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    ろどな

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    9/20 ばじふゆ
    血ハロで一命をとりとめたifな場地と千冬

    #ばじふゆ
    bajifuyu
    ##rd_9月ひとり創作フェスタ

    流すナミダ いつだって、一番だった。出会ってからの世界はすべてが場地さんでできてて、あの人が白って言えば、どんなに色がついてても白だと思えるくらい。
     ただ、まあそれだけじゃ駄目なんだろうなと思うのは、場地さんとマイキー君たちが話してるのを聞いたときだった。いや盗み聞きじゃねえよ、ちゃんとその場にいていい時間で、でもどこかオレは、その輪に入れずにただそこにいただけ。
     その中で、マイキー君の自由奔放さを受け入れるだけじゃなくて否定して拒絶して、なんだかんだ最後には受け入れるとしても、ちゃんと違うことは違うとはっきり言うんだ。やっぱり、後から知り合ったオレとあの人たちじゃ、違う。
     オレにとって場地さんはすべてで、だからすべてを受け入れたくなる。オレにとって違うことをしても、彼にとってはそれが正解、ならばきっと、正解なんだ。そう、そうに違いない。

    「……場地さん……」
    「おう」
    「……、ばじ、さん」
     そうであれば、今のこの状態だって正解の先にある道なんだから受け入れて、「かっこよかったっス!」なんて笑うべきだった。そうじゃない、そうできない。オレは、この現実を受け止められないでいる。
     命だけはなんとか助かったけど、場地さんはしばらく動けない体になった。それを手放しで喜べるほどオレは愚かじゃない。愚かかどうかすらわからないけど、自ら命を投げ捨てる大バカ野郎を受け入れられるほど人間ができちゃいねぇから。
    「バカ……」
    「うん」
    「場地さんの、バカ……!」
     オレは、場地さんのいるベッドの横に、丸椅子を置いて座って、顔をあげることもできず俯いたまま場地さんに言葉を投げた。この人は、それを静かに聞いてくれてる。手の届かない距離は、少しだけ歯がゆい。
     触りたい、生きていることを実感したい。例えバカだとしても、命が助かったことは喜んであげたい。そんな上から目線でいられるような立場じゃねぇけど、生きててよかったと、本当は伝えてあげたいのに。
     だけど駄目だった。死にかけたことの重みがオレの中に居座り続けてる。もう少しちゃんと話してくれれば、みんなに相談してくれれば。背負いすぎないで頼ってくれれば、みんな場地さんを見捨てることなんてしないのに。
     でもきっと過去のことが場地さんの中で大きくて、そう、今のオレみたいに。決して同じじゃない、絶対に同じじゃないけど、大切な、肝心なことが言えずにいるのは同じだ。
    「……ちふゆ」
     それは、場地さんの声とは思えないほど弱い、声だった。まるで別人のように。だけどオレがその声を聞き間違うわけはなくて、静かに、ゆっくりと顔をあげる。
     視界に入れた場地さんは、ただ、笑ってた。いつもみたいに声を上げてじゃなく、表情だけで。こんな顔見たことねぇよ。……ああ、いや違う。気を失うあの瞬間を思い出させる、キツい顔なんだ。
    「こっち、来て」
    「……はい」
     彼の言葉はすべてだ。たとえ怒ってようとも、拒絶することができない。それが、オレの意思だった。
    「ごめん」
     場地さんはそう言って、オレの頭を撫でた。髪を隔ててもわかる温かさに、今まで堪えてた涙が、溢れる。ポロポロ、ずっと、我慢してたのに。死んだわけじゃないから泣きたくなんかなかったのに、それでも、止まらなかった。
    「ばじ、ざんっ」
    「うん」
    「……ッ、いぎでで、よがっだ」
    「……そうだな」
     傷に障るかどうか、考える間もなくオレは場地さんに抱きついた。それからの涙が止まることなく、場地さんもオレの頭をただ、撫でて。
     耳元で聞こえる「ごめん、悪かった」「心配かけたな」なんて声が、オレの心を洗い流すようだった。この人にもこんなふうに、なにかを言えるきっかけがあったなら変わったんだろうか。
     オレはそうなれなかった。そうなってたなら場地さんはこんなふうにならなかったのかとも思うけど、でもオレはなれなかった。それがすべてだ。
    「ちふゆ」
     優しい声がオレの名を呼ぶ。顔を上げればデコに、目尻に、鼻先に温かい感触があって、それから、くちびる。触れた、熱。
    「好きだ」
     その瞬間、なにもかもの時間が止まった。まるで心臓すらも止まったみたいに。
     まるで、その手がオレを一番だというように。

     なんで今言うんだよ。死にかけたアンタが、なんの未練もない声で言うなよ。冗談じゃねえよ、そんなコトバ、受け入れられるわけ……。

    「……オレも、好きです……っ」

     駄目だった。だって、オレの一番はいつだって場地さんだったから。今だって、これからだって、ずっとずっと一番で、その言葉を否定するすべを持たないオレは、その感情を受け入れざるを得なくて。

    「知ってる」

     じゃあ、もう死にかけないでくれよ。
     オレにはもう、アンタのために流す涙は残ってないんだから。
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