願うまでもないねがいごと
もっと高く、と手を伸ばす。全然届かなくて爪先立ちになってもせいぜい肩に触れる程度にしかならなくて。
寂しくなって肩を落とす。
「早く大人になりたいなあ……」
そしたら背も高くなって、肩を並べて隣に立てるかもしれない。これからも一緒にいたいから──なんて言われても困るだろうけど、そうなればいいと思ってた。
爪先立ちになったり手を伸ばしたりしているのが気になったのか、カロルの側まで近付いてきて限界まで伸ばした手に自分の手を合わせて音を立てた。
いつもやってるハイタッチだが爪先立ちになっていたカロルはあっけ無くバランスを崩して転けそうになる。
ぐいと引き寄せられてユーリの胸元に倒れこんだ。
「悪い、大丈夫か?」
「……むー、突然何すんのっ?」
「いや、何遊んでんのかなと。そう怒んなよ」
遊んでた訳じゃないけどユーリにはそう見えてたのが面白くなくて頬を膨らませると、機嫌を取るように頭を撫でられる。
判ってたけどやっぱり子供扱いされてる。年が離れてるからしょうがないけど。
「何でこんなに小さいんだろ、もっとボクも背が大きくなりたいよ」
「カロルは成長期なんだ。焦らなくてもこれから伸びるだろ」
「これからじゃなくて今すぐ大きくなりたいの」
今すぐと言ってしまう事が子供のワガママだと気付かずにへそを曲げるカロルに、ユーリは自分のズボンのポケットから出した物を差し出す。
色とりどりの糸で幾重にも細かく編み込まれた紐のリングだ。おまじないだと言ってユーリはそれをカロルの手首に巻いた。
「これ、紐のアンクレット?」
「ミサンガだよ。これ付けて自然に切れたら願いが叶うらしいぜ、要するにおまじない。お前にやるよ」
「ありがとう。でも少し大きい……かも」
「やっぱりでかかったか」
ミサンガは長さが余ってカロルの手首より大きい輪を作っているせいか、斜めにずれて引っかかっている。落ちはしないがちょっとカッコ悪いかな。引き上げても指一本分、スペースが出来てしまって安定しなかった。
後で長さを調節しようと指を引っかけると、
「コラ、外すなよ。願い事叶わなくなるぞ」
「そうなの? ……てボクまだ願い事してないんだけど」
「ミサンガは付ける時願い事するんだよ」
へー、と感心したようにカロルは外すのを止めてそのままミサンガをぶら下げたままにしておく。
「……ってちょっと待ってよ、じゃあボク願い事出来ないじゃん!」
気付かれた、と言わんばかりに顔を歪めたユーリが明後日の方向に視線を反らした。
そりゃ本当に叶うなんて子供っぽい事言わないけど、どんな願い事にしようかってちょっとワクワクしてたのに。
「もう! ユーリの意地悪っ、やっぱりコレ返す!」
「バカ止めろって! いてっ、落ち着け、カロル!」
暴れてポカポカと胸元を殴り出すカロルに降参のポーズでユーリは手を上げたが聞き入れられず、収まらないカロルの怒りを、暫く受ける羽目になった。
*
……いっしょに居られるかなんて願うまでもないこと。
それにカロルが気付くのはもうしばらく先の話。
2011.10