甘やかしたい「魈、今日はお前に頼み事があって来たのだが、時間はあるか?」
「鍾離様。どのようなご用件でしょうか」
望舒旅館の露台にて、いつになく真剣な顔で鍾離がそう言っていた。一体どのような用事なのだろうかと魈も身構えるのは、ごく自然な事である。
「俺を頼って欲しい」
魈は真剣に鍾離の目を見て言葉を待ったのだが、耳から入ってきた至極単純な言葉が、脳内で処理できずにいた。
「…………は? え、えぇと、鍾離様以上に頼りになる方はいないと思いますが……」
「違うな、甘えて欲しい」
「甘え……?」
「ううむ。どう言えば魈に伝わるのだろうか。何か困ったことはないか?」
「いえ、特には……」
鍾離の意図が全く掴めない。鍾離は尚も考え込んでしまっているので申し訳なく思ってしまう。しかし、鍾離に期待されていることが、全くもってわからないのだ。
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