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    karanoito

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    karanoito

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    橋&貴&仁&新

    ホラー好きとバッドエンドは相容れない

     ホラーが好き、バッドエンドは嫌い。かと言ってハッピーエンドを推奨するかはまた別問題で、そんな彼の傾向を把握するにはもう少し足りない。ホラーは往々にしてバッドエンドになりやすい。その二つの性質は限りなく近しいもので、別々に扱うのは釈然としない。
     その反論を一笑に付して、仁は目の前で机に肘を突いて見せた。それは綽々と尊厳に満ちた、まるで下民を見下す愚王の振る舞い。分かってねぇなあ、と整った顔を歪ませる。
     さあ、これから馬鹿にするぞ――そんな気配を受け取って臨戦態勢に入った。いくら気心が知れた仲でも黙って言い負かされる柔さはない。そう易々と譲らない姿勢はむしろ頑固とも言える。真っ向勝負だ、と普段は下がり気味の新の眉がつり上がった。
    「またやってるよ」
     橋本がトイレから戻ってきた頃には、既に白熱した議論が繰り広げられていて入る隙間もない。まだゲームの途中だったのに。机を挟んで飛び交う言葉の応酬から避難するように貴文の席にすり寄った。彼は止めるでもなく参加するでもなく、あと数分もすれば開くことになる教科書を机に揃えて授業に備えていた。
     机の前にしゃがみこんで顔を出す幼なじみと腕時計を見比べ、もうそんな時間かと呟く貴文は口論中の二人にもすっかり慣れきっていた。仲良くなる前の警戒心はどこへやらだ。
    「今度は何で揉めてんの?」
    「ホラーとバッドエンドについてらしい。仁がバッドエンドを嫌いだと言い出してから見ての有り様だ」
    「バッドエンド嫌いってマジで? だってほら、ホラーって大体バッドエンドになるじゃん? 仁ってそういうの絶対好きだと思ってた」
    「新もそう反論してたな。仁に言わせれば全然別物らしい」
     授業開始まで三分を切った。未だ過熱する二人の声は鳴り止まない。さて、そろそろ止めるかと貴文が席を立った。
     ペースが狂った新は案外すぐに周りが見えなくなる。普段は冷静なのに頭に血が上ると猛進する嫌いがあった。注目を浴びて、我に返った新が顔を赤く俯かせるのが不憫で、目立つ前に止めることにしている。
    「だーかーら、ただの不幸と後味の悪さを一緒にするなっての! いいか、怪談に置ける……」
    「一緒にしてない。不幸になるからバッドエンドだろう、どう解釈しようとそれが全てだ。あれこれと余計な詮索は無用の長物で……」
     饒舌な仁に対して新の舌も回る、回る。寡黙で落ち着いた態度は見る影もなく、仁はそれが楽しくて仕方ないと言った感じでつっかかっていく。衝突するのは負けず嫌いだから。似てないようでいて似た者同士だから馬が合うのかもしれない。
     同じレベルじゃないと喧嘩も出来ない、そう言うと新は静かに顔をしかめるのだろうけど。
     貴文が間に入ったところで新が気づいて口を噤んだ。続いて頭上から予鈴のチャイムが鳴り響く。
     対して、仁はニマニマと締まりのない緩い笑みで貴文を見上げる。そこに悔しさは微塵も見当たらず、結論はどうでもよかったんだなと伝わってくる。
     大好きな友人とじゃれ合った達成感さえあればそれで満足。決着が着かない議論は仁を大いに楽しませただけだ。
     なんで気づかないかな、と橋本は不思議でならない。あんなにも分かりやすく顔に出ているのに。明るく輝いた細長な目もハキハキと動く唇も向けられた途端に新の中で苛立ちに変わる。フィルターはひねくれた好意を好意と気づかせない。
     ――素直じゃないんだよなあ。
     うれしそうな仁に新が気づいたらいつか二人の関係性も逆転するかもしれない。そんな日はまだまだ来そうにないけど。

    2016.1
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