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    primulayn

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    primulayn

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    りゅうくろ
    (龍くんHappy Birthday!)

    「ところで、今日は九郎と連絡取ってないのかよ」

    茶碗を満たしていた白米の底が見え始めたころ、英雄さんが徐ろに話題に出したのは俺の恋人のことだった。
    ここに来る前に携帯を水没させてしまった俺は、英雄さん誠司さんに限らず誰とも連絡がとれていなかった。 待ち合わせの時間や場所は頭に入っているけど、さすがに連絡がつかないことが伝わっていないのはまずい。
    携帯ショップに駆け込むべきか…でもそこまでの時間はないよな…
    思いを巡らせていると、英雄さんが吹き出すように笑った。俺、変な顔してたかな?

    「そんなに不安そうな顔するなよ。九郎には俺から連絡入れとくから安心しろ」
    「あっ、ありがとうございます!助かります!」

    目の前で英雄さんがスマホを操作してくれる。数分待ったところでスマホの通知ランプがちかちかと光る。清澄とはすぐに連絡が取れたようだった。

    「とりあえず場所と時間は再確認して…これであってるか?」
    「はい!あってます!」
    「これで今日の夜は大丈夫だな、明日あたり携帯ショップに行けるか?」
    「はい、大丈夫です!」

    英雄さんが清澄とのLINK画面を見せてくれる。そこにはこの後の予定の確認と、俺を心配する文字が綴られていた。

    「俺、また清澄に心配かけちゃったな」
    「九郎なら、わかってくれているだろう」
    「そうなんですけど…」

    思わずがしがしと頭を掻く。気持ちではちょっとやそっとの不運には負けないつもりだったけど、それで誰かに迷惑をかけたり心配をかけるのは本意ではない。恋人なら尚更だ。誠司さんの言うとおり、清澄は俺の不運体質も受け入れてくれているけど、申し訳ないなとか俺のせいでとか、つい考えてしまうこともある。

    「あまり気負うな、龍。今日の主役がそんなのでどうする」
    「そうだぜ、九郎だって龍には笑顔でいてほしいに決まってる」

    英雄さんと誠司さんの励ましに涙腺が緩みそうになる。俺、この二人とユニットで本当によかった。格好つけたい自分もいるけど、こうやって周りの人に助けてもらいながら前向きに歩んでいくほうがずっと俺らしいよな。

    「とりあえずご飯、おかわりしようぜ!」
    「はい!誠司さんはどうしますか?」
    「自分も行くとしよう」

    セルフサービスのご飯コーナーに3人で並び立つ。ご飯がおかわり自由で、ご飯のおかずも食べ放題だなんてすごいお店だ。まるで俺のためにあるような場所だなあと目を輝かせてしまう。
    英雄さんと誠司さんはそんな俺を見て、ふっと優しい顔で笑っていた。



    「ごめん清澄!待った?」
    「いいえ、ちょうど今来たところですよ」

    英雄さんのおかげで、俺は時間通り約束の場所に着くことができた。清澄は普段あまり見ない着物を着ていて、もしかしてちょっとお洒落してくれているのかな、なんて。そう考えると思わず口元が緩んでしまう。俺のためにとっておきを着てくれるなんて、嬉しい。

    「それでは行きましょうか」
    「ああ!」

    今日は清澄がよく行くという和食のお店に予約を入れてくれたみたいだ。店は駅から近くて、店舗は小さいけれど立派な佇まいをしていた。普段は俺が入らないような店構えに思わず身体が強張ってしまったけれど、馴染みの店だからなのか清澄が慣れた手付きで引き戸を開けてエスコートしてくれた。
    いらっしゃいませ、と店奥から複数の女性の声がする。店は個室がいくつかあるだけでこじんまりとしていたが、品のいい内装や調度品が並べられており、都会のど真ん中にも関わらず落ち着く空間となっていた。俺たちはそのまま奥まった一部屋に案内される。掘りごたつに掛けて襖が閉まると思わず大きく息を吐いてしまった。

    「な、なんかすごいお店だね」
    「古いですが良いお店なんですよ」

    あまり緊張しなくて大丈夫なお店ですから、そう言って清澄は微笑んだ。さすがの彼はこういった雰囲気も慣れっこなのだろう、平然とテーブルの向かい側でメニューを手に取っている。

    「こちらのお店はお肉料理と魚料理がありまして…」

    清澄がメニューについて解説をしてくれる。さすが馴染みの店というだけあって写真のないメニュー表よりもずっとわかりやすかった。ちょっといいお店のメニューに写真がないことが多いということは清澄と付き合うようになってから知ったことだったりする。
    二人でメニューを決めると、着物の女性がオーダーを取りにきた。清澄がすらすらと注文を伝えてくれる。俺はそれを見ていることしかできなかったけれど。
    襖が閉まると再び個室はしんと静まり返った。すると、清澄は改まって俺の名前を呼んだ。

    「木村さん」
    「うん」
    「本日はお誕生日おめでとうございます。こうしてお時間が頂けたこと、嬉しく思っています」

    淡い金糸雀の色がこちらを真っ直ぐ見つめてくる。俺はこの瞳が大好きだった。優しくて、きれいで、宝石みたいにきらきらしていて、欲を言うとぜんぶ俺のものにしたくなってしまう。

    「俺は清澄に祝ってもらえて嬉しいよ」

    そういって微笑むと、清澄は少し照れたように目線を外した。あ、かわいい。

    「こちらをお受け取り頂けないでしょうか?」

    がさがさと手元の鞄から小さな紙袋を取り出す。誕生日プレゼントだ。清澄からプレゼントが貰えるなんて思っていなかったからどきどきしてしまう。ありがとう、そう言って紙袋を受け取る。中には手紙と、小さな長方形の箱が入っていた。

    「手紙は恥ずかしいのでお一人のときに読んでくださいね」 
    「うん、わかった。こっちは開けていい?」
    「どうぞ」

    リボンを解き包装紙をゆっくりと外す。中から出てきたのはブランド名と思わしき刻印がされた木箱だった。木箱をそっと開けると、中には箸が入っていた。シンプルな茶色の箸で、見るからに高級そうだ。ブランド名も俺が知らないだけできっと有名な物なんだろう。

    「使ってゆくうちに使いやすいよう形状が変わるんだそうです」
    「すごい…こんな素敵なものをもらっていいの?」
    「貴方のためにご用意したのです。よろしければ、ぜひ」

    普段の食事の際に使ってもらえたら嬉しいです、そう言って清澄は頬を緩めた。
    ああ、なんて可愛らしいんだろう、俺の恋人は。 
    思わず抱きしめたくなったけれど、ここは個室とはいえ食事の場だ。テーブルを挟んで向こう側にいる清澄には手が届かない。俺は胸元に誘い込む代わりに彼の手をぎゅっと握った。

    「ありがとう、俺、すごく嬉しいよ。今日は不運も多かったけど、そんなの消し飛んじゃった」
    「喜んでもらえてよかったです。木村さんにとって幸多き1年になりますよう」

    きゅっと清澄が握り返してくれる。俺はなんて幸せ者なんだろう。最高の誕生日を噛み締めながら、俺はもう一度強く清澄の手を握り返した。


    2022/5/5
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