別離(わかれ)の時はすぐそこに
「私がいなかったら何か変わったのかな……」
白い少女は自分に問いかける。結局彼を引き入れてしまった。それは自分のせいではないか? 自分と会わなければ異界に囚われない未来も訪れた、そんな気さえした。
「そうかな、アンタに会わなくてもアイツは自然に辿り着いたと思うけど。あの子どもにとってアンタは目的に至る手段でしかなかった。自分を追い詰める理由にしてはちょっと自意識過剰なんじゃないの?」
目隠しで隠れた少年の目は容赦なく真実を突き付ける。あの少年にとってそんな価値はないと。非難も同情もない言葉尻は冷たかった、会って間もない相手なのに。
「誰とも知れない誰かを探すためにはアンタの存在が必要だった訳、見方を変えればそれってアンタが導いた事にならない?」
「そうなのかな……でも、怪我をしなかったら一緒に外へ帰れたんじゃないの……?」
「俺が連れてくからそれは無理。身内が一緒かそうでないかの些細な違いしかないね」
この逢魔ヶ時の世界に足を踏み入れて、怪異に近づいた時からこうなる運命だった。怪異に近かった少年には怪異になるしか道はなかったと鬼の怪異は断言する。それは大事な人を救けたいと選択したしないに関わらず。
「あなたの影響なんかあの子にはないと思う……。だって怪我が無ければあなたはあの子に近づかなかったから……私と一緒」
「まあその通りだけど、はっきり言うね」
「ごめんなさい……あの子に泣いてほしくなかったから」
少女は俯いて白いワンピースを握り締める。誰かに関わってないと寂しくて気が狂ってしまう。自分が溶けて流れてしまったら、辛うじて踏みとどまっていた「人」ですらいられなくなる。
独りきりでどうしようもなく寂しくなったら、また人を襲ってしまう。
「そう、俺も一緒だよ。世界に独りで、迷子にちょっかい出すしかやる事がない暇人」
「暇なの?」
「忙しくはないね。泣いてほしくなかったなんて随分肩入れしてるけど……アンタ、アイツの知り合い?」
「あの子が小さい頃一緒にいた事があるの……大切な友達」
迎えが来て外へ帰って行ったはずだった。二人が離ればなれになった経緯を少女は知らない。ずっとすれ違ってて、ようやく会えた時にはもう取り返しがつかなくなって。今、寂しい別離を迎えた所だ。
「友達、か」
「あの子と友達だったことももう忘れちゃうんだね……」
「ああ、お喋りもそろそろ終いかな。次はアンタの番か」
「私……?」
忘れてた。この世界に馴染んでたから。私を覚えてくれていたあの子もいなくなった今、これから名前を呼んでくれる人ももう現れないだろう。
不安定な魂はいずれむこうに浚われ、あの子と同じ怪異になる。
「同じ景色に立ったらまた友達になれるかな……」
「誰と?」
「誰だっけ…………。誰でもいいからお友達になってほしいな、一人は寂しいから」
このお兄さんは一体いつからいるんだろう、廊下で何を話していたんだろう。
鳥居のむこうに行ってみたら出来るかもよ? 首を傾げる少女の横で少年が低く囁いた。
2015.1