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    遭難者

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    遭難者

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    玉蘭と木蓮のはなし
    玉蘭はハクモクレンを指すみたいですが…薄目でお願いします 焦

    #魔道祖師
    GrandmasterOfDemonicCultivation
    #忘羨
    WangXian

    「藍湛、知ってたか?玉蘭は東贏で木蓮と呼ばれているそうだ。昔、師姐に教えてもらったんだ。」


    まだ寒さが残る季節。相変わらず美味い天子笑を飲みながら、ほころび始めた白い花弁を見上げる。




    『──阿羨、玉蘭のことを東贏では木蓮というらしいの。』




    そう教えてくれた師姐を思い出す。
    あれは、雲深不知処の座学に参加する少しまえだっただろうか。花の名前をひとつ知ったことで何故そんなに嬉しいのか当時は不思議だったが、あまりにも嬉しそうに笑う師姐見ているとこちらも幸せな気分になったのを覚えている。
    今ならあの時の師姐の気持ちが少しわかる気がする。


    『──違う花なのに、同じ木に使われるなんて不思議ね。』


    「蘭」陵と「蓮」花塢の二つの違う花の名を持つ木がある。まるで両家を繋ぐように感じたのだろうか。普段なら気にならない些細なことに、何やら運命のような縁を感じて嬉しく思ったのだろう。
    いつも優しく俺達を包んでいてくれたけれど、師姐だって幼い少女だったのだ。あの時の師姐は恋をしていたのだと、今ならわかる。


    「木に咲く蓮とは何だか妙だけど、雲深不知処で蓮を見られるとは思ってなかったから、何だか嬉しいな。」


    自分もまた、取るに足らないものに不思議な縁を見出だし嬉しくなっている。藍湛の大切な場所に、自分の大切なものがあったようで何だか嬉しくなる。もう幼くはないのに、こじつけだとわかっているのに浮かれてしまうのだから…恋とは不思議で恐ろしい。


    「一歳から、これでやっと三歳に認めてもらえるかな?」


    師姐と…江澄と…共に過ごせていた時のことを思い出す。三人が最後にそろった時のことは、できるだけ思い出したくない。

    木に咲く蓮を見上げながら、水に潜り蓮を仰ぎ見たあの頃の雲夢が目に浮かぶようだった。この世に戻ってきて見ることの出来た故郷は、育った故郷とは違うものだけれど、水辺の形は変わらないし、街並みにも懐かしさを感じたのは江澄ができうる限り昔の雲夢に近づけて再建していたからだろう。

    もう一度、行ってみたいと思ってしまう。

    俺の帰る場所は藍湛の隣だ。けれど、やはり故郷への思いは無くなることはない。


    「魏嬰、夏になったら雲夢に蓮を見に行こう。」


    ここにも蓮の花がある。ここにも故郷があるのだと思いたかったのに、逆に郷愁にかられたのを藍湛に見破られたのだろう。
    江澄とは馬が合わないのに、そう誘ってくれる藍湛の声が優しい。


    「蓮の実も、茎のついたものを取ってこよう。街には茎つきは売っていないから。」

    「お!藍湛、お前よく知ってるな!蓮の実はやっぱり茎がついたものに限るよな!」

    「………」

    「……?…藍湛?」

    「…………」

    「何だよ不満そうな顔して!」

    「…していない。」

    「してるよ!なになに?何で拗ねてるんだよ。」


    表情はまったく変わっていなかったが、不満を懐いているのが手に取るようにわかる。この世に戻り、新たに出来た俺の特技のひとつだ。


    「…拗ねているように見えるか?」

    「見える!急にどうしたんだ?」

    「………自分で考えなさい。」

    「………」

    「………」

    「ぷはっ!またかよ!何だ?ってことは俺がまた何か忘れてんだな?」


    こちらに戻ってきた時と同じことを言われてしまった。けれど、あの時は出来なかった技を今の俺は使えるのだ。


    「あーもー!俺が忘れっぽいの知ってるだろ?教えろよぉ~、藍湛~。」


    袖を引き、上目使いで見上げれば、耳たぶがうっすらと紅く染まる。


    「…自分で考えなさい。それか、夏まで待て。きっと思い出す。」

    「えー。夏ってことは…さっき言ってた雲夢に関することか?う~ん、俺が雲夢に誘ったことは覚えてるぜ?まさかお前から雲夢に誘われる日が来るとは思ってなかったなけどな!」


    この世に戻ってきて、思いがけず一緒に蓮の花を見たけれど、きっと今の二人で見る蓮はあの時よりずっと美しいに違いないだろう。
    ここの木に咲く蓮だって、座学の時は美しいなどとは思う所がきっと見てもいなかった。
    今から楽しみで仕方ないが、夏までこんなことでモヤモヤしてるなんて絶対に嫌だ。


    「夏まで待ってたら、何を知りたかったも忘れるに決まってる!なぁなぁ。藍二哥哥~、羨羨に教えてよ。」


    袖を掴んだまま距離をつめ、膝を擦り付ける。夏までなんて待てないから、今夜はどんな色仕掛けを使ってでも絶対に吐かせてやる!


    柔らかい風が流れ、花弁が優しく笑うように揺れた気がした。



    おしまい
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