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    karanoito

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    POIPOI 207

    karanoito

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    鬼の怪異×狐の怪異

    #二次創作
    secondaryCreation

    祭りの中の巡り合わせ 人が賑わう祭りはどこか懐かしく、見知らぬ場所から住み慣れた故郷に帰ってきた感覚に少し似ている。立ち並ぶ屋台を横目に歩き、貰ったりんご飴を口に運ぶ。そんな少年の頭上から軽い口調が投げかけられた。
    「よ、戻ってきたか」
     鬼と書かれた目隠しを着けた男。
     肩を叩いて口の端を持ち上げるその親しい口振りに覚えは無い。戻ったとはどういう意味だろうか、逢魔ヶ時の祭りに来たのはこれが初めてなのに。
    「……悪いが祭りに来るのは初めてだ」
    「ああ、怪異になってからは、な」
    「……?」
     少年が狐面の奥から訝しげな視線を投げかけると、以前にちょっとあってさと鬼の少年は軽く肩を竦めた。
     少年は覚えてないが知り合いらしい。かなり胡散臭いが嘘を吐く理由も無いので、しばらく彼に付き合ってみる事にした。
    「……りんご飴か」
    「食べたいなら君も貰ってくるといい」
    「悪いけど、俺あんまり甘いの好きじゃないんだよな」
    「そうか」
     ぽつりぽつりと弾まない会話を挟み、雛売りや金魚すくいの屋台を眺めながら練り歩いた。しばらく進むと喧騒は途切れ、鳥居が見えてくる。
    「祭りはここまでみたいだな」
    「ああ、ここから先は"祭りのむこう"だ。……あの鳥居を越えて来たのは覚えてるか?」
    「……言われてみればそんな気がする」
    「じゃあその前は」
     その前なんかあるのだろうか。ずっと参道を歩いていて気づいたらこの祭りへと辿り着いた。何処にでもいる彷徨う怪異、それ以外の何物でもない。
     鬼は見下ろすばかりで続きを口にしようとはしない。踵を返して祭りの中へ引き返していく。鬼の背中は賑やかな祭りから離れ、暗い校舎の廊下に差し掛かる。それでも足を止めない着崩れた着物の裾を掴んだ。
    「君は……何を知ってる?」
    「……怪異になる前のアンタを」
    「怪異になる、前?」
    「ある少女の怪異がきっかけで致命傷を負ったアンタと取引した。このまま黙って死ぬくらいなら怪異にって騙して送り出した、あの鳥居のむこうへ」
     怪異になると分かっていて送り出した。仲間(怪異)にする為に人間の彼を殺した。「人間」だった存在を消した。
    「…………それで戻って来た、か」
    「俺を恨むか?」
    「何故だ? 君は俺を救けてくれたんだろう」
    「怪我なんかどうでもよかったんだよ、俺はただアンタを此方に引き込みたかっただけだから」
     少年の顔を隠す狐の面をゆっくり持ち上げる。鬼の口は引き結ばれ、苦しそうに歪んでいた。
    「送り出したのは君かもしれない、でも行くと決めたのは俺だ」
     違うか? と問えば彼の手は小さく震え、狐面から離れる。それを頭の横に被り直し、俺の頬に手を遣る。
     引き結んだ口は小さく開いたが、言葉は聞こえてこなかった。代わりに少年の甚平に手を伸ばし、確かめるように上から撫で回す。特に腹の辺りを重点的に。
     その辺が傷を負った箇所なのだろう。
     されるがままにしていると、手首を掴まれ、壁に縫い付けられてしまう。少年の手から持っていた刀とりんご飴が抜け落ちて、乾いた音と共に冷たい廊下の上に転がった。
     そのまま甚平の内側、つまり素肌に直接指が這い、擽り始める。
    「ちょっ……くすぐ」
    「……腹の傷、治ってるのな。致命傷だったのに」
    「判ったら離れてくれないか」
    「ヤダって言ったら?」
    「斬る」
    「またかよ」
     鬼の怪異が目隠しの奥で微笑った。張り詰めていた緊張の糸が弛んで、調子に乗って左手で少年の身体をペタペタと触り始めた。
     斬るとは言ったものの刀は落として届かないし、手首は一つに押さえつけられたままだ。本気で斬るつもりはなかったが。
     触るだけでは飽きたらず唇が白い肌の上に滑り、強く吸い付く。
     彼はこんな事をするために人間を招き入れたのか。と勘ぐったが、真意は鬼にしか分からない。
     完全な成り行き任せにしか見えないし、行き当たりばったりなだけだろうと。
    「りんご飴……」
     手から零れ落ちた飴は何処にも見当たらない。
    「こんな時でもりんご飴かよ、また貰ったら?」
    「勿体ないだろう」
    「怪異になっても好きなものは変わらないな」
    「……以前も?」
    「ああ、人間の時(まえ)も食ってた」
    「……そうか」
     記憶の糸を辿っても彼の言う以前は遠すぎて見つからず、もう戻れない事だけは解った。当然だ、「人間だった少年」は消えて何処にもいないのだから。
     甘味は苦手と言いながら飴を頬張った後の甘い唇を舐め、深く舌を差し入れる。
     はだけた甚平から肩が覗き、鎖骨から胸元へ這っていく鬼の長い指。何度も口内を蹂躙する舌。
     やっぱり後で斬っとこう、と狐面の少年は固く誓った。
    「……ぁ、……んっ」
    「……やらしー声」
    「……っだったら、退け」
    「退くと思う?」
     思わない。観念したように少年の口から溜め息が漏れた。
     目隠しした口元に浮かんだ笑みが愉快っぽく歪むのを静かに見つめ、重なり合った身体が振動を始める。
     どくどくと、壁に押し当てた狐の怪異に向かって、鬼の怪異は容赦なく腰を打ち付けた。祭りの喧騒は遥か遠く、二人の所まで届かない。
     ここには狐の怪異と鬼の怪異がいるだけ。

    2014.10
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