年末の事務所はなにやら騒がしい。
床にダンボールが積み上げられていたり、掃除道具が散乱していたり…
たまたま事務所に寄った俺と清澄は、ドアを開けるなり目を見合わせた。
「龍さん、九郎くん!お騒がせしてすみません。今事務所の大掃除を始めようと思っていまして…」
賢は倉庫や色々な場所に手を出してしまったのか一人で収集のつかないほど風呂敷を広げてしまっていた。
「大丈夫ですか?なにかお手伝いしますよ」
「俺たちも手伝うよ!」
事務仕事もまだ終わっていない賢が一人で大掃除しようというのだからどう考えても大変だ。俺たちは見かねて手伝いを申し出た。
「ありがとうございます!そうしたらお二人には倉庫の整理をお願いします」
「了解!」
身支度をして二人で倉庫に入る。
倉庫には過去の仕事で使った小道具や衣装などが所狭しと並んでいた。
「ひとつひとつ整理をしていきましょうか」
清澄がダンボールを引き抜こうとすると、少しはみ出していた上のダンボールが頭上に落下してきた。
「清澄!危ない!」
咄嗟に覆い被さるように清澄を守る。
幸いにも落ちてきたダンボールは清澄には当たらなかった。
しかし、ダンボールの中に入っていた白い布が清澄に掛かってしまった。
「清澄、大丈夫?」
「大丈夫です。庇ってくださってありがとうございます」
「この布、すぐ外すからちょっと待ってな!」
布を手繰りながら端を探す。
落ちてきた布はレースカーテンだったようだ。
しばらくして清澄の顔が見える…その時だった
「なんだかこうしていると、木村さんのお嫁さんになった気分ですね」
たくし上げたレースカーテン越しに聞こえた清澄の声に、俺の胸はどくんと跳ねた。
たしかにレースカーテンが花嫁のヴェールのようにも見えてくる。
レースごしに見上げてくる清澄はいつもに増してとても可愛らしくて、心臓がばくばくと高鳴る。
「…綺麗だよ、清澄」
吸い寄せられる頬、そして唇…
キスするかという距離まで近づいたにもかかわらず清澄が急に我に返ったようにパッと離れた。
「そ、倉庫の片付けをしなければなりませんね!」
慌てて立ち上がって落ちてきたダンボールを戻す。
その横顔は林檎のように真っ赤で。
愛おしくて堪らない…
いつか本当に清澄のヴェールを外す日が来たらいいな、なんてこっそり期待しつつ、俺は大掃除を再開した。