろうか。
     もう一度動画サイトに戻り、他の動画のサムネイルを見る。ダンスの動画とストレッチ動画、筋トレ動画で埋め尽くされているが。ほぼ全て同じ構図。内容は少し違うらしいが、代わり映えがない。再生回数も、それほど伸びていない。
    「動画の作り方教えてあげる、とか? さすがに不審がられるか」
     これでも配信のみならず動画もアップしていて、そちらの伸びも良い。仕事で動画を編集していた経験も生きている。
    「無視されたら……いやでも、こんな子もう出会えない」
     似たような子には出会えるかもしれないが、俺はこの子が良い。
    「DMしてみよ」
     ダメ元だが、行動しないと何も始まらない。この一歩がなによりも大切で大事。気まぐれなんかじゃない、暇潰しでもない本気の恋を始めたい。
    「悠仁様、っと」
     堅苦しくならないように、でも不快にならないように、気を遣いながら文字を並べる。これが俺と悠仁の恋の始まりだと、願いながら。
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