再会と挑発
「カロル!? 天界に戻っ……」
仕事で地上に降りてきたフレンが、カロルに近付こうとして見えない壁に弾かれて尻餅をつく。カロルは駆け寄りたいがそれは出来ない。天使と悪魔は近付くと相反する力がぶつかり合って、お互い苦痛を伴い弾かれるからだ。
つい最近まで仲間だったカロルの姿を見つけ、思わず近寄ってしまったが、やはり無理だった。
「フレン、大丈夫!?」
心配そうに声を張り上げてくれる。心優しい所は以前と変わらないが、容姿はガラリと様変わりしていた。
右目を隠すように前髪を下ろし、黒一色の衣装に身を包んでいる。
ほとんど露出の無かったダボついた服から一転して、羽織っただけの黒革のジャケットに短パン、腕にロンググローブ、足にはお揃いのロングブーツを履いている。
カロルにはあまり似合っていない。魔の気配が幼いながらもわずかに妖艶さを醸し出し、以前の清廉さはもう、どこにも見当たらなかった。
「大丈夫、それよりカロルが元気そうで良かったよ」
「……ごめん。勝手に出て行っちゃって」
「もう帰ってくる気は無いのかい?」
埃を払いフレンが立ち上がり、カロルを真正面から見据えた。真っ黒い翼が背中から伸びる、堕天使の子を。
兄弟みたいに仲良く育った愛しい存在。別れは突然すぎて、まだ受け入れられずにいた。
うん、と淀みなくカロルは言い切った。
「ユーリと一緒にいたいんだ。初めて出来た友達だから」
照れたように微笑って、頬を掻く仕草は変わらない。近くで見続けた懐かしい笑顔に、一歩フレンは近付いた。
「あ、近付くと危ないよ!」
「構わないよ。カロル、やっぱり僕と……」
天界へ帰ろう、と伸ばした手はカロルには届かなかった。背の高い悪魔の影が空中からカロルの体を掠めとり、遠ざけられた。
「天使に近付くな、危ねーだろ」
不機嫌そうに眉をひそめ、カロルの後ろからユーリが囁いた。カロルがフレンとユーリを交互に見て、オロオロする。
「アンタもカロルに近寄るの止めてくんねぇかな。誘惑するのは天使じゃなくて悪魔(オレら)の仕事だ」
そう言って後ろから抱きかかえたカロルの体に手を伸ばし、露出した胸元や太股を撫で回す。白く細い腕を引き寄せ、無遠慮にジャケットの下の素肌を撫で回し、露わになった太股を下へ向かって手を這わせる。
カロルはくすぐったいと身を捩らせてるだけだが、見せつけられてるように思えて不愉快だった。
フレンとユーリの目が合う。
ニヤ、と片目をすぼめて、ユーリはカロルの耳を甘噛みした。
「! ……ちょっ、何すんのさユーリ?」
「別にいいだろ? これくらい。痛くないし」
「そりゃ痛くないけど……」
「……カロル、その男から離れるんだ! やっぱりこんな地上に君を置いておけない。一緒に戻ろう!」
「えっ、フレン?」
二人に割り込もうと空中に飛び上がったフレンはあっさりとバリアに阻まれる。ついでにユーリが衝撃波を叩きつけ、バランスを崩し、フレンは地上へ落ちてしまう。
「たまには地上から空を見上げるのもいいだろ、見下ろしてばっかのお堅い天使サマ?」
安い挑発を残し、ユーリはカロルを抱きかかえて飛び去っていった。逆転した立場にフレンは拳を握り、苦い面持ちで唇を噛み締めるしかなかった。
2012.3.3
サンドイッチの日らしいのでカロルサンドの小話。